「沸いた」「抜いた」とは何のことかお分かりですか。江戸風の洒落(しゃれ)です。風呂屋の入り口に置いてある板で表に「わ」の字、裏に「ぬ」の字が書いてあります。<o:p></o:p>
表をみると「わ板」すなわち「沸いた」ですから営業中。<o:p></o:p>
裏を見ると「ぬ板」すなわち「抜いた」ですから準備中を意味します。<o:p></o:p>
このような粋な表示が今もあるのは千住の湯屋(風呂屋)だそうです。<o:p></o:p>
千住は、現在、東京都の荒川区にありますが、江戸時代には日光街道の起点であり、松尾芭蕉の「奥の細道」の旅が始まった所です。<o:p></o:p>
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行く春や鳥啼(な)き魚(うを)の目は泪(なみだ)<o:p></o:p>
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また、見送りに来た弟子達を鮎の子に見立てて次の句も作りました。<o:p></o:p>
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鮎の子の白魚送る別れかな<o:p></o:p>
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「奥の細道」の「矢立の句」としては、「行く春や」の句のほうが格調高いと芭蕉は考えたのでしょう。「奥の細道」にはこちらが採られています。<o:p></o:p>
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さて、食事処だと「商い中」とか「準備中」という表示が一般的ですが、「沸いた」「抜いた」は湯屋にだけ使用できる面白い表示です。落語で言えば、よく考えて「はた」と分かる「考え落ち」のような趣があります。<o:p></o:p>