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TSUTAYA図書館問題 2015年10月

『クロニクルⅣ』より 2015年10月

『週刊朝日』が『週刊ダイヤモンド』と同じスタンスで、「『ずさんな選書』にCCCが反省」(10/2)、「『リアル図書館戦争』各地で戦線拡大」(10/9)、「『海老名ツタヤ図書館』内幕新たな疑惑に市民が激怒」(10/16)、「海老名TSUTAYA図書館ポリシーなき選書と驚愕のジャンル分け」(10/23)という記事を毎週発信し、最新号ではまさに「週刊ツタヤ図書館山口・周南市でも反対署名」(11/6)とあるので、まだ続いていくのだろう。これらの記事に併走するように、新聞などでも同様の記事が発信された。その一方で、小牧市は住民投票でツタヤ図書館は否決されている。

 【本クロニクルは一貫して、CCC=TSUTAYAと日販、MPDのジョイントによる大型出店などに対して批判してきたが、このようなマスコミのTSUTAYA図書館への一斉バッシングには違和感を覚える。これらのバッシングの背景にあるのは、まず公共図書館は「官」に属するもので、「民」にまかせるべきではないという「官雄民県」の考えが抜きがたく潜んでいるように思われるからだ。しかし拙著『図書館逍遥』でも示しておいたが、近代図書館史をたどれば、戦前は私立図書館の時代であり、出版物がそうであるように、「民」の領域に属していた。戦後の公共図書館、学校図書館にしても、それらはGHQ占領下に教育改革の一環として設置が推進されたのであり、内発的なものではなく、60年までは全国で公共図書館は800館で小規模なものだった。現在の3300館というバブル的増殖は90年以後のことで、そうした時代において、日本図書館協会、大学図書館科の教師たち、各地の教育委員会からなる図書館官僚たちが新たに形成されてきた。TSUTAYA図書館に向けられた一斉バッシングは、彼らの思考とまったく重なる地平から発せられている。しかし現在の社会状況から考えれば、公共図書館の一部の民営化は必然的な流れであり、そうした中で新しい図書館、図書館人が生まれてくるべきなのだ。それゆえにこのような一斉バッシングは、すべての図書館民営化の否定になってしまうことを危惧せざるを得ない。また最も問題なのは、市長や行政側が政治的パフォーマンスのために文化政策をスローガンとして図書館事業を利用し、市民に説明責任を果たすことなく、トップダウン方法でCCC=TSUTAYAを選んだことにある。しかも本クロニクルで既述しておいたように、元武雄市長のCCC誘致エピソードはまったくのフィクションだったという事実も明らかにされている。その絡みもあって、CCC子会社の社長に就任したと思われる」

海老名市立図書館で、TRCはCCCと共同事業体となり、中央図書館はCCC、有馬図書館はTRCが運営、2館の統一館長をTRCの谷一文子会長が務めていた。しかしCCCとの関係を解消し、今後共同で図書館事業は行なわないし、海老名市立図書館も離脱すると表明。

 TRCの石井昭社長はその理由として、図書館運営に関する理念の違い、コミュニケーションの不成立、個人情報の扱い方に関する意見の相違などを挙げている。

 【すでに04年からTRCは公共図書館の指定管理・業務委託事業に参入し、双方で450館近くを運営している。それゆえに今回のCCCとのジョイント、CCCをめぐる海老名市立図書館報道、小牧市の住民投票などにより、図書館事業におけるCCCとの提携を断念したと考えるべきだろう。もちろん図書館官僚たちとの板挟みになるのを避ける意味も含めて。

 〈付記〉これを書いたのは10月29日だが、30日になって、TRCが海老名市立図書館からの離脱表明を撤回し、今後もCCCと共同運営を継続していくことが明らかにされた。それは内野優市長の定例会見によるもので、所謂「政治的決着」であることをあからさまに示している】

『週刊東洋経済』(10/31)が巻頭特集「TSUTAYA破壊と創造」を組み、CCCの「企画会社」としての素顔、TSUTAYA図書館問題、増田宗昭社長への「独占直撃インタビュー」を掲載している。

 【〔5〕と〔6〕などのTSUTAYA図書館問題を背景にして、この「特集」が組まれたことは明らかだ。だがそれはともかく、増田社長自身も登場し、「俺たちはお化けなんだよ、本当の姿を見たことがない」というCCCの実像の簡略なチャートが提出されたことだけでも評価すべきだろう。これまでこのようなまとまった特集は業界紙でもビジネス紙でも、組まれたことがなかったからだ。「企画会社」としてのCCCは書店、レンタル事業のTSUTAYA、出版などのカルチュア・エンタテインメント、カード事業のCCCマーケティングなどの連結子会社49社を抱え、15年3月期は売上高2004億円で、前年比2・3%増となっている。これは6年ぶりの2000億円台の回復だが、11年に非上場化したので、詳細な業績数値は不明とされる。しかし特集の推定するところによれば、収益源の5割はFC料、直営店2割強、Tポイント2割強、インターネット1割強である。それはCCCが「マルチ・パッケージ・ストア」と呼ぶ複合型書店を対象とするFC企業であることを示している。カード、ネット、出版、図書館事業などにも進出し、様々に展開しているように映るけれど、その収益の7割強はTSUTAYAのFCと直営店事業によっていることになり、CCCは「お化け」ではなく、その「本当の姿」はFCとレンタル事業をコアとする企業なのだ。

 FCということでいえば、セブン-イレブンがトーハンをビジネスモデルとしてスタートしたように、CCCは日販の金融と流通システムの中にFCとレンタル事業を持ちこみ、成長してきたといえるだろう。そして出店においても様々な手法が駆使され、いくつもの子会社が絡み、FC事業そのものがロイヤリティだけでなく、多様な利益を生み出す仕掛けになっていると思われる。CCCの歴史は80年代のビデオレンタルの発祥とともに始まり、それは全国各地で無数に族生したが、CCCがサバイバルし、90年代にビデオ・CDレンタル業界の最大手に成長したのは、ひとえに日販との提携であった。日販はトー(ンに追いつき、追いこすために、書店は書籍雑誌より収益率の高いレンタルを導入するために、複合型出店を選択せざるをえなかった。また大店法の規制緩和と廃止によって、90年代以後の大型出店化も、CCCの成長に拍車をかけたのである。しかしその一方で、CCC=TSUTAYAの成長と反比例するように、出版物売上高はマイナスの一途をたどり、この20年間で1兆円が失われる状況を迎えてしまった。これが「縮小市場でひとり成長を遂げた」、「リアル書店では国内最大手」CCCのかたわらで起きていた事実に他ならない。

 そしてさらに補足しておけば、本クロニクルなどで指摘しておいたが、TSUTAYAの直営店にしてもFC店にしても、大型店としては書籍や雑誌を驚くほど売っていない。ちなみにこの特集で15年3月期の書籍雑誌売上高は804店で1212億円とされている。ということは1店当たり約1億5000万円、月商1250万円である。これでは書籍雑誌販売は赤字の店が多いと推測される。ただ代官山蔦屋書店は月商9000万~1億円だとされているが、紀伊國屋、ジュンク堂、有隣堂はいずれも1店舗当たりがそのレペルにある。したがって特集において、TSUTAYAの書籍雑誌マーチャンダイジングとしての「管理力」「展開力」「商品力」が写真入りで紹介されているが、実効力に関しては疑問を抱いてしまう。日販にしても、TSUTAYAの書籍雑誌販売で売上に見合う利益を上げているのだろうか。それゆえにCCC=TSUTAYAは「書店チェーン最大手」となっても、それはFC企業としての集積の結果で、それも単店における出版物販売状況がいかに危ういものであるかがわかるだろう。それでもCCCは16年も蔦屋書店とTSUTAYAを次々に開店させるという。その先には、CCCにしても、日販やDMPにしても、また出版業界にしても、何か待っているのであろうか】
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