拙稿では、一般に哲学という人間の営みを、その外側、というか、裏側(メタ側?)から、生物学的かつ工学的に考えていくことになります。つまり哲学的問題に悩んでいる人間の肉体とその脳、の物質的メカニズムと情報処理システム、そして地球上にそれを生み出してきた群棲動物としての人間集団の生態とその進化のプロセスなどについて注目します。人間というシステムを、脳を含む人体を生存環境の中でいかに効果的に設計変更していくかというDNA(正確にはゲノム)繁殖戦略のゲームの解のひとつ、とみる見方です。いわば、典型的な科学的アプローチですが、この方法を人間の感情、認識、あるいは言葉という現象、科学そして哲学という現象、に素直に当てはめていくと、いままで解決不可能とみえた諸問題がすっきり解けていく可能性があります。
さらに科学的アプローチの対象を哲学という観察者の主観に絡んだ現象とすることから、ふつうの科学のアプローチを超えて、いわゆる主観客観問題に切り込んでいくことができます。つまり自我問題のような観察者と観察対象との自己包含関係の問題を自然に解決していけることが期待できます。これは科学全体を、観察者と観察対象の関係がつくる二元論の謎から解放し、精神と物質の両方の難問を同時に片付けるという一挙両得を狙える可能性があります。