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金正恩が習近平帝国を滅ぼす

『習近平帝国の暗号2035』より 金正恩が習近平帝国を滅ぼす

中国のメンツをつぶす--習近平の鬼門は金正恩

 習政権は周辺諸国との関係を含めた全方位外交での実績を誇示している。しかし、北朝鮮との関係悪化は大きな汚点である。かつての血で固めた友誼に支えられた特殊な「同盟関係」は風前の灯火。いや、それはすでに実質的に破綻している。
 中国が重視を打ち出した周辺外交の死角は、中国の鬼門、北東に位置する北朝鮮にこそ存在する。金正恩の振る舞い次第では戦争さえ勃発する。
 そうなれば、2035年に現代化建設を基本的に終えるという習近平新時代の構想は一瞬にして崩れ去る。2035の暗号は解読不明に陥るのだ。習近平は何としても金正恩を押さえ込みたかった。だが、金正恩は若輩とはいえ、一筋縄ではいかない曲者だった。
 新中国の建国以来、最大の国際会議--.
 17年5月14、15両日、北京で開いた海と陸の現代版シルクロード「一帯一路」構想を巡る会議の宣伝で中国政府が使った決まり文句だ。
 開幕式、会議、晩餐会、閉幕式の晴れ舞台登場はすべて習近平だった。多数の首脳が集った国際会議というより習のワンマンショー。ナンバー2の首相、李克強の姿はなく、目立つのは新任の習側近らである。
 「核心」の地位を得た習近平が、カリスマ毛沢東もできなかった国際会議で威信を示す。17年後半、共産党大会での5年に一度の最高指導部人事を控え重要な政治行事だった。
 重大会議の開幕直前、北京に衝撃が走った。北朝鮮が新型中距離弾道ミサイル「火星12」を発射したのだ。習は北朝鮮の金正恩に最大の配慮を示し、閣僚代表団を北京に招いていた。晴れ舞台を核実験やミサイルで邪魔させない保険でもあった。
 金正恩はまったく意に介さなかった。北朝鮮代表団卜ップで対外経済相の金英才は、開幕前に控室で韓国代表団の朴炳錫議員と短時間、懇談した際、「(前日の平壌出発まで)ミサイルの話は知らなかった」と語った。
 会議は冒頭から予定が狂った。北京時間午前9時の開会は]D分ほど遅れた。原因は演説する口シア大統領のプーチンの遅刻だ。
 専用機は午前8時ごろ北京に着いたが、ドアの半開き状態が続き降りてこない。白シャツ姿のプーチンが無表情で大量の資料を受け取り、車で空港を出だのは30分後。開幕が迫っていた。
 北朝鮮はプーチンがシベリア上空にいた頃、ミサイルを撃ち、30分後、ウラジオストク近くに落下した。ロフテッド軌道で高度2100キロメートル以上に達した中距離弾道ミサイル「火星12」だとされる。
 プーチンは北京着陸後、ロシア領近くに落下した新型と見られるミサイルの分析報告を機内で受けたあと降りたと見られる。数時間後に北朝鮮を巡る習との会談が控えていた。
 中国国内では北朝鮮の5月14口のミサイル発射自体、一般に報じられなかった。国営新華社が早朝、英文だけで速報し、中国ネット媒体も中国語で転載したが、ほぼ1時間後には当局指示ですべて削除された。習氏が顔に泥を塗られた事実は隠された。
 中国の「一帯一路」構想には元々、米主導の国際秩序を崩す思惑があった。だが、米大統領、トランプは17年4月、米フロリダ州で習と会談したあと、中国が北朝鮮に真剣に圧力をかける約束と引き換えに経済面での対中強硬姿勢を緩めた。
 しかも北京会議への米代表団派遣まで決断した。卜てフは国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、ポッティンジャーだ。習は面目を保った。
 とはいえ対北朝鮮で効果は出ていない。金正恩は米国に歩み寄る習を牽制する意味も込め、あえて北京会議に合わせてミサイルを撃った。核放棄しないとの意思表示だ。米中関係にはなお危うさが潜む。

17年末までに腹固めた習近平

 習近平が中国軍も臨戦態勢に入らざるを得ないと腹を固めたのはいつなのか。それは17年11月から12月にかけてである。
 9月の北朝鮮の核実験で金正恩はトランプか引いたレ″ドラインを越えた。11月初旬の北京での習・トランプの密談、続く11月末の米ワシントンでの米中両軍の参謀部同士の意見交換を経て、覚悟を決めるしかないという判断に至ったのだ。
 だからこそ吉林省共産党委員会の機関紙、吉林日報まで「核戦争に備えよ」という異様な特集記事を12月上旬に掲載した。その経緯は先に紹介した。
 中朝国境の中国側にある吉林省と遼寧省、そして黄海の向こうが朝鮮半島である中国・山東半島は、米朝戦争への備えか着々と進んでいる。
 米中朝は極めて危うい心理戦を戦っていた。主役の一人が習近平である。共産党大会をようやく乗り切ったとはいえ、再び大きなプレッシャーにさらされていた。
 その相当なストレスが原因であろうアクシデントがあった。17年12月24日のクリスマス・イブの日、習近平は、北京市西部にある人民解放軍301病院に担ぎ込まれた。腹痛だとされる。
 関係者によると、それは宿泊を伴う入院ではなく、あくまで日帰りでの処置だった。事なきを得て、翌日からの重要会議には出席していた。
 しかし、「中南海」内の医療チームや施設では対処しきれなかったからこそ、高い技能を持つ医師団と最先端装置を備えた301病院にやってきたのだ。
 仮に定期の「半日人間ドック」だとしたら、外来患者にも分かるような、緊急の大規模な警備態勢をとる必要はなかったはずだ。
 一方の主役、金正恩は元日、核の実戦配備と、五輪参加を絡めた南北対話という硬軟取り混ぜたくせ球を投げた。
  「核のボタンは私の机の上にいつも置かれている」
 その脅しにトランプが言い返した。
  「私も核ボタンを持っている。だが、彼のよりもっと大きく、もっとパワフルだ」
 一方で数日後には、条件次第で金正恩との電話協議も「問題ない」と付け加えた。
 俺のほうか強いぞと虚勢を張る半面、下手に出るなら話してやってもよいとする子供同士のケンカのようだ。とはいえ決して笑い話では済まされない。異常で危険に満ちた2018年の始まりだった。
 71歳の大ベテランと、1月8日の誕生日で35歳になった青年のチキンレースはまだ続く。それは北朝鮮代表団が、平昌冬季五輪に参加しても変わらない。
 五輪と、それに続くパラリンピックの期間は1ヵ月以上ある。
  「米軍は、逆にじっくり準備できる猶予の期間を確保できた」
 韓国の軍事関係者はこう見る。この頃、沖縄県では、米軍ヘリの不時着が相次いでいた。朝鮮半島情勢の緊迫に対応した急速な訓練拡大。それが招いた整備不良という弊害かもしれなかった。
 危機かささやかれる朝鮮半島。それは2035年まで時間をかけて軍近代化を進めたい習近平にとって極めてやっかいな問題でもあった。
 第19回党大会報告で触れたように中国軍の近代化、現代化は道半ばだ。まだ十分に戦えない。そう告白しているのだ。今の段階で米軍のような強敵と戦うわけにはいかない。
 中国では、新しい指導者が卜でフに就いた際、戦争に打って出て、軍権を固めた事実を誇示する伝統があった。鄧小平がそうだった。1979年、軍事的に大した意味もないのにベトナムに戦争を仕掛けたのだ。
 この場合、短期間で勝てる相手でなくてはいけない。負ければ政権が一瞬で崩壊するのだから。当然、米国との戦争は無理である。
 それなら装備が手薄な北朝鮮との短期戦はどうか。しかし、彼らは短距離なら正確に打ち込める弾道ミサイルを持っている。
 しかも核弾頭の開発もかなり進んだ。金正恩は「中国全域か核ミサイルの照準内に入った」と脅している。こちらも下手に怒らせるわけにはいかない。
 かつて鄧小平か戦ったベトナム、あるいはフィリピンなら、ある意味、適当な相手と言える。だか南シナ海問題は落ち着きっつある。しばらくは、あえて火をつける必要はなくなった。大問題は朝鮮半島に絞られた。

朝鮮族200万人、扱い間違えば崩壊の引き金

 中国共産党政権にとって、朝鮮半島問題の扱いは、中国内の民族問題に火をつけかねない極めて微妙な課題だ。習近平か処理を間違えば、「プロジェクト2035」が崩壊する。
 どういうことなのか。そのポイントは、中国東北部を中心に居住する200万人弱の「朝鮮族」の存在である。中国55の少数民族の中で14番目の人口を持つ。
 彼らは日常生活では、朝鮮半島と同じ言語で話し、ハングルを用いる。先祖の出身地は朝鮮半島の北部が多い。もし、将来、南北統一国家ができれば、民族の故郷に帰還したいという意識を持っている。
 これを見抜いている金正恩は、平昌五輪を利用してあるワナを仕込んだ。文在寅もこの策に乗ったかのようだ。
  「南と北は南北官一日を尊重し、南北関係で提起されるすべての問題を、我が民族が朝鮮半島問題の当事者として、対話と交渉を通じ解決していくことにした」
 2018年1月9日の南北閣僚級会談の共同発表文だ。
 北朝鮮が、核・ミサイル開発問題で国連から厳しい制裁を科されている事実を無視したかのような文面は、完全な金正恩ペースだ。
 カギは、「我が民族」という言葉にある。ここには中国に住む200万人の朝鮮族も入っている。なにせ、金正恩の父と祖父は先に説明したように「中国東北部は、かつて朝鮮民族国家のものだった」と主張し、中国側に確認まで求めていた。
 金正恩の狙いは、平昌五輪でかりそめの南北融和ムードを醸し出し、「朝鮮民族主義」を訴えることだ。
 果たして金正恩は、平昌五輪の開会式に妹の金与正を送り、平壌での早期の南北首脳会談を提起した。平昌は金与正の話題で乗っ取られた。完全な政治オリンピックの様相だった。
 しかもこの時、金与正は第二子を妊娠中だった。身重の妹を韓国に送らざるを得ないほど、金正恩は追い詰められていた。
 韓国の政府と民衆が、北朝鮮の核開発を容認し、朝鮮半島に核保有国家が出来るのを裏では歓迎している。こんな雰囲気が出来上がれば、金正恩の勝ちである。
 中国は苦虫を噛みつぶしているが、ひとまず朝鮮半島での米朝戦争が遠のくなら、表向き歓迎するしかない。
 だが、中国が主張する「朝鮮半島の非核化」は遠のく。東アジア世界に中国以外の核保有国が出来上がれば、これまでの国際秩序は保てない。韓国ばかりか、台湾、もしかして日本だって核武装を言い出す恐れがあり危険だ。中国は本音ではそう思っている。
 朝鮮族の民族意識に火がっき、「統一国家」への帰還が現実化したらどうなるのか。当然ながら、今でも独立運動がある新疆ウイグル自治区、チベット自治区の民族問題に波及する。これだけは容認できない。
 21世紀の現代世界はグローバル化か進む半面、民族主義や地域主義が台頭している。英国の欧州連合(EU)離脱、スベイン・カタルーュャ地方の独立宣言を見るなら、中国でもそれぱ起こりうる。中国共産党政権にとって地域優先主義は対岸の火事ではないのだ。
 そうなれば、米国に追い付き、追い越す「プロジェクト2035」は、雲散霧消する。現在の国家統一だけで精一杯の状況になりかねない。
 中国の「朝鮮族」問題が、北朝鮮の核危機に直結している事実を忘れてはならない。
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