日々の感じた事をつづる
永人のひとごころ
こころの除染という虚構37
心の除染という虚構
37
市長は「どこよりも先に小国小をきれいにしてやった」と言う。コンクリートも除染したし、いろいろやったのにって、それで何が不満なの?って、あたし、これ以上、文句言わせないよ、という雰囲気をすごく感じた」
本来なされるべきことは一刻も早く汚染のない場所に子供を移すことなのに。
除染が口封じの策とされることに耐えきれず、敦子は教育委員長に直接訴えた。
「私たちが求めているのは、校庭をきれいにすることではないんです。表土除去は大事かもしれないけれど、そんなことをしなければならない場所で子供たちが生活するのが嫌なんです。全校生徒57人の小さな学校です。小国小全員を、違う場所に移してほしい。集団疎開っていうのが昔はあったのですから」
敦子の切なる願いはまたも空中で瓦解する。
「伊達市の方針が不満なら、伊達市を諦めてほしい。市として子供を移動させることは考えていない」放射能のないところで子どもたちを生活させたいという、親としてだけでなく、人として当たり前の望みに対し、伊達市は聞く耳を持たないどころか、出て行けと言う。
なぜ当り前のことが通らないのか。動けば動くほど訳の分からないものにぶち当たる。敦子の願うのはただ一つ。
「マスクなんかしなくて良くて、ソフトボールをやめなくても良くて、砂遊びもできるような、そういう環境に、子どもを連れて行ってあげたい。それだけなんです」
長男の一希には夢中になっていたソフトボールを泣く泣くあきらめさせた。子供の望みを断つという、身を切るような辛さを市長にもわかって欲しかった。
子どもを守りたいという切なる思いはどこにも届かない。
「私怖かった。わからないものに包まれてすごく不安で、直ちに影響はないとしか言われない。じゃあ、普通に生活していて、何かあった時にだれか責任を取ってくれるの?私誰も取ってくれないって、わかったんです。そういうのが一番怖かった」
かけがえのない自分の子どもが、傷つけられることを想像しただけで、到底、尋常な精神で等いられない。「万が一子どもに何かあったら、あたしは大丈夫なのかって考えました。あたし、自分を物凄く責めると思う。平気でなんかいられない。あと後になって後悔したくない。
それだけなんです。そのために出来るだけのことをしたい。それしかできないから。
5月末、伊達市は次々に子どもへの対策を発表した。
26日発行、「だて市政だより」で市長が、『市内全小中学校、幼稚園、保育園の表土剥離、プールの清掃除染』を、30日には市長会見で『教育施設にエアコン設置、子どもの放射線対策、10億円を専決決済』と発表。
市長は紙面でこう訴える。
『放射能の健康被害のおそれと、 外で遊べないことによるストレスを心身の健康という観点から考えた時、私は後者の心配が大きいのではではないかと考えておりますので』
市長が「子どものため」と進めていく方策への敦子の違和感はますます大きくなる。 続く