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「外の世界」と「自分の世界」

『グローバル時代の「開発を考える』より 「自分の世界」から踏み出してみる

「外の世界」につながるとはどういうことか、そして「自分の世界」を拡げるとはどういうことかについて、少し考えてみましょう。

たとえば、最近、「○○年に一度の大雨」というニュースをたびたび耳にしないでしょうか。地球が温暖化しており、日本でも異常気象が頻発していることは皆さんも聞いたことがあるのではないかと思います。その主な原因として、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量の増加が指摘されています。中には日ごろ、エレペーターやエスカレーターではなく階段を使ったり、エアコンの設定温度を守ったりして、節電を心がけている人もいるでしょう。電力の消費を少なくすることで、発電所で燃やされる石炭や天然ガスの量を減らし、CO2の排出が抑えられるというわけです。こうした節電の努力はもちろん大切です。しかし、この地球温暖化の話を、個人でできる日常の範囲内、つまり「自分の世界」の中だけで考えると、エネルギーを大切に使おうとか、こまめに節電しようという話にどうしてもなりがちです。その結果、「外の世界」で何か起きているのかが分からないまま、実はその影響を受けてしまっていることに気づかないことがあります。

実は、2014年の統計によれば、世界全体のCO2の排出量のうち4割以上を、中国とアメリカのたった2カ国が占めているそうです。中国は急速な経済成長を背景にCOJ貸出量が急激に増加している一方、人ロー人当たりの排出量が最大のアメリカは、ドナルド・トランプ氏が大統領になって、温室効果ガスの排出規制を内容とするパリ協定からの離脱を表明しました。もし中国のCO2の排出に歯止めがかからず、アメリカが正式に離脱となれば、C02排出量の削減という国際目標の達成は困難なものとなるでしょう。排出量に歯止めがないわけですから、私たちがいくらこまめに節電しても、実質的に地球環境を守るための行動としてはあまり効果がないことになってしまうのです。

こうした「外の世界」の現実を知るということは、私たちと「外の世界」とのつながりを知ることでもありますが、その時私たちはどのような態度や行動を取ったらよいでしょうか。それは、節電なんかしたって意味がないと投げやりになることではありません。そうではなくて、この事態をまずは冷静に受けとめて、次なる改善策や解決策をあきらめないで考えていこうとすることです。このように「外の世界」の出来事が、「自分の世界」に大きな影響を及ぼすのは、地球温暖化に限ったことではありません。それ以外にどんな出来事があるのかについては、この本の各章でご紹介してきましたが、私たちにとって、これからますます必要となることは、「外の世界」で何か起きているのか、そして、それがどのような影響を「自分の世界」にもたらすことになるのかを想像力を働かせて読み解いていくことではないかと思います。それが「外の世界」とつながるということであり、そのつながりによって生じる問題を解決していくことが「自分の世界」を豊かにしていくことにもつながっていきます。ただし、ここで難しいことは、最初に述べたように、「外の世界」の出来事が「自分の世界」からはなかなか見えづらいということです。

なぜ「外の世界」の出来事が見えづらいのか、図1を使って説明してみましょう。「自分の世界」というものは、「自分」を守ってくれる個室のような空問ですが、自分の成長とともにこの空間も拡がっていきます。まだ歩けない赤ん坊の時はベビーペッドの上が、立って歩けるようになれば家の中が「自分の世界」です。小学生になれば、学校と自宅を囲んだ範囲が「自分の世界」となり、中学・高校・大学へと進み、社会に出て仕事をするようになるにしたがい、自分の行動範囲だけでなく、興味関心も広がっていきます。しかし大人になるにつれ、行動範囲はやがて通勤範囲と重なり、自分の所属する組織や自分の仕事から物事や世の中を見るようになります。こうしてその人の見方や考え方は、ある意味で専門的になっていきますが、同時に、視野が狭くなったり、立場に縛られたり、自分との直接的な関係が見えないことには関心が向かなくなったりして、「自分の世界」はそれ以上には拡大しなくなるのです。こうして固定化された「自分の世界」から見える「外の世界」はいつも同じように見えてしまい、その結果「外の世界」に対して、先人観や固定観念を抱くようになるのです。その。なぜ、外の世界はグローバル化し、どんどん複雑なものになっているので、「自分の世界」がそのまま変わらなければ、「外の世界」との距離はさらに拡がり、ますます見えにくくなってしまうのです。

しかし、「外の世界」が見えにくいと何が問題なのでしょうか。それはたとえば、生きる上での「選択肢が限られる」という問題が考えられそうです。「外の世界」には、地球温暖化のような問題や危険がたくさんある一方で、自分の人生や世界をより豊かにしてくれる可能性やチャンスも広がっています。「外の世界」で起きている問題を解決し、危険を未然に防ぎながら、可能性やチャンスを生かしていくことができれば、自分の選択肢を増やすことにつながるでしょう。逆に言えば、「自分の世界」の中にいるだけでは、生きる上で自分か選び取ることのできる方法やアイデアが限られてしまうということです。

「豊かさ」について考えた第1章で、「豊かさ」とは、自分で自由に選択できることであり、「貧しさ」とは自分で自由に選択できないことだという考え方を紹介しました。たとえば、人は誰でも自分に合った仕事を選ぶためには、自分の適性や可能性をいろいろ試した上で、つまり、選択肢をできるだけたくさん持った上で、自分の意思で進路や仕事を決めることができるとよいと思います。ところが、自分の本当の適性や将来の可能性というものは、意外と自分だけでは分からないことが多いものです。そうだとすれば、「自分はこういう人間なんだ」と決めつける前に、自分を違った環境に置いてみたり、今までやったことのないことに挑戦してみることで、今までとは違う「もうひとりの自分」と出会うことができるようになるかも知れません。いずれにせよ、「外の世界」につながり、「自分の世界」を拡げる機会をできるだけ増やしていくことが大切ではないかと思います。
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