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気候変動 手のつけようがない公共政策問題

『気候変動』より

ほとんど手のつけようがない公共政策問題といえば、気候変動はその典型と言えるだろう。今日の嵐や洪水や山火事がどんなにひどくても、地球温暖化の最悪の影響があらわれるのは、われわれの死後かなり経ってからで、しかもそのあらわれかたもまったく予想外のものとなるだろう。気候変動は、他の環境問題とはまったくちがい、それを言うなら他のどんな公共政策問題ともまったくちがう。全世界的という点でも独特だし、長期で、逆転不能で、不確実だという点でもそれぞれ独特だ--そしてこの4つすべてが揃っている点でまちがいなく独特だ。

ビッグ4

 この4つの要因をビッグ4と呼ぼう。これらが気候変動を実に解決困難にしている。困難すぎて--世界の集合的な良心に巨大な一撃でも加わらない限り--排出削減やすでに回避不能の結果への適応だけでは、気候変動への対応は困難すぎるかもしれない。最低でも、この結果一覧に苦しみを加える必要がある。金持ちは適応できる。貧困者は苦しむ。

 さらに、こうした手のつけようのない問題に対する世界規模の技術対応を試みるものとして、ほとんど他に手がないように聞こえる、ジオエンジニアリングというものが出てくる。最も有力なジオエンジニアリングの発想は、小さな硫黄ベースの粒子を成層圏に放出して、人工的な日焼け止めもどきの役目を果たさせることで地球を冷やそうというものだ。

 気候変動の経済学について知られているすべては、この方向を示しているように見える。ジオエンジニアリングは、粗雑にやるなら実に安上がりだし、その効果も実に高いので、炭素公害のほぼ正反対の性質だとさえいえる。問題を引き起こしたのは、炭素公害の「フリーライダー」効果だ。十分な排出対策をするというのは、万人の狭い利己性にあわない。そこから脱出しようとしてジオエンジニアリングを採用するようわれわれに仕向けるのは、「フリードライバに!」効果かもしれない。実に安上がりだから、だれかが自分一人の利益のために、もっと広い影響などお構いなしにそれをやってしまうだろうというわけだ。

 だが、先を急ぎすぎた。まずはビッグ4に順番に取り組もう。まずは、なぜ気候変動が究極の「フリーライダー」問題かということから。

究極のフリーライダー問題

 気候変動はそれが世界的だという点で独特だ。北京のスモッグはひどい。ひどすぎて、本当に劇的な健康上の影響があるため、同市の役人は学校を閉鎖するなどの厳しい対策をとった。でも北京のスモッグ--あるいはメキシコシティやロサンゼルスのスモッグ--はほぼその都市に限られている。中国の粉善はアメリカの西海岸の観測所で記録はされる。これはサハラ砂漠の砂がときどき中央ヨーロッパにまで吹き飛ばされるのと同じだ。

 でもその影響はといえば、その地域に限られる。

 二酸化炭素だとそうはいかない。1トンの二酸化炭素を地球のどこで排出しようが関係ない。その影響は地域内にとどまっても、現象は全世界的だ--そして環境問題の中では--こうした例はほかにほぼない。南極上空のオソンホールは困ったものだが、最大の場合でも、全地球を覆うほどにはならなかった。同じことが生物多様性の喪失や森林減少などについても言える。これらは地域的な問題だ。それらをまとめて、世界的な影響を持つ現象にしているのは気候変動だ。

 地球温暖化が世界的な問題だという性質は、まともな気候政策の実施を妨げる要因の大きなひとつだ。有権者に、自分たち自身の公害制限を実施させるのですら難しい。そうした制限の受益者が自分たちで、他のだれにも影響せず、行動の便益が費用を上回る場合ですらそうなのだ。費用が地元の負担となるのに、その便益が全世界的となったら、有権者たちに公害制限を導入させるのはずっと難しくなる。全惑星的な「フリーライダー」問題というわけだ。

長期性

 気候変動はその長期性の点でも独特だ。過去10年は、人類史上で最も暖かい10年だった。その前の10年は、2番目に暖かい10年だ。その前は、3番目に暖かい。2014年アメリカ気候変動評価が述べているように「アメリカ人たちは身の回りいたるところで変化に気がつきはじめている」。変化が最も露骨なのは、北極圏だ。北極海の氷は過去たった30年でヽすでにその面積を半分失い、体積を4分の3も失っている。「来る北極海ブーム」を描いた『フォーリンポリシー』誌の記事は、これらすべてを当然の前提としている。さらにそこらじゅうに目に見える変化がある。またもやアメリカ気候変動評価を見よう。

 「一部沿岸都市の住民たちは、嵐や高潮で街路が以前より頻繁に浸水するのを目にしている。大河に近い内陸部の都市も、特に中西部と北東部で以前より洪水が増えている。一部の脆弱な地域では保険料が上がりつつあり、またもはや保険を引き受けてもらえない地域も出てきた。気候が暑く乾燥したものとなり、雪解けも早まったことで、西部の山火事が春に始まる時期も早まり、秋遅くなっても続き、延焼面積も広がる」

 気候変動は起きているし、もはや消える様子はない。

 このどれひとつとして、気候変動の最悪の影響はずっと先になるという事実を覆い隠すべきものではない。その影響は、しばしば世界的で長期的な平均値の中にあらわれる。2100年における世界の平均表面温度予想や、何十年何世紀も先の地球平均海面水準の予想値などだ。これがまともな気候政策を阻害する第2の要因だ。最悪の影響はずっと先になる--こうした予想を避けるためには、いま行動しなければならないというのに。

不可逆性

 気候変動は逆転不能だという点でも独特だ。明日炭素排出を止めたとしても、何十年にもわたる温暖化と何世紀にもわたる海面上県はすでにロックインされている。いずれ起こる、巨大な西南極氷床の完全な融解は、すでに止められないかもしれない。もっと極端な気候事象がすでに起こりつつあり、今後当分は起こり続ける。

 人類が石炭を燃やしはじめた頃には存在しなかった、大気中の過剰な二酸化炭素の3分の2以上は、100年後もまだ大気中にある。1000年経っても、3分の1は優に残っている。こうした変化は長期的だ。そして--少なくとも人類の時間感覚で言えば--ほぼ不可逆的だ。これが問題を難しくする要因の3つめだ。

不確実性

 この3つの要因だけでは足りないとでも言うように、気候変動にはもうひとつ独特の特徴があって、これがビッグ4のしんがりとなるし、また4つの中で最大のものにもなっているかもしれない。不確実性だ--いま、わかっていないことがわかっていることすべて、そしておそらくもっと重要なこととして、わかっていないことすらわかっていないことだ。

 二酸化炭素濃度が今日と同水準の4002匹だった以前の時期は、地質学の時計では「鮮新世」となっている。つまり300万年以上前であり、大気中の余計な炭素を出しだのは自動車や工場ではなく、自然変動だった。地球の平均気温は現代よりも1~2・5℃くらい暖かく、海面は最大20メートル高く、カナダにはラクダがいた。

 今日では、こうした劇的な変化はどれも予想されるものではない。温室効果が全面的に効果を発揮するには、何十年、何世紀も必要とする。最近の北極海での変化はあっても、氷床が融けるには何+年、何世紀とかかる。世界の海面がそれに応じて変わるにも何十年、何世紀とかかる。二酸化炭素の濃度は300万年前は400ppmだったにしても、海面上昇はその後何十年、何世紀と遅れて発生した。この時間差は重要だし、こうした現象すべての長期性と不可逆性を示している。前出の、2つ目と3つ目の要因を見よう。でもこれは大した慰めにはならない。そしてこの4つ目の要因には重要なひねりが加わっている。
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