次のようなSF的設定を考えてみましょう、私のこの身体が、眠っているうちに異星人に手術されてしまって、脳は異星人の宇宙船のカプセルに移されてしまいました。脳の代わりに頭蓋骨の中に無線送受信機を埋め込まれた私の身体は地球上の私の家に戻されますが、運動神経と感覚神経を無線機に接続されて、宇宙船内に置かれたカプセル内の脳と電波回線でつながっています。そのとき、自分の家のソファに座った私が目の前のリンゴをむいて食べて、おいしいと感じても、それは宇宙船にあるカプセルの中の脳がそういう神経活動をしているということではありませんか? そういうときも、この人体が私なのでしょうか? さらに、異星人が、ますます実験熱心になって、私の記憶を消去してから、私とは別の人間、X君の頭蓋骨の中にさっきの無線送受信機を移設したらどうなるでしょうか? 私はX君に乗り移ってしまって、その肉体を自分だと思うようになるわけです。だって、記憶は全部X君の持っていた記憶データに置き換えられているし、周りに見える風景は、X君の両眼で見ている風景だし、私がつねって痛い頬っぺたはX君の頬っぺたなのです。そのX君が、まさに、今この私だと思っている肉体なのかもしれません。そんな馬鹿な! と笑い飛ばすSFマンガの世界です。
しかし、そうでないという証拠はありません。異星人にそういう変なことをされていない、という保証はありません。私たちの経験から推定すると、その確率は無視できるほど小さいだろう、と思えるだけです。