yoshのブログ

日々の発見や所感を述べます。

勝負の機微

2010-10-11 08:42:04 | 将棋
将棋の河口俊彦七段は「将棋ペンクラブ」の初代会長をつとめ、将棋のプロ集団である「日本将棋連盟」という外部の一般社会からは隔絶した村社会を、内側から見た多くのエッセイを書いています。そこから「勝負の機微」と題した文中のエピソードを紹介します。
ある時、若手棋士たちとゴルフをやった。そのかえり、渋谷でうまいものを食べようと話がまとまり、以前から知っている、魚を食べさせる店に寄った。その折、ふと思いついて、若手棋士のA君に「タイトル戦で旅館で対局する時、係のお手伝いさんがつくだろ。その人にチップを渡したかい。」と聞いた。A君は「いいえ」とけげんな顔である。「着物の着付け、その他いろいろと世話になるだろ。お礼はするもんだよ」A君は今度からそうしますとうなずいた。
それからしばらくして、若手棋士のB君、C君と喫茶店でいっしょになった。ちょうどよい機会と、同じことを聞いた。答は同じく「渡していません」であった。A君に言ったのと同じことを話すと、両君はうなだれ「教えてくれればよいのに」と呟いた。知らぬばかりに、つまらぬことで恥をかいた、と後悔しているようであった。ついでに言えば関西のD君は、初めて
タイトル戦に出たとき、誰かがチップのことを教えた。するとD君は、自分の名入りの扇子を
チップのかわりに渡したそうである。
 こうして比べてみると、みんな優等生というレッテルをはられているが、それぞれ感性の違いが表れて興味深い。「次から気を遣えばよい」で、すますA君と、反省するB,C君とでは将棋の考え方も違うのではないか。それは、どちらが大成する、という問題ではないけど、勝負に対する辛さ、という面で違いが表れるような気がする。
 チップは渡さなければ渡さずにすむものである。日本ではそうなっている。そして渡すにしても、多くても少なくても馬鹿にされる、さらに渡す人とタイミングもある。まったく些細な
ことながら、人づきあいの機微といえるかもしれない。
 著者はこのように結んでいました。

               河口俊彦著 「覇者の一手」 NHK出版
コメント
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