goo

数学の歴史は止まっている

『数学の考え方』より ⇒ トポロジーの先が見えてこない。未唯宇宙から「新しい数学」を思考する。対象は哲学と同様に言葉になるはず。

解析幾何学・微積分学の発展と急展開

 第四章「十七世紀の数学」では、十七世紀に創始された解析幾何学と微分積分学とを、細かい計算や技巧はできるかぎり省いて、その考え方だけを浮き彫りにするようにしてみました。

 今日、科学技術の基礎になっているといわれる数学の、そのまた基礎になっているのは、この解析幾何学と微分積分学の考え方です。ふつう、解析幾何学や微分積分学の話をするばあいには、えてしてその細部に立ち入りがちですが、それでは解析幾何学と微分積分学の基本的な概念はつい見失われてしまうので、ここでは、できるだけその考え方だけを抜き出してみたわけです。

 さて数学者たちは、十七世紀に発見されたこの微分積分学を、それにつづく十八世紀・十九世紀を通じて、全力をあげて開拓してきました。この十七、十八、十九世紀を通じての数学の進歩は、他の世紀のそれと比べると、その速さにおいて、数倍、いや数十倍であっただろうといわれているくらいです。

人類史上の画期的な役割

 今日わたくしたちは、列車が走り、汽船が浮かび、自動車が走り、飛行機が飛び、ラジオが聞こえ、テレビが見え、そして人工衛星が上がり、月へ人を送る可能性を論ずることができるという機械文明の世の中に生きているわけですが、今日のこの機械文明をつくり出すことができたのは、十七世紀に発見され、十八世紀・十九世紀を通じて発展してきた、解析幾何学と微分積分学の考えであるといってもいい過ぎではありません。したがって、第四章「十七世紀の数学」で述べた思想は、数学の歴史ばかりでなく、わたくしたち人類の歴史のうえで画期的な役割を演じたものであるということができます。

二千年の伝統を破る幾何学

 さて、数学の思想の流れのなかには、もう一つの他の流れがめばえていました。それは、十九世紀にはいってから、数学は右に述べたようなすばらしい発展をしてゆきましたが、この数学を、ただ先へ先へと進めるだけでなく、その基礎を固めようとした、数学者たちの努力から生まれたものです。

 まずそのおもなものをあげてみましょう。

 本文のユークリッド幾何学の項で述べたように、ユークリッドのかかげた平行線の公理とその幾何学は、それから二千年以上も唯一無二のものと考えられていましたが、その平行線の公理に関する基礎的な考察が、十九世紀になってようやく実を結びました。ロシアのロバチェフスキーとハンガリーのボリアイとは、この平行線の公理を否定しても、そこに一つも矛盾のない幾何学が成立することを示したのです。

新しい発掘と成果続々

 また、ドイツの数学者デデキント(一八三一-一九一六年)は、数、とくに無理数に対して深い考察をあたえ、有理数と無理数とをいっしょにした実数の理論を確立しました。

 同じくドイツの数学者カントール(一八四五-一九一八年)による、一般に物の集まり、とくに無限に多くの物の集まりを論ずる集合論によって、数の本質、無限の本質、無限の段階などが明らかになってゆきました。

 さらにまたドイツの数学者ヒルべルト(一八六二-一九四四年)は、ユークリッド幾何学を、厳密な公理から出発して組み立てるという仕事を徹底的におし進めて「幾何学基礎論」を著わし、数学を公理から組み立てるという態度を確立しました。

現代を象徴する英知の所産

 以上は、十九世紀の後半から二十世紀にかけて行なわれた、数学者の数学の基礎についての反省の、ほんの二、三の例にすぎませんが、とにかく、数学はこうしてここにまた大きな転回を経験したわけです。

 この小さな書物では、こうした新しい思想の流れの全貌を伝えることはとうていできませんので、本書では、最後の三つの章に、この現代的な数学のうちで、その特徴をもっとも端的に表わしていると思われる三つの例をあげてみました。

 つまり、第五章「トポロジー」で述べた話題は、あなたがいままでに知っていた代数学や幾何学の話題とはちょっととびはなれていますが、人間の英知が生み出したものという感じの強いトポロジーを、一筆がきと多面体の定理を例にして説明してみたわけです。

 また第六章「集合」では、イギリスの数学者ブール(一八一五―六四年)が暗示し、まえに述べたカントールによって完成された集合の理論の一端を紹介しました。

数学のための数学が巨大な実用へ

 そして最後の第七章では、むかしからある概念ではありますが、第六章で述べた集合と論理学の関係を使えばひじょうに明快になると思われる確率の概念を説明してみました。

 以上に述べた現代数学は、いわば、数学のための数学であったかもしれません。

 しかし一見、それがどんなに現実ばなれのした数学の概念や結果であっても、それらは、いつかは現実と結びつき、しかも、そこに雄大な応用の世界が現われてくるという考えは、数学者の確信であるといってもよいと思います。

 ところが、この現代数学の応用は、二十世紀にはいっていくばくも待たずに見いだされてゆきました。

 第六章の最後に述べた、集合と論理学の関係から生まれたプール代数の、スイッチ回路への応用は、そのもっともよい例ということができるでしょう。これはさらに発展して、今日の電気計算機の原理となっているのです。

こうして高度な日常性を獲得

 今日、数学ブームが起こっているという声は、おそらくもうあなたの耳にもはいっているでしょう。この数学ブームということばには、科学技術における数学の重要性がますます認められてきたことのほかにも原因があります。つまり、ここに述べた新しい数学の新しい応用が、科学技術以外の方面、たとえば、一般のビジネスにも、会社の経営にも、種々の計画を立てるうえにも、続々と見いだされているということです。

 あなたが本書によって、数学を、その思想の流れという面から見ると、数学というものはひじょうにすっきりとした、見通しのよいものであることを認識なさり、それを基礎にして、新しい数学の新しい応用に意欲を燃やされるよう、心からお祈りします。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 真の女性活躍... 頼るのは未唯... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。