新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

ビュールレ・コレクション「至上の印象派展」九州国立博物館

2018年06月08日 | 美術館&博物館

梅雨空とは真逆の爽やかな展覧会が、九州国立博物館で開催されています。
第1次大戦後、ドイツ人、エミール・ゲオルグ・ビュールレは家族と共にスイスに帰化しました。武器商人として巨大な財をなし、わずか20年間に世界でも屈指のプライベート・コレクションを築き上げました。今回は、
その中から64点が展示されています。


右の少女は、ルノワールの『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』。父のダンヴェール伯爵はユダヤ系の裕福な銀行家で、この時イレーヌは8歳でした。この絵は第2次大戦中はナチスのゲーリングに所有されていましたが、戦後イレーヌに返されました。しかし3年後にビュールレが競売で入手しています。彼はスイスで武器製造会社を経営し、連合軍側にもナチスにも武器を売って巨万の富を築いていました。
絵画史上最強の美少女・・・のもう一つのタイトルは『可愛いイレーヌ』です。聡明で知的で品格のある無垢な少女の眼差しには、どこか来たるべき運命を見つめているような・・・そんな胸騒ぎも覚えます。
実際、長男は第1次大戦で戦死、娘、孫、妹らはアウシュビッツで命を落とし、イレーヌも2度の離婚を経験しました。
  
この『イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢』は、数年前にチューリッヒに行ったときには見ることはできませんでした。というのは、2008年、この美術館が窃盗団により4点もの印象派の絵を盗まれ、セキュリティの問題ありという事で開館が規制され、条件付きで月1日しか入館が許されていなかったからです。

チューリッヒに行ったのに観ることができなかったその絵が、自分のすぐ近くまでやってきたという事の方が奇跡とも思えます。この絵とモネの睡蓮に限ってカメラOKというおまけ迄ついていたのは何とラッキー!

展覧会は、肖像画、ヨーロッパの都市、19世紀フランス絵画、印象派の風景、人物、セザンヌ、ゴッホ、20世紀初のフランス、モダンアートの9章に分かれ、最後にモネの睡蓮で締めくくられています。


モネの晩年の大作《睡蓮の池、緑の反映》は、ビュールレがモネの息子から直接買ったもので、今回初めてスイスから国外に出たという貴重な作品です。

私が好きだったのはセザンヌの《赤いチョッキの少年》です。やっぱりセザンヌはいいなぁ~。この絵は、窃盗団に盗まれた4点のうちのひとつです。
数年がかりで4作品が無事取り返されて、今回の展覧会ではすべて展示されました。巨匠4人4点の作品の盗難は、ヨーロッパ史上最大の美術品盗難事件といわれました。

2015年には完全に閉館され、20年にはチューリッヒ美術館に移管される事が決定したので、今、世界数カ所を回っているようです。

この博物館らしい常設会場も見逃せません。企画展を見終えて、常設展示をゆっくり見て回るのもまた楽しいものです。

九州国立博物館は、太宰府天満宮の境内から山の斜面を長~いエスカレーターで上ったところにあります。外人観光客はほとんどが天満宮止まりのようで、参道はいろんな言葉が飛び交っています。土産物店の内容も外人観光客向けになっている気がします。
境内の楠の巨木、もこもこと盛り上がる葉、今が一番緑の美しい時です。

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