未唯への手紙
未唯への手紙
ペソス対出版社
『ワンクリック』より
いずれにせよ、キンドルが衝撃だったのは事実である。キンドルの発表を境に、出版界の関心は「読者は電子書籍を望んでいるのか?」から「読者は今後、物理的な本を読みたいと思うのか?」へ移った。ジェフ・ベソスはキンドルで出版界を根底からひっくり返してしまったのだ。2010年12月の時点で、一部の大手出版社では、電子書籍が売上の10%を占めているー価格は(ードカバーの半分だというのに、である。つまり、登場からわずか3年で、一部の出版社においては、電子書籍が20%を占めるようになったわけだ。
ペソスは電子書籍に入れ込んでおり、損失覚悟で普及を進めている。電子書籍は大半を9ドル99セントという安売り価格で販売しているが、この価格では、1冊あたり最大で5ドルもの損失がでる。そこまでするのは、アマゾンのルーツとなった事業の未来は電子書籍にあると考えているからだ。だから、バーチャルな書棚に他社が足がかりを得られないようにして、この分野をりIドし続けようとしているのだ。
最近は、この価格戦略を続けにくい状況が生まれている。いままでベゾスは出版社に対する強い発言力を利用して、紙版の本と同じように電子書籍も安く仕入れようとしてきた。一方、出版社側には、電子書籍は安いものだと読者が思ってしまうのではないかとの恐れがある(恐れは現実になりつつあるかもしれない)。そのせいで電子書籍の卸売価格が安くなれば、出版社に利益など残らない。だから、電子書籍について新しい値付け方法を採用するところが増えている。新しい形は「エージェンシーモデル」と呼ばれ、紙の本と同じように出版社が電子書籍の小売価格を決める(12ドル99セント、14ドル99セントなど)。また、小売価格の70%は出版社の取り分とする。小売業者が割引販売をすることは自由だが、その原資は残り30%から捻出しなければならない。
ベソスは、この流れを止めようと手を尽くしている。2010年1月28日、エージェンシーモデルを提案するため、大手出版社、マクミランのCEO、ジョンーサージェントがシアトルのアマゾンを訪問した。アマゾンがいやならいままで通りのやり方でもかまわないが、彼のブログによると、その場合、アマゾンに提供する「タイトルは大幅に絞り込むことになる」と言ったらしい。それからI週間もたたずにアマゾンは、マクミランの本をすべてー紙版も電子版もIサイトから外すという対抗策に出る(例外として、他社がアマゾンを通じて販売しているものは残した)。
これはアマゾンの負けだった。ベソスはサージェントの要求を飲み、合意から1週間ほどでマクミランの本、すべてを復活させる。このような結末になった要因のひとつに、スティーブージョブズがエージェンシーモデルに合意していたことが挙げられるだろう。ベソスが折れないなら、出版社としては、アップルに乗り換えればいい状態だったのだ。これに対抗するように、アマゾンは、2010年10月、キンドルストアで著者が直接電子書籍を出版すれば、70%の印税を支払う仕組みを提案する(米国の場合、出版社が支払う印税は、25%が多い)。
いまのところキンドルは、電子書籍リーダー市場をりIドしている。調査会社のチェンジウェーブによると、2011年初頭、キンドルが47%の市場占有率でトップだった。これに32%で続くのがアップルのIPadである(iPadは電子書籍を読むだけの機器ではなく、高価である)。ソニーリーダーとバーンズ&ノーブルのヌックは5%と4%で大きく遅れている。
しかし、キンドルがいつまでリードを保てるのかは予断を許さない。アップルのiPadが登場するまで、電子書籍リーダーの市場はアマゾンのひとり勝ち状態だった。ほかにも、執念をもってがんぼるライバルがいる。白黒のキンドルにカラーのヌックをぶつけてきたバーンズ&ノーブルだ。2010年末、バーンズ&ノーブルはヌックカラーが史上最高のペストセラー商品になったと、どこかで聞いたような発表をしている。ヌックは、バーンズ&ノーブル以外に、ベストバイやウォルマートなどの量販店でも買える。バーンズ&ノーブルの発表によると、2010年のクリスマスには100万冊以上の電子書籍が売れたという。
出版社に圧力をかけて電子書籍の大幅割引を引き出そうとするベゾスにとって、もうひとつ、じやまなのがグーグルである。2010年12月、グーグルは、グーグルイーブックスというオンラインショップをスタートさせる。しばらく前からデジタル化してきた書籍を売ろうというのだ。電子書籍を読むデバイスはiPadからスマートフォンまで幅広く対応しているが、その例外がキンドルである。これは、グーグルの市場を制限することになるのか(キンドル人気が続けばそうなる)、それとも、他社の電子書籍もキンドルで読めるようにアマゾンが方針転換せざるをえなくなるのか(キンドルは独自フォーマットなので難しい)、どちらだろうか。
出版社はグーグルの書籍デジタル化プロジェクトに抵抗していたが、グーグルがエージェンシーモデルに同意したことを受け、提携するところが増えている。リアル店舗しかない書店も、これで自分たちも電子書籍が販売できるとグーグルの動きを歓迎。グーグルは、独立系書店が自社ウェブサイトでグーグルの電子書籍を販売してもよいとしているのだ。
グーグルは市場全体を占有しようとは考えていないと、書店各社はいまのところ見てい
「小売店になるのはグーグルのビジネスモデルにありませんから」
と指摘する米国書店協会CEOのオーレンータイチャーは、グーグルのおかげで、独立系書店がアマゾンに対抗できるようになるとも考えている。タイチャーはこう言う。
「技術のコストが大きく下がったので、国際的な巨大企業でなくても技術が使えるようになったのです」
リアル店舗で顧客に本をすすめてきた書店なら、オンラインの顧客に対しても新しい本を上手にすすめられるはずでもある。さらにタイチャーは続ける。
「適切な本を買い手にお渡しするのは我々の得意とするところです。本が大好きで知識も豊富ですからね」
これに対し、ペソスが情熱を燃やしているのは電子商取引である。ベゾスは今後もキンドルを進化させ、市場の頂点に居続けようとするだろう。汎用機器ではなく専用の電子書籍リーダーに集中するのもベソスの戦略である。電子インクなどの技術が使えるのも、この戦略があるからだ。電子インクは次のページを表示するのに紙の本をめくるのと同じくらい時間がかかるため、コンピューターには遅すぎて使えないが、長時間読んでも疲れないとか日の光があたっても読めるといった特長がある。ただ、今後もこの戦い方で行けるかどうかはわからない。競合他社が次から次へと市場になだれ込んできていることを考えると、当初のりIドをアマゾンが守れなくなる日が来ないとはかぎらないだろう。
いずれにせよ、キンドルが衝撃だったのは事実である。キンドルの発表を境に、出版界の関心は「読者は電子書籍を望んでいるのか?」から「読者は今後、物理的な本を読みたいと思うのか?」へ移った。ジェフ・ベソスはキンドルで出版界を根底からひっくり返してしまったのだ。2010年12月の時点で、一部の大手出版社では、電子書籍が売上の10%を占めているー価格は(ードカバーの半分だというのに、である。つまり、登場からわずか3年で、一部の出版社においては、電子書籍が20%を占めるようになったわけだ。
ペソスは電子書籍に入れ込んでおり、損失覚悟で普及を進めている。電子書籍は大半を9ドル99セントという安売り価格で販売しているが、この価格では、1冊あたり最大で5ドルもの損失がでる。そこまでするのは、アマゾンのルーツとなった事業の未来は電子書籍にあると考えているからだ。だから、バーチャルな書棚に他社が足がかりを得られないようにして、この分野をりIドし続けようとしているのだ。
最近は、この価格戦略を続けにくい状況が生まれている。いままでベゾスは出版社に対する強い発言力を利用して、紙版の本と同じように電子書籍も安く仕入れようとしてきた。一方、出版社側には、電子書籍は安いものだと読者が思ってしまうのではないかとの恐れがある(恐れは現実になりつつあるかもしれない)。そのせいで電子書籍の卸売価格が安くなれば、出版社に利益など残らない。だから、電子書籍について新しい値付け方法を採用するところが増えている。新しい形は「エージェンシーモデル」と呼ばれ、紙の本と同じように出版社が電子書籍の小売価格を決める(12ドル99セント、14ドル99セントなど)。また、小売価格の70%は出版社の取り分とする。小売業者が割引販売をすることは自由だが、その原資は残り30%から捻出しなければならない。
ベソスは、この流れを止めようと手を尽くしている。2010年1月28日、エージェンシーモデルを提案するため、大手出版社、マクミランのCEO、ジョンーサージェントがシアトルのアマゾンを訪問した。アマゾンがいやならいままで通りのやり方でもかまわないが、彼のブログによると、その場合、アマゾンに提供する「タイトルは大幅に絞り込むことになる」と言ったらしい。それからI週間もたたずにアマゾンは、マクミランの本をすべてー紙版も電子版もIサイトから外すという対抗策に出る(例外として、他社がアマゾンを通じて販売しているものは残した)。
これはアマゾンの負けだった。ベソスはサージェントの要求を飲み、合意から1週間ほどでマクミランの本、すべてを復活させる。このような結末になった要因のひとつに、スティーブージョブズがエージェンシーモデルに合意していたことが挙げられるだろう。ベソスが折れないなら、出版社としては、アップルに乗り換えればいい状態だったのだ。これに対抗するように、アマゾンは、2010年10月、キンドルストアで著者が直接電子書籍を出版すれば、70%の印税を支払う仕組みを提案する(米国の場合、出版社が支払う印税は、25%が多い)。
いまのところキンドルは、電子書籍リーダー市場をりIドしている。調査会社のチェンジウェーブによると、2011年初頭、キンドルが47%の市場占有率でトップだった。これに32%で続くのがアップルのIPadである(iPadは電子書籍を読むだけの機器ではなく、高価である)。ソニーリーダーとバーンズ&ノーブルのヌックは5%と4%で大きく遅れている。
しかし、キンドルがいつまでリードを保てるのかは予断を許さない。アップルのiPadが登場するまで、電子書籍リーダーの市場はアマゾンのひとり勝ち状態だった。ほかにも、執念をもってがんぼるライバルがいる。白黒のキンドルにカラーのヌックをぶつけてきたバーンズ&ノーブルだ。2010年末、バーンズ&ノーブルはヌックカラーが史上最高のペストセラー商品になったと、どこかで聞いたような発表をしている。ヌックは、バーンズ&ノーブル以外に、ベストバイやウォルマートなどの量販店でも買える。バーンズ&ノーブルの発表によると、2010年のクリスマスには100万冊以上の電子書籍が売れたという。
出版社に圧力をかけて電子書籍の大幅割引を引き出そうとするベゾスにとって、もうひとつ、じやまなのがグーグルである。2010年12月、グーグルは、グーグルイーブックスというオンラインショップをスタートさせる。しばらく前からデジタル化してきた書籍を売ろうというのだ。電子書籍を読むデバイスはiPadからスマートフォンまで幅広く対応しているが、その例外がキンドルである。これは、グーグルの市場を制限することになるのか(キンドル人気が続けばそうなる)、それとも、他社の電子書籍もキンドルで読めるようにアマゾンが方針転換せざるをえなくなるのか(キンドルは独自フォーマットなので難しい)、どちらだろうか。
出版社はグーグルの書籍デジタル化プロジェクトに抵抗していたが、グーグルがエージェンシーモデルに同意したことを受け、提携するところが増えている。リアル店舗しかない書店も、これで自分たちも電子書籍が販売できるとグーグルの動きを歓迎。グーグルは、独立系書店が自社ウェブサイトでグーグルの電子書籍を販売してもよいとしているのだ。
グーグルは市場全体を占有しようとは考えていないと、書店各社はいまのところ見てい
「小売店になるのはグーグルのビジネスモデルにありませんから」
と指摘する米国書店協会CEOのオーレンータイチャーは、グーグルのおかげで、独立系書店がアマゾンに対抗できるようになるとも考えている。タイチャーはこう言う。
「技術のコストが大きく下がったので、国際的な巨大企業でなくても技術が使えるようになったのです」
リアル店舗で顧客に本をすすめてきた書店なら、オンラインの顧客に対しても新しい本を上手にすすめられるはずでもある。さらにタイチャーは続ける。
「適切な本を買い手にお渡しするのは我々の得意とするところです。本が大好きで知識も豊富ですからね」
これに対し、ペソスが情熱を燃やしているのは電子商取引である。ベゾスは今後もキンドルを進化させ、市場の頂点に居続けようとするだろう。汎用機器ではなく専用の電子書籍リーダーに集中するのもベソスの戦略である。電子インクなどの技術が使えるのも、この戦略があるからだ。電子インクは次のページを表示するのに紙の本をめくるのと同じくらい時間がかかるため、コンピューターには遅すぎて使えないが、長時間読んでも疲れないとか日の光があたっても読めるといった特長がある。ただ、今後もこの戦い方で行けるかどうかはわからない。競合他社が次から次へと市場になだれ込んできていることを考えると、当初のりIドをアマゾンが守れなくなる日が来ないとはかぎらないだろう。
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