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解決策としての「節約」の限界

『環境情報学』より サステイナブルな社会を構築するための課題

省エネ・省資源は、今や生産者にとっての死活問題にもなりうる重要な課題である。電力会社自体が節電を推進するCMを提供し、消費者レベルでも3Rなどの掛け声で省資源への取り組みが行われている。社会全体として、省エネ・省資源への取り組みが非常に活発になっていることは確かだ。

しかし、そこには白々しさとも表現できる矛盾に満ちた雰囲気が漂っていることも否定できない。2008年秋以降の世界的大不況によって日本経済も大打撃を受けてきたが、現在多くの国民が一番に望むのは経済対策である。経済の落ち込みを如実に表すのが「モノが売れない」という経済の側面であり、所得低下や雇用不安に直結する。省エネ・省資源は重要だが、雇用不安の状況に陥れば、モノが売れるように国をあげて取り組むことが共通の目標となる。

自由経済社会においてはモノが売れなければ人々が困る。モノがよく売れると、資源・エネルギーを多く消費する。まさにトレード・オフの関係にあるかのように思われる。よって、省エネ・省資源と経済活性を両立する方策を見いだすことが、今後の地球環境問題の解決策になると考えることも可能であろう。そして、その解は「節約」ではない。

では省エネ・省資源と経済を両立するにはどうすればよいのだろうか。つまり、資源・エネルギーの消費を少なくして、金回りはよくなるという社会を作り出す方法はどのようなものであろうか。

現在、経済的悪環境の中、衣料品などの分野では低価格戦略が取り入れられている場合もあるが、これは国内経済全体として、また地球レベルでの環境影響の面でも決して好ましいことではない。生産拠点を開発途上国に移し、人件費や設備費等を抑えて低価格の大量販売体制を築く戦略は、一時的には一部関係者の利益を増しても、価格競争で淘汰される者を増大させて業界全体の活力を奪い、社会全体の活力低下に結びつく。そして低価格業者自身も将来的には行き詰まる。低価格戦略は顧客数を集中させることが前提条件であるため、経済停滞時の低価格戦略は特に社会的打撃が大きい。地球レベルでも省資源・省エネルギーと逆行することになる。

そうかといって、単純に商品の価格が上がることも望まれない。単なるインフレ状態では生活の質が低下するのみで、何の解決策にも繋がらない。消費者の満足度や生活の質を下げず、経済が停滞しないように、モノ・エネルギーの物流を少なくしなければならない。

この問題解決のためには、より良いものを高価格で少なく購入する消費が求められる。長持ちするやや高額なものを購入し、メンテナンスに対しても積極的に出費することが求められる。生産者は新品販売を縮小し、メンテナンス業に軸足を移していくことが求められる。

生産者は利益が得られるならば、新品販売重視であろうが、メンテナンス重視であろうが適応可能だろう。社会的に重要な雇用の側面からはメンテナンス重視の企業経営が望ましい。

問題は消費者側にある。安価なものを求めるのは消費者の本能に近い反応である。これに対して、どのように社会的にコントロールするのか、または消費者自らがセルフ・コントロールできるようにするのかが課題となる。消費者の価値観が変化すれば、必然的に生産者の対応も変化する。

最も重要なのは、消費者が省エネ・省資源の推進と経済の両立を遂げるためには、単純な節約では逆効果であって、より良いものを高く購入し、メンテナンスに金銭を投入して長く使うことが望ましいということを認識し、それに沿ったライフスタイルを実践することである。
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