yoshのブログ

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曲江、杜甫

2012-08-19 05:44:07 | 文学
盛唐の詩人 詩聖・杜甫の漢詩です。「曲江」という二首の作品の「其の二」で、「古稀」の由来となった七言律詩です。

  曲江   其二
 朝回日日典春衣
 毎日江頭尽酔帰
 酒債尋常行処有
 人生七十古来稀
 穿花蛺蝶深深見
 点水蜻蜓款款飛
 伝語風光共流転
 暫時相賞莫相違

朝より回(かへ)りて日日(ひび)春衣を典(てん)し、
毎日 江頭(かうとう)に酔ひを尽くして帰る
酒債尋常 行く処に有り
   人生七十 古来稀なり。
   花を穿つの蛺蝶(きょうちょう)は深深として見え、
   水に点ずるの蜻蜓(せいてい)は款款として飛ぶ。
   伝語す 風光 共に流転して、
   暫時 相賞して 相違ふこと莫(なか)れと


「訳」

朝廷を退出すると、毎日春の衣服を質に入れ、
 曲江のほとりで泥酔して帰る。
  酒代(さかだい)の借金は普通のことで、行く先々にある。
  この人生、七十歳まで長生きすることは昔から滅多にないのだから、
  今のうちにせいぜい楽しんでおきたいのだ。
  花の蜜を吸うアゲハチョウは、奥のほうに見え、
  水面に尾をつけて卵を生むトンボは、ゆるやかに飛んでいる。
  私は自然に対してこう言づてしたい、
  「春の風光よ、私とともに流れゆき、暫くの間このよい季節を楽しみ合う
  ようにしよう」と。 

この詩は杜甫47歳の作、当時、左拾遺という職にありました。彼は生真面目な性格でしたので剛直に諌言してしまい、皇帝粛宗からうとまれて次第に酒でうさをはらすようになりました。「どうせ人生は短い、せいぜい楽しくやろう」という、杜甫には珍しいデカダンな気分が見られる作品です。老境を想像して賦したのでしょう。
 
この詩からは、杜甫の官吏としての生活ぶりと飾らない人柄が伝わってきます。「古稀」の由来となった詩ですが、杜甫は758年に59歳で病没しました。

    石川忠久 「NHK漢詩紀行」 日本放送出版協会
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