私たち人間にはだれにも明日がある。明日はいらない、必要ない、といっても明日はあってしまう。それは私たちが言葉を話す動物だからです。
私たち人類は身体の中に言語を作り出す機構を持っています(拙稿18章「私はなぜ言葉が分かるのか?」)。それは脳に備わった器官であるといえますがそれを使わずには人間は生きられません。マグロが泳ぎ続けないと窒息してしまう(ラム換水呼吸という)ように、人間は生きている限り言葉を使い続けるしかありません。その器官が私たちの前に明日というものを作り出す。モグラが巣穴の中だけで生きるように、自分の身体が作り出したその明日という現実感覚の中を私たちは生きていきます。
空がなくては鳥が生きていけないように、海がなくてはクジラが生きていけないように、明日がなくては人は生きていけません。仮に今日死ぬことが分かっていても、私たちは(人あるいは自分に)明日を語ることしかできないでしょう。
(28 私はなぜ明日を語るのか? end)
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