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組織としての政党

『民主主義の条件』より 政党組織  ヒーローなんていらない

組織としての政党

 政党を重要なものと考えるべき理由は、政党が政治における「組織」であり、個々の政治家にとっても政党を作るメリットが大きいと考えられるからです。組織であれば、政治家のみならず有権者を含めた多くのメンバーが、一定の目的のもとに協力することで、大きな成果を上げる可能性が期待できます。組織のリーダーのもと、メンバーが自分勝手な行動を取ることを抑制し、共通する仕事をメンバーに割り振って、分担して仕事をすることで、1人ではできないような仕事を成し遂げることができるからです。しかし日本の政党の多くは、個々の政治家がパラパラで組織として成立しているとは言えず、その潜在的な能力が発揮されていません。この第4章では、日本の政党にもフォーカスしつつ、確立された組織として政党が存在することに、どのような意味があるのかを考えます。

 政党がきちんとした組織として確立されることには大きなメリットがあります。それは、その意思決定が安定したものになるという点です。少人数ならまだしも、ある程度の規模の組織として意思決定を行うには、メンバーの合意を得るためにさまざまな手続きが必要になります。そして、組織として行った意思決定は簡単に変更することができません。だから、私たち有権者や政党に関わる関係者は、政党が掲げる組織的な目的--公約と呼ばれます--に期待することができるようになるのです。

 このような組織としての政党の確立は、日本の政党にとって大きな課題です。もし、政党が組織と呼べるものであれば、たとえば組織的な決定を経ずにリーダーが思いつきで発言をしたところで何の意味もないはずです。日本の多くの政党ではリーダーの思いつきの発言が政党の組織的な決定であるかのように扱われ、「公約違反」と問題にされたりもします。しかし、本当に公約を変えるなら、組織として手続きを行い、変更した理由を説明しなくてはいけません。その上で、十分な説明がされていないと判断する有権者は、次の選挙で違う政党へ投票することができるでしょう。

 組織といっても、そのメンバーが何の反対もなく必ず政党の決定に従おうとするわけではありません。選挙を考えると、候補者は個人として有権者にアピールすることを優先しがちです。有権者が望まない決定、たとえば消費税増税やゴミ処理場の建設、軍事基地の配置などを政党が行ったときに、その政党のメンバーは「自分だけは反対した」ということを有権者に伝えようとすることがあります。個々の政治家の勝手な行動を抑制して、政党を安定的な意思決定ができる組織として構成するためには、政党のリーダーが強い権限を持ち、かつ、政党の中で十分に議論を重ね、手続きに則った決定を行っていくことが必要です。

個人ではダメな理由

 政党が組織として確立される必要があるのは、メンバーの協力によって1人ではできない仕事ができるようになるから、というだけではありません。どれだけ優れていても政治家が個人として多くの有権者に対する責任を持つのが難しいことも、重要な理由です。

 まず、政治家が政党を作らずに個人として活動することの長所を考えてみると、組織にとらわれない柔軟な決定ができる、ということがあります。社会の変化に応じた新しい決定が求められているとき、組織だとさまざまな手続きに時間がかかりますが、個人ならすぱやく決断できるかもしれません。また、融通の利かない組織の決定ではなく、血の通った個人の感情に期待したいという考え方もあるかもしれません。

 しかし、そのような長所に比べて、短所が多すぎます。まず、柔軟な決定は無原則な決定になりかねません。状況の変化に流されて、以前の決定を簡単に変えてしまう可能性があるのです。どれだけ優秀なりIダーでも、個人に依存するのはリスクが高すぎるのです。個人が柔軟に決定するということは、将来どんな決定がなされるのかわからないということでもあります。その決定に振り回されると、有権者が政治に対して安定した期待をもつことができません。

 次に、政党の援助を受けずに個人が政治家として政治に参加するには、たくさんの資源が必要になるために、十分な資源を持つ個人以外は、政治に参加できなくなるという問題があります。特に重要になるのが金銭的資源、つまり政治資金ですが、これを個人で調達しなくてはいけないとなると、資産に恵まれていない人が政治に関わることが難しくなってしまいます。また、もともと資産を持っていない人が政治に関わろうとしたときに、多くの有権者のことを考えるよりも、政治資金を含めたさまざまな援助をしてくれる支持者に頭が上がらなくなってしまうおそれもあります。

 さらに個人は、選挙区や任期といった制約に大きくとらわれることになります。選挙に当選した政治家は、将来の有権者も含めた全体のことを考えて、意思決定するよう求められますが、何といっても選挙で応援してくれる支持者は重要です。支持者が好まない決定をしたら次の選挙が危うくなると考えて、近視眼的な決定をしがちになることでしょう。有権者から見ても、自分の選挙区ではない選挙区から立候補する候補者を落選させることはできませんし、任期が終わって引退したり落選したりした元議員に在職中の責任を追及することはなかなか困難です。

 柔軟さに欠けるとしても、政党は組織であるからこそ安定的な決定を可能にします。そして、組織として必要な資源を集めて個々のメンバーを支援することができれば、個人が特定の支持者から強い影響を受けるのを防ぐこともできるでしょう。何よりも、政党は、組織だからこそ、個々の政治家を拘束する選挙区という空間、任期という時間を超えて、安定的・継続的な決定をすることができます。有権者も、そのような決定を行う責任の主体である政党について評価することで、政治に対する姿勢を表明することができるのです。
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