とにかく哲学は最高の学問でした。優秀な若者は皆、哲学者を目指したそうです。逆に哲学を勉強していれば、優秀な若者だと思われたわけですね。
しかし筆者が高校生になったころ、一九六〇年代はもう科学の時代でした。一九六一年には、人類で始めて宇宙を飛んだソ連の宇宙飛行士が「地球は青かった」と言いました。一九六九年にはアメリカの宇宙飛行士が月の地面を歩いていました。そのころから世界中の生化学者はもうDNAの研究を始めていました。それでもまだ、哲学はなにか科学では解明できないもの、人生の深遠なもの、を代表する学問と思われていました。今から思うと、その頃が、哲学の終りの始まりだったのですね。