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クラウドにおける電子書店

『アマゾン契約と電子書籍の課題』より

クラウドにおけるサーバーの区画と管理

 ところで、出版者が著作権者から送信可能化の許諾を得ている場合、送信可能化の実行主体であるべきだということは、出版者が自ら膨大なサーバーを用意し、その中に電子書籍コンテンツを記録し、それを管理して送信可能化を行なう場合だけを指すものではない。クラウドの時代にあっては、サーバーの所有と利用の分離が一層生じます。第三者をしてサーバー管理を実行させるという方法もあります。むしろ実際には、後者のほうが多いでしょう。なぜなら、サーバーの管理には出版における編集等の技術ないし能力とは異なるIT技術等の別の能力が必要だからです。本件契約もほとんど暗黙のうちにアマゾンのサーバーによる管理という方法を前提としています。今「アマゾンのサーバー」と言いましたが、送信可能化の許諾を受けている出版者がたとえアマゾンサーバーを利用したとしても、主体的に自動公衆送信を実行するならば、それは、出版者によるアマゾンサーバーのクラウド的利用であり適法です。一個のサーバー(物理サーバー)を複数個のサーバーにソフトウェア的に分割し(論理サーバー)、異なる主体が利用する、仮想化という技術を汎用しているだけです。そして、遠くから利用する者(この場合の出版者)に対して固有の領域が与えられているとき、その領域を完全支配できるのは、サーバーの当該領域を使って出版のための送信を行なう支配権を持つ出版者ということになります。つまり、たとえハードとしてのサーバーの所有者が誰であろうと、当該電子書籍コンテンツが記録されたサーバー領域が出版者のコントロール下にあればクラウド的利用による出版者の送信可能化です。逆にアマゾンのコントロール下にあれば、そのサーバーにある電子書籍コンテンツは、アマゾンによる送信可能化状態と言わざるをえません。もし後者なら両者間で再許諾が必要になる(しかし、再許諾の権限をもつか否かはまた別のこと)のはすでに述べてきたところからお分かりと思います。話を整理してみましょう。

クラウドにおけるリクエスト情報

 決済から電子書籍コンテンツの送信に至る過程で、アマゾンから出版者に「送信して下さい」(というリクエスト)を送るのは、購入したユーザーに対する電子書店の義務であり、販売を許している出版者に対する義務でクラウドにおけるリクエスト情報もあります。

 電子書店のその義務の内容には、電子書籍コンテンツを送信可能化している主体である出版者に対し、少なくとも当該「電子書籍を特定」する情報と「送信先を特定」する情報を送る義務が含まれます。

 この情報のうち、後者が、ユーザーの端末アドレス(端末機1台ごとに割り当てられているIPアドレス)であることはたしかですが、この他に端末を特定する番号がなければならないと思います。なぜなら、当該ユーザーのアドレスに対して無条件で無尽蔵に当該電子書籍を再送することはできないからです。後述するようにアマゾンですらこのような再送は想定していません。実は出版者がオンライン出版全体を視野に入れたときには、端末メーカー任せにできない問題の一つだという点だけは指摘しておきます。

 この他に読者情報、すなわち、ユーザーの名前、年齢、住所、職業、性別等々まで送るべきか否かは、アマゾンと出版者との間で取り決めるべきものです。少なくとも、ユーザーとアマゾンとの間で決済に至るやりとりが直接に行なわれるとはいえ、ユーザーの上記個人情報をリクエストとともに出版者に伝えることが直ちに個人情報保護にもとると断ずる根拠はありません。それは、販売に際し一定の情報が出版者にも伝えられることが予め開示されていれば、個人の許諾による開示とする余地があるからです。

 いうまでもなく、リクエストおよびそれに伴って適法に開示され、出版者の支配下にある最小限の情報の保持は、出版者の権利です。販売契約の中に明文による合意がなくてもそう解釈しなければなりません。もし電子書店との間でそのサーバーを借りる契約をするならその中に注意深く明記すべきです。もちろん、クラウド利用における領域の性質からすれば、明文規定がないときも特段の事情がない限り領域利用者の権利と解釈しなければなりませんが、明文を持たないときは紛争リスクが生じると覚悟すべきです。

 したがって、出版者には、アマソンとの契約終了に伴って、電子書籍コンテンツデータを出版者領域からすべて引上げることができる権利があります。この点につき、アマゾン契約は直接に触れていません。アマゾン案では、アーカイブ的な保存ができるとされているのでむしろ否定する趣旨だろうと思います。サーバーを借りる際には、その点を契約書上ではっきりさせておくべきです。
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