レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

話虫干 殿さまの日 八雲

2012-08-24 15:27:27 | 
小路幸也『話虫干』
 新刊。
 本の内容を変えてしまう「話虫」、それに対抗して物語を守る使命を与えられた図書館員の青年糸井馨。彼と仲間たちは漱石の『こころ』の中へ潜入する。糸井は、「先生」(まだ青年だけど)や「K」に接して、死なせたくないと思い、でも名作を軌道修正しなくてはならない使命とのジレンマに悩む。
 なぜか「K」の妹など登場し、漱石本人、果てはホームズまで。
 オーバーラップさせまくった同人二次創作のようだと思うと妙に親しみのわいてくる趣向である。
 この作家は、連作短篇集『リライブ』でも、『こころ』のハッピーエンドバージョンのような話を書いており、愛着の強さが伺える。
 私自身は『こころ』に特別な思い入れがあるというわけではないが、悲劇に終わった物語に対して作品として満足はしている一方でめでたしエンドのバリエーションも見てみたいという気持ちはよくよくわかる(いま頭に浮かぶのは『間の楔』)。
 ところで、本の中身を変えてしまう存在を退治するという設定は、竹本泉『あかねこの悪魔』をもちろん思い出すのだけど、この小説では「話虫」の正体はわからない。

星新一『殿さまの日』
 新潮文庫、でもいまは出ていない本。
 表題作は、ごくふつうの殿さまの有り様を描いている。決まりきった日常で、たとえやる気があってもそれがかえって幕府に睨まれる元になってしまうので無気力化して、じっとおとなしく平凡な人生を終えるしかない。
 ほか、幕府高官の何気ない一言から疑心暗鬼になって堂々巡りをくりかえす大名家臣たちとか、仇討ちの無意味さを逆手にとった珍商売とか、吉良サイドから見ての「忠臣蔵」への憤懣等。
 面白い時代短編集である。また出てもいいのに。

『小泉八雲コレクション 虫の音楽家』 ちくま文庫
 新刊というわけではない。図書館の文庫棚で目についた。夏らしいものを読むのもいいかということでラフカディオ・ハーン。
 だいたいは日本の虫や植物についてのエッセイ。『日本海に沿って』に出てくる、筆者が出雲の伝説としてきいたという、赤ん坊が父の過去の罪を言い当てる話は、漱石『夢十夜』第三夜と共通点がある。元ネタが重なるのだろうか。
 『焼津にて』で、ギリシア神話のヘーローとレアンダーみたいな話を筆者が知って驚いている。ギリシアのは、男が女との逢引のために海を泳ぎ渡るのであるが、日本のそれは女のほうが出かけていくのだ、これはたいていの人がびっくりだろう。
 

コメント (4)
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