未唯への手紙
未唯への手紙
パレスチナ問題解決の展望はどこに
『アラブ革命への視角』より
パレスチナ問題解決の展望はどこに
イスラエル建国以前から今日に至るパレスチナ問題の長くて複雑な経過を追ってきた。パレスチナ問題解決への展望はと聞かれれば、率直に言って、筆者には、どうもアメリカとイスラエルの現政権は、本音のところで問題を解決しようという積極的な意思はないのではないか、それよりむしろ、イスラエル・パレスチナ間の対立と相互不信を煽り、解決をますます困難にすることが、アメリカとイスラエルの体制維持に必要なのではないかとすら思える。とりわけ、アメリカの国内体制に関しては、軍需産業とネオコンとの利権上の深いつながりと、大統領選挙におけるユダヤ人組織票への依存がある。ユダヤ人社会とキリスト教福音派の強力な政治的・経済的同盟関係がアメリカの中東政策を牛耳っている。したがって、イスラエル・パレスチナ双方の持続的な平和を願う一般庶民がそうしたからくりに気付き、その枠組みを打ち壊し、ユダヤ人とパレスチナ人の間の民族和解が公正に進めば、歴史的な解決の方向に向かう可能性が開けることは間違いない。
イスラエルの側の主要な思想潮流を確認しておくのも必要である。ごく大雑把に言えば、シオニスト極右の主張は、アラブは広いのだから、そしてヨルダンの一部は英委任統治以前にはパレスチナと呼ばれる地域に含まれていたのだから、パレスチナ人はヨルダンに移住し、その他のアラブ諸国に難民として暮らしている場合は、そこの国民になればよいというものである。彼らの目標は、パレスチナ全土を国土とするイスラエルを作ることである。それを大イスラエル主義と呼ぶが、そういう解決法はヨルダン・オプションとも呼ばれてきた。それは、あまりにも手前勝手で時代錯誤としか言いようがない要求である。現政権を担うリク・ド・イスラエル我が家党連立内閣は、主にシオニスト右派・極右勢力からなり、占領地にユダヤ人入植地をできる限りたくさん作り、既成事実を積み重ねることで事実上イスラエルの国土を拡大するというシオニズム特有の方法を追求している。彼らも大イスラエル主義者である。
かつて和平派と呼ばれる労働党政権下で提案された二国案(二〇〇〇年のキャンプ・デービッド交渉でのバラク案)は、パレスチナ人には、西岸における三つに分断された小区域とガザ地区を「国家」として与え、イスラエルの完全監視の下に置くというものであった。他方、シオニスト左派の人々は、国際的に認められた四九年の国境線を守り、それ以後戦争で占領した地をパレスチナ人に返還することで二国家を実現し、共存する道を是とする。彼らの中には、占領地における入植地拡大に反対し、パレスチナ住民とともに座り込みを行ったりして、イスラエル軍に抵抗しているグループもある。
注目すべき知的営為も始まった。一九八〇年代半ばに建国当時の情報が公開されるようになるに従い、歴史家の間にシオニズム自体を批判するグループが現れた。彼らは、ごく簡単に言って、従来広く信じ込まされてきた公式の歴史観、とりわけ建国にまつわる公式史観を「建国神話」=虚偽であると実証する歴史家たちである。イラン・パペを中心とするこれら歴史家たちはニュー・ヒストリアンと呼ばれている。
さらに、そもそも「ユダヤ人」なる概念は、聖書からシオニズムにいたるまでの創作された物語によってつくられたのだという、歴史の「常識」をひっくり返すような衝撃的書物も最近刊行された(シュロモー・サンド『ユダヤ人の起源』浩気社、二〇一〇年)。イスラエル建国以後生まれた研究者の間に、シオニズムを見直し、パレスチナ人との然るべき関係を真剣に模索する勢力が現れたことに、パレスチナ問題の新しい次元での解決に至る大いなる展望を見いだすことができる。もちろん、脱シオニズム化、脱植民地主義化したイスラエルという状況に到達するまでには、幾多の試行錯誤が必要であろう。それに対応するパレスチナ側の理論構築と実践的対応も必要となろう。六〇年代の権威主義的アラブ指導者たちが口にした「ユダヤ人を海に突き落とせ」というスローガンでもなく、反対に、ひたすらイスラエルとアメリカとの妥協によるミニ・ミニ国家という袋小路でもない展望を切り開く見通しと闘争方法を考えなければならないだろう。将来において、パレスチナ人とイスラエル人双方の市民の連帯にもとづく新しいタイプの革命による新しい国家という展望が最も理想的であると同時に、意外にも最も現実的な展望であるかもしれない。アラブ革命がその展望を示してくれている。
パレスチナ問題解決の展望はどこに
イスラエル建国以前から今日に至るパレスチナ問題の長くて複雑な経過を追ってきた。パレスチナ問題解決への展望はと聞かれれば、率直に言って、筆者には、どうもアメリカとイスラエルの現政権は、本音のところで問題を解決しようという積極的な意思はないのではないか、それよりむしろ、イスラエル・パレスチナ間の対立と相互不信を煽り、解決をますます困難にすることが、アメリカとイスラエルの体制維持に必要なのではないかとすら思える。とりわけ、アメリカの国内体制に関しては、軍需産業とネオコンとの利権上の深いつながりと、大統領選挙におけるユダヤ人組織票への依存がある。ユダヤ人社会とキリスト教福音派の強力な政治的・経済的同盟関係がアメリカの中東政策を牛耳っている。したがって、イスラエル・パレスチナ双方の持続的な平和を願う一般庶民がそうしたからくりに気付き、その枠組みを打ち壊し、ユダヤ人とパレスチナ人の間の民族和解が公正に進めば、歴史的な解決の方向に向かう可能性が開けることは間違いない。
イスラエルの側の主要な思想潮流を確認しておくのも必要である。ごく大雑把に言えば、シオニスト極右の主張は、アラブは広いのだから、そしてヨルダンの一部は英委任統治以前にはパレスチナと呼ばれる地域に含まれていたのだから、パレスチナ人はヨルダンに移住し、その他のアラブ諸国に難民として暮らしている場合は、そこの国民になればよいというものである。彼らの目標は、パレスチナ全土を国土とするイスラエルを作ることである。それを大イスラエル主義と呼ぶが、そういう解決法はヨルダン・オプションとも呼ばれてきた。それは、あまりにも手前勝手で時代錯誤としか言いようがない要求である。現政権を担うリク・ド・イスラエル我が家党連立内閣は、主にシオニスト右派・極右勢力からなり、占領地にユダヤ人入植地をできる限りたくさん作り、既成事実を積み重ねることで事実上イスラエルの国土を拡大するというシオニズム特有の方法を追求している。彼らも大イスラエル主義者である。
かつて和平派と呼ばれる労働党政権下で提案された二国案(二〇〇〇年のキャンプ・デービッド交渉でのバラク案)は、パレスチナ人には、西岸における三つに分断された小区域とガザ地区を「国家」として与え、イスラエルの完全監視の下に置くというものであった。他方、シオニスト左派の人々は、国際的に認められた四九年の国境線を守り、それ以後戦争で占領した地をパレスチナ人に返還することで二国家を実現し、共存する道を是とする。彼らの中には、占領地における入植地拡大に反対し、パレスチナ住民とともに座り込みを行ったりして、イスラエル軍に抵抗しているグループもある。
注目すべき知的営為も始まった。一九八〇年代半ばに建国当時の情報が公開されるようになるに従い、歴史家の間にシオニズム自体を批判するグループが現れた。彼らは、ごく簡単に言って、従来広く信じ込まされてきた公式の歴史観、とりわけ建国にまつわる公式史観を「建国神話」=虚偽であると実証する歴史家たちである。イラン・パペを中心とするこれら歴史家たちはニュー・ヒストリアンと呼ばれている。
さらに、そもそも「ユダヤ人」なる概念は、聖書からシオニズムにいたるまでの創作された物語によってつくられたのだという、歴史の「常識」をひっくり返すような衝撃的書物も最近刊行された(シュロモー・サンド『ユダヤ人の起源』浩気社、二〇一〇年)。イスラエル建国以後生まれた研究者の間に、シオニズムを見直し、パレスチナ人との然るべき関係を真剣に模索する勢力が現れたことに、パレスチナ問題の新しい次元での解決に至る大いなる展望を見いだすことができる。もちろん、脱シオニズム化、脱植民地主義化したイスラエルという状況に到達するまでには、幾多の試行錯誤が必要であろう。それに対応するパレスチナ側の理論構築と実践的対応も必要となろう。六〇年代の権威主義的アラブ指導者たちが口にした「ユダヤ人を海に突き落とせ」というスローガンでもなく、反対に、ひたすらイスラエルとアメリカとの妥協によるミニ・ミニ国家という袋小路でもない展望を切り開く見通しと闘争方法を考えなければならないだろう。将来において、パレスチナ人とイスラエル人双方の市民の連帯にもとづく新しいタイプの革命による新しい国家という展望が最も理想的であると同時に、意外にも最も現実的な展望であるかもしれない。アラブ革命がその展望を示してくれている。
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
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その間はイスラエルの領土。
この解釈をエジプト人のアムロさんから聞いた時に、アラブとイスラエルの間の深い溝を感じた。