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アフリカ社会 人類の誕生

『アフリカ社会を学ぶ人のために』より アウト・オブ・アフリカ  繰り返される「拡散」

一二○○万~六〇〇万年前まで、アフリカ類人猿化石は著しく乏しい。わずか、エチオピアのチョローラ、ケニアのサンプル丘陵、ナカリで大型類人猿化石が発見されているが、現生アフリカ類人猿と人類との最後の共通祖先像を推定するには断片的すぎる。一方、最初期の人類(猿人)には、オロリン・トゥゲネンシス(六〇〇万年前、ケニア)、サヘラントロプス・チャデンシス(~六○○万年前、チャド)、アルディピテクス・カダバ(五八〇~五五〇万年前、エチオピア)、アルディピテクス・ラミダス(四四〇万年前、エチオピア)が知られる。これらが互いに似たようなものであったとすれば、以下のような特徴をもっていたであろう。体格は雌雄ともにチンパンジー程度、犬歯が退縮し武器としての機能を失い、顕著な性差が見られない。二足性だったが、足の親指が横方向を向いて関節し、木登りに必要な把握能力を維持していた。そのため、足のアーチ(縦弓)がなく、親指で地面を蹴り出す力が弱かった。地上では二足歩行をおとなったが、樹上運動も無視できない頻度でおこなっていた。

四二〇万年前に登場したアウストラロピテクス属は、足の把握能力を失うかわりに足のアーチを獲得した。いっそうの二足歩行適応は、地上での活動時間と移動距離の増加を示唆する。しかし、二四時間を地上だけで生活することは無理だったのかもしれない。中新世中期以降、アフリカとユーラシアは陸続きであったが、猿人はアフリカから「拡散」できなかった。初期のアウストラロピテクスは東アフリカに限定され、アナメンシス(四二〇上二九〇万年前)、アファレンシス(三七〇~三〇〇万年前)が知られている。アウストラロピテクスは三〇〇万年前から南部アフリカに分布を広げた。南アフリカからはアフリカヌス(三〇〇~二五〇万年前)、セディバ(二〇〇~一八〇万年前)が知られている。これらの猿人の体格はチンパンジー程度、頭蓋容量はそれを若干上回る程度である。

更新世に世界は氷河期を迎え、東アフリカではサバンナが拡大した。この環境変化にともない、鮮新世の猿人から、巨大化した咀嚼器官をもち、食物処理能力を著しく高めた頑丈型猿人が進化した。一方で、東アフリカに奇妙な行動を始めた猿人が現れた。石器製作である。石器の使用痕が残された哺乳類の骨は、肉食動物の食べ残した死骸を解体する目的に石器が用いられたことを示す。最古の石器は二六〇万年前のエチオピアの遺跡から知られ、オルドワン石器と呼ばれる。最初の石器製作者候補とされているのは、エチオピアのアウストラロピテクス・ガルヒである。頭蓋容量は先行する猿人と変わらない。石器製作の開始には格段に大きな脳は必要なかったのかもしれない。

アウストラロピテクス・ガルヒ登場後、時間をおかずホモ・ハビリスが現れた。おそらくアウストラロピテクス・ガルヒから進化したのであろう。エチオピア、ケニア、.タンザニア、マラウイから知られ、棲息年代は二四〇~一四〇万年前である。頭蓋容量をはじめ、解剖学的特徴に変異が大きなことから二種説もあるが、筆者は、種内変異が大きい単一種だったと考えている。オルドワン石器を用い、頭蓋容量はチンパンジーの一・五倍以上あった。しかし、ホモ・ハビリスもアフリカを出ることはなかった。

一九〇万年前、東アフリカにホモ・エレクタスが登場した。ホモ・ハビリスに比べ、臼歯・顎が小型化する一方、脳と体格が大型化し、現代人的な体型も獲得した。咀聯器の小型化には、食べ物の質の変化と口腔外の食物処理が関係している。頭蓋容量は現代人の六割に達した。脳の拡大は食性の転換を示唆する。脳は大量のエネルギーを消費する。それを埋め合わせるため、栄養価が高く、かつ消化効率のよい肉食に依存し、エネルギーを消費する消化管を縮小したのであろう。一八○万年前から、ホモ・エレクタスはアシューリアン石器を作りはじめた。これは、対称性をもった両面加工の大型定型石器で、動物の解体をけじめさまざまな用途に用いられた。オルドワン石器とアシューリアン石器の段階をアフリカでは「前期石器時代」、ユーフシアでは「前期旧石器時代」と呼ぶ。

ホモ・エレクタスは二七〇万年前からユーラシアヘ広がりはじめた。人類最初の「拡散」である。更新世は、寒冷期と温暖期が繰り返し到来した時期であり、環境変動が、食料資源を求めて移動するホモ・エレクタスの地理的分布を広げる要因となったのだろう。その後も人類は、変動する環境に翻弄されるように、繰り返しューラシアヘ「拡散」した。
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