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全面戦争

『国際政治(中)』より

われわれは、現代の戦争がそれぞれ異なる四つの点で全面的になった、ということをすでに指摘した。すなわち、(1)その感情と信念においてみずからを自国の戦争と完全に同一化してしまう人口の割合、(2)戦争に参加する人口の割合、(3)戦争から影響を受ける人口の割合、(4)戦争によって追求される目的、の四点に関して戦争は全面的なものになったのである。一八世紀初頭にあたって、フェヌロンが著述したときには、戦争はこれらすべての点において限定されており、近代国際システムがはじまって以来ずっとそうであったのである。

この限定戦争という類型の極端な例として、一四、一五世紀のイタリアの諸戦争を挙げることにしよう。これらの戦争は、主として傭兵によって戦われたのであり、しかもこの傭兵は、自分たちの関心事がおもに金銭的なものであったので、戦闘で死んだり敵を多く殺すことで危険を招くといったことはしたがらなかった。さらに、傭兵隊長--戦闘中の軍隊の指揮者--は、兵士というものが運転資本であったわけだから、その兵士を犠牲にしたいとは思わなかった。傭兵隊長たちは、彼らの軍隊に投資しているので、採算がとれるよう望んだ。また傭兵隊長は、敵の兵士を多く殺そうとは思わなかった。なぜならこの隊長は、敵の兵士を捕虜にして、それを売って身代金をとることができたし、自分たちの軍隊へ兵士として雇うこともできたが、殺してしまっては、金銭的利益にはならなかったからである。だから傭兵隊長は、決戦や殲滅戦に関心を示さなかった。それは、戦争がなくなり敵もいなくなれば、仕事もまたなくなったからである。そのために、これらイタリアの戦争は、敵が死傷者としてよりはむしろ捕虜として兵士を失い、陣地を放棄し退却するように仕向ける、巧妙な策略や戦術上の術策からおおかた成り立っていた。したがってマキアヴェリは、ひとりも殺されないかあるいはたったひとりだけが敵の行動によってではなくて落馬によって戦死するような一五世紀の多くの戦闘--そのなかには歴史的に非常に重要なものもある--を報告することができたのである。

マキアヴェリのこの説明は、あるいは誇張されているかもしれない。しかし、これらの戦争は、第一次世界大戦に至るまでの近代史をつうじて、宗教戦争とナポレオン戦争という数少ない重要な例外はあるとしても、一般に行なわれていた限定戦争のひとつの類型のあらわれであったことは疑いない。一八世紀の偉大な軍事指導者のひとりであったサクス元帥は、一四、一五世紀の傭兵隊長を導いた戦争の原則と全く同じ原則を宣言して次のように述べた。「私は、とくに戦争の端緒における会戦には全く反対である。私は、有能な将軍とは、一生涯会戦を余儀なくされることなく戦争をしつづけることのできる人である、とさえ信じている」。その世紀の終わりに、ダニエル・デフォーは次のような意見を述べた。「窮地に陥った兵士五万の軍隊同士が、互いの視界内にありながら全戦闘期間をつうじてただ身をかわしつづける、つまり、もっと粋な表現をすれば、相互に観察し合うばかりで、最後には結局越冬のための宿舎に引きあげてしまうということが、いまやしばしば起こっているのである」。一七五七年一月一二日に、チェスタフィールド伯は、自分の息子に宛てた手紙のなかで、当時の戦争を次のような言葉で描いてみせた。

 「………戦争でさえ、この退廃の時代には、おずおずと戦われている。助命が許され、町は占領されても人民が危険を受けることはない。奇襲がかけられても、女性は強姦の恩恵を期待することすらかなわない」

他方、限定戦争の時代が終焉に近づいたとき、フォッシュ元帥は、一九一七年にフランスの国防大学における講義で、往時の戦争と新時代の全面戦争の、それぞれの類型を要約した。

「真に新しい時代、すなわち国家の全資源が闘争に吸収されるようになる国民戦争の時代がはじまった。それは、王朝の利益とか、州の征服や領有ではなく、まず第一に哲学的理念の防衛や伝播を目的としたものであり、その後、独立とか統一とかいう、さまざまな種類の非物質的な利点に関する原則を防衛したり拡張したりすることを目ざすものだった。国民戦争は、力の要素としてはそれまで認められていなかった感情とか情熱とかいったものを利用して、兵十二人ひとりから戦意と全能力とを引きだすことになっているのだ。………享刀では激しい感情で燃え立っている大衆を徹底的に利用するのである。すなわち、あらゆる社会活動を吸収すること、そして、要塞化、兵糧弾薬の補給、陣地の利用、軍備、設営等に至るまで体制の物質的部分のすべてを、戦争の必要とするところに従わせるのである。
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