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原発事故の裏で深刻化 太陽光発電の乱開発問題

『文藝春秋オピニオン2018年の論点』より

福島原発事故以降、環境にやさしい電源として普及が進められてきた太陽光発電に疑問が持ち上がっている。

太陽光発電は災害に強い分散型電源であり、エネルギーの自給率向上や地域経済の活性化にも寄与するとして、もっぱらプラス面が強調されてきた。しかし、収材を通じて目撃した実態は、そうした好イメージとはかけ離れたものだった。

八ヶ岳を望む山梨県北杜市の高原地帯でいま、環境破壊、が深刻化している。太陽光発電のパネルを敷き詰めるために山林が丸裸にされ、別荘地の至近距離では、重機がうなりを上げて土を掘り返している。完成した発電設備のすぐそばの別荘で暮らす住民は、反射光や気温の異常な上昇に苦しめられている。

経済産業省の調べによれば、2017年3月末時点までに導入された太陽光発電設備約271万件のうち、圧倒的多数を占めるのが、電気事業法で「低圧」(出力規模50キロワット未満)に分類される小規模なタイプだ。

「アンダー50」といわれる50キロワット未満の設備約269万件のうち、主に住宅の屋根に設置されている10キロワット未満が約224万件。残る約45万件の大半が、事業目的で地上に設置きれた「野立て」タイプと見られている。

経産省は10月12日、新たに改正した固定価格買取(FIT)制度に基づく個別事業計画の認定情報を初めて公開した。

今回、明らかにされたリストから北杜市内での太陽光発電設備の認定状況をピックアップして調べたところ、アンダー50が97%を占めていた。49・9キロワットといった基準すれすれの設備も目立つ。同じ場所に建てられていて、所有者の名義が同じである場合も多い。

「その多くは規制逃れを目的としたものだと見て間違いない」

地元在住で、「太陽光発電を考える巾民ネットワーク」の弘旧山欠’Lさんがそう断言する。太陽光発屯の乱開発を監視する弘田さんは、「その多くは法令で禁止されている『分割案件しに該当するのではないか』との疑いを強めている。

分割案件は、実際には出力が50キロワットを超える事業でありながら、50キロワット未満の設備に小口分割して申請しているものをいう。電柱が立ち並んでいる様子などから見分けることができる。

50キロワット未満である場合、設備の点検など保安業務に従事する電気主任技術者の選任も、保安規程を作成する必要もない。事故が起きても、監督官庁に報告する義務もない。

国が定めた技術基準に設備が適合している必要こそあるものの、第三者のチェックが入らないため、安全性に問題のある施設が建設される可能性が高い。

実際、アンダー50の施設では、太陽光パネルを載せる架台を、工事現場で仮設用足場として用いられる単管パイプで組み上げている例が多い。基礎工事がずさんで、パイプを地面に突き刺しただけのものも珍しくない。

「強風にあおられた場合、パネルが単管パイプとともに吹き飛ぶ恐れがある」(太陽光発電設伽に詳しい設計会社)クリーンエネルギーの信頼が揺らぐ

いったいなぜ、ずさんな施工が横行しているのか。その原因として、行きすぎた規制級和がある。

12年7月のFIT制度導入と前後する形で、太陽光発電施設に関してさまざまな規制緩和が実施された。

とりわけ問題物件の乱立につながったのが、11年6月の電気事業法施行規則の改正だった。電気主任技術者の選任や保安規程の届け出を必要としない「一般用電気工作物」の対象となる太陽光発電設備について、出力規模を従来の20キロワット未満から50キロワット未満へと大幅に引き上げたのである。

そして12年7月のFIT制度創設により、1キロワット時当たり40円(非居住用)という高額の売電価格が決められたことで、事業用太陽光発電のブームが全国に広がった。それまで太陽光発電といえば、住宅の屋根に載せて、余剰電力を売電する家庭向けが主流だったが、FIT制度創設を皮切りに、全国各地で投資目的の設備が乱立するきっかけになった。

FIT制度により、立地地域にも金が落ちるようになった。それまで無価値に等しかった山林や耕作放棄地が突然、金のなる木に化けた。土地を手放したり賃貸するだけでなく、自らも太陽光発電を手掛ける地権者が相次いだ。

 「長期不労所得型の資産運用。先行者メリットの大きい投資です」

 「驚異の高収入をお約束いたします」

インターネット上には、あたかもゼロリスク・高リターンであるかのような事業者による売り文句が並んでいる。

山林を皆伐しながら、C02削減をPRしている企業もある。

14年4月に分割案件の禁止に踏み切るなど、経産省は手をこまぬいているわけではない。15年8月に九州を襲った台風では太陽光発電設備が倒壊する被害が続出。太陽光パネルや架台が隣接する民家を直撃した。事態を重く見た経産省では、事故報告義務を従来の500キロワット以上から50キロワット以上に引きドげるなどの規制強化に転じた。

しかし、行政のマンパワー不足もあり、認定件数の大部分を占めるアンダー50に対する規制強化はほぼ手付かずの状態だ。分割案件禁止後も、時期をずらして申請するなど規制逃れは後を絶たない。

地方自治体の首長や幹部自身が投資していたり、地権者に首長の有力後援者がいることから、地元自治体も対策強化には及び腰だ。将来、解体廃棄物の扱いが大きな問題になる可能性も高い。

FIT制度が再生可能エネルギー導入拡大に大きく貢献したことは確かだ。ただ、このままの状態が続けば、クリーンなエネルギーとして原発や火力発電を代替するどころか、太陽光発電の信頼そのものが失墜しかねない。
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