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地方分権の効果--都市的な地方、農村的な地方

『民主主義の条件』より 多様な地方政治 てんでバラバラ

日本の「相乗り」は、地方議会で圧倒的に強い自民党を外して考えることができません。これは、もっと多様な政党の連合がありうる他の国との大きな違いです。既に説明したように、自民党が圧倒的に強かったのは、国政で長期政権を握っていたからです。そして、自民党の国会議員とつながることで地方の要望を実現できることがポイントでした。つまり、重要なのは、地方選挙ではなくて、あくまでも国政選挙であり、国政選挙で自民党を選択しておけば、地方選挙がどうあれ結果的に自民党主導の地方政治につながる、という構図だったわけです。

もちろん、他の国を見ると、有権者にとって地方選挙のほうがより重要ということもありえます。全国的な支持が広がらない主張でも、特定の地域で強い支持を受けることがあるのです。典型的には、地域の独立やさらなる自治を主張するパターンでしょう。イギリスには、スコットランドのみで支持を広げ、2014年にスコットランド独立の住民投票を主導したスコットランド国民党がありますし、カナダにもケベック州を拠点として独立を訴えることもあるブロック・ケベコワという政党があります。これらの政党は、地域の問題を重視する地方政党として、地方議会で議席を確保するだけではなく、国政の議会でも議席を持つことがあります。

地方政治が重要になると、「小選挙区制が二大政党化を促進する」という主張がなかなか当てはまらなくなります。確かに各選挙区の候補者は2人に収斂していくのですが、選挙区ごとに違う政党間で競争が行われて、国全体としては多党化することがあるからです。たとえば、もともと二大政党制に分類されていたイギリスやカナダでも多党化か進んでいます。さらに極端なのはインドで、小選挙区制なのに国会で議席を占める議員たちの所属政党は30以上を数えます。これらの国では、以前より地方分権が強調されるようになっており、国政と違うテーマでの地方政治の対立が表面化しています。

日本では、選挙制度改革による小選挙区制の導入後、自民党と民主党が二大政党を形成してきました。しかし、他の国々と同様、地方政治が意味を持つ可能性はあります。政党間の違いよりも、政党内での地方ごとの違いが大きくなるということです。たとえば東京など、都市の選挙区で競争する自民党と民主党の候補者は、非常に似通った政策的志向を持ち、その傾向は農村部でも同様です。そして、都市部と農村部での候補者の考え方の違いはずいぶん大きくなっています。

いつも自民党と民主党の違いはわかりにくい、と言われますが、それぞれの党内に同じように激しい対立があるのです。第7章では衆議院と参議院の選挙制度の違いが党内での対立を生み出す可能性について述べましたが、地方分権が進んで、都市と農村の主張がさらに大きく食い違ってくることでも、都市的な自民党と農村的な自民党、都市的な民主党と農村的な民主党のような分裂があるかもしれません。

実際に、2012年12月の総選挙には、地方で活躍してきた政治家の率いる地方政党が、国政に進出しようとしたという特徴がありました。前東京都知事の石原慎太郎と大阪市長の橋下徹を共同代表とした日本維新の会と、名古屋市長の河村たかしをリーダーとした減税日本です。これらは、「大阪都構想」「減税」といった大都市特有の争点での支持を背景に、国政に挑戦したものです。このときの総選挙は自民党の圧勝でしたが、日本維新の会は大阪周辺で善戦し、一定の成果を収めることになりました。
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