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「二極化」する社会への対応を

『税で日本はよみがえる』より 格差・貧困は世界共通の課題

世界的に格差は拡大

 OECDは、2008年に「格差は拡大しているか」(Growing Unequal? Income Distribution and Poverty in OECD Countries)という表題の報告書を出した。世界的に注目された報告書は以下のことを実証データにもとづいて明らかにしている。

 ①過去20年間OECD全域で所得格差・貧困者率(平均所得の50%以下)ともに拡大していること、②年金の整備などもあり年金生活者の貧困率は低下したが、成人若年層や有子世帯の貧困率は上昇していること、それが成人後の所得格差に大きく影響を及ぼすこと、③格差拡大の要因は高齢化というより成人単身世帯の増加であること、①高所得者層の一層の高所得化か進んだことにより所得格差が拡大したこと、などである。そして、⑤資本所得と個人事業所得の分配が不平等で、ここ10年その傾向は強まっており、これが所得格差の大きな要因となっていることを強調している。

 さらにOECDは2014年12月、「格差と成長」(Focus on Inequality and Growth, 2014)と題する報告書を公表した。内容は、1980年代半ばから2012年までのOECD各国のデータを分析して、わが国を含め大半の国で所得格差が拡大していること、所得格差はその国の中期的な経済成長に悪影響を及ぼしていること、主要な要因は下位中間層の相対所得が低下したことなどを明らかにしている。

 とりわけ興味深いのは、「ジニ係数がOECD諸国における過去20年間の平均的な上昇幅である3ポイント上昇すると、経済成長率は25年間にわたり毎年O・35%ずつ押し下げられ、25年間の累積的なGDP減少率は8・5%となる」という分析結果である。わが国もこの例外ではなく、格差の拡大が1990年から2010年の1人当たり経済成長に数%のマイナス効果(累積)を及ぼしていることが示されている。

「二極化」する社会への対応を

 十数年前には予想もつかなかったことだが、友人や家族とレストランに行く際には、「ぐるなび」や「食ベログ」などの検索サービスを活用することが日常になっている。そこに提示されたレストランの点数(格付け)、利用者の感想などを参考にして、場所を決める。原型としてミシュランガイドがあるが、それはとても庶民の活用するものではなかった。

 米国経済学者のタイラー・コーエンの著作『大格差:機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』(NTT出版)を読むと、この格付けこそが格差、二極化を生み出す「犯人」だということがわかる。格付けで上位にランクされたレストランに人は殺到する。低いレーティングのレストランは閑古鳥が鳴く。その結果、レストラン業は(そしてその所得も)二極化するという具合だ。

 問題は、このような格付けがレストランーサービスだけにとどまらないことだ。米国では、多くの人々が医療サービスを受ける際、パソコンで病院の評判を数値化した検索サービスをみて選ぶという。その結果、高い技術を持つなど高度なサービスの提供が可能な病院はますます繁盛し、逆にレーティングの低い病院は患者が訪れず、経営難に陥ってしまう。

 恐ろしいことに、このような現象は、弁護士、会計士、税理士などいわゆる「士業」の選択にも急速に広がり、その結果、士業においても所得の二極分化が急速に生じているという。また近い将来、大学などの教育サービスにおいても、ネットで講義が配信されるようになり、人気教授の授業は高い受講料にもかかわらず学生が殺到し、そうでない教授の授業は自然に淘汰されていくという。

 コンピューターソフトの発達とビッグデータの活用によって、ますます格付けが精緻になり、その結果、優良なものだけが勝ち残る。敗者は、値段をダンピングするか退却するしかなくなる。これは、市場原理の徹底を意味している。つまり、このような現象を否定しようにも、それが市場の原理である以上打つ手はないということになる。政府が頼りになるかというと、「一層の規制緩和」が必要という立場だけをとるのであれば、この現象は加速することはあっても後退することはない。

 かくして社会の二極化か進むが、才能ややる気のある者だけが生き残る社会というのはけっして住みやすい社会ではなく称賛に値するものではない。一生懸命働いているのだが、才能に恵まれないというのが大部分の人々であり、格差の広がりを放置することは、治安の悪化や社会の荒廃など社会全体の損失につながる。

 こう考えると、政府は、二極化の進展という事態に対して、きちんとした対策を講じる必要が出てくる。しかし上述したように、「事前」の世界(市場原理が貫徹する世界)に介入することはむずかしい。またそれは慎むべきことだろう。そうであるなら、「事後」の世界に、これまで以上に大きく関与することが必要となる。

 「事後」の世界で二極化を防止できるのは、税と社会保障である。そして、わが国の所得再分配機能は、先進諸国最低といってもよい水準にある。これは、長らくわが国の「事前」の世界が、比較的平等であったことによるものだ。しかし、今後、コンピューターをはじめとする技術の発達などでその前提が崩れざるをえないとすれば、税と社会保障の所得再分配機能の強化はますます重要となる。
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