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転換型と復旧型のマクロ的な資源配分の違い

『大震災後の日本経済』より

以上で述べた復興の方向を「転換型」と呼ぶこととしよう。それに対して、元の姿を復元するのを「復旧型」と呼ぼう。これらは、何か違うのか?

転換型の復興を選択した場合の日本の産業構造は、これまでの製造業中心のものから、サービス産業中心のものへと大きく転換する。後で述べるように、輸入に必要な外貨は、サービス産業が稼ぎ出す。あるいは、対外資産の運用利回りを高めたり、海外生産活動の利益が日本に還流したりして所得収支の黒字が増大することによって賄うのだ(あるいは、対外資産を取り崩す)。

ただし、転換型では、つぎの二点で問題が生じる。

第一に、国内の雇用が失われる。第二に、下請けの中小企業について問題が起こりうる。これらを解決することが、「転換型」をとる場合の経済政策の課題である。

第一に必要なのは、雇用の確保である。介護分野の有効求人倍率は一を超えており、現在の日本で大量の雇用を創出できるほぼ唯一の分野だ。ここに人が集まらないのは、規制のために賃金が低く抑えられているからである。製造業が海外移転したあとの日本で雇用を量的に確保するには、介護部門での規制緩和を図り、ここに大量の雇用機会を創出することが必要だ。

長期的に見た場合には、もちろんこれだけでは十分でない。後で述べるように、先端金融産業など、生産性の高いサービス産業の成長環境を整えることが重要だ。とくに重要なのは、高度な専門能力を持った人材の育成である。こうした政策の効果は、すぐに表れるわけではない。しかし、日本経済の構造改革のためには、最も基本的な戦略的手段だ。これまで行なわれてきた需要追加策から脱却し、この方向に向けて経済政策を転換することが必要だ。それを実現できるか否かが、日本経済の命運を決める。

今後数年間は、東北地方で社会資本や住宅を復旧するための仕事が増えるので、かなりの雇用が創出されるだろう。その問に、国内でサービス産業を立ち上げ、新たな雇用を創出することが必要だ。中小企業については、海外移転を支援する政策が行なわれてもよい。

では、「復旧型」の復興、すなわち、製造業をこれまで同様、国内に留め置く方向が選択された場合には、どうなるか。

マクロ的な資源配分は「転換型」とは異なるものになる。まず、電力価格が上昇し、これが国民生活にも波及する。製造業の製品については、国際的なマーケットで製品価格が規定されるので、メーカーはコスト上昇を製品価格に転嫁できず、利益が減少する。また、金利上昇圧力を軽減するために金融緩和がなされれば、一般的なインフレ圧力が高まる。これは円安を引き起こし、輸入物価を高め、インフレ圧力をさらに高めるだろう。なお、この円安は国内物価上昇を反映したものなので実質円レートが円安になるわけではなく、したがって輸出産業の競争力を高めることはない。

国内の雇用問題や中小企業の問題が軽減されるとの期待から、実際には、復旧型が選択される可能性が高い。しかし、それはこのような問題を含むことを認識すべきである。

「復旧型」をとるか、それとも「転換型」をとるか。これが、復興政策における最重要の選択である。
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