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プロボノワーカーを支える動機

『プロボノ』より

「ソーシャル」に向かうビジネスパーソン

 最近は「ソーシャル」という言葉が輝きを放ち、多くの人が日常的に口にするようになってきた。そこには大きく二つの意味がある。

 一つはストレートに「社会的な」という意味合いだ。

 社会起業家などに注目が集まっていることについては第1章でも述べたとおりだが、私的利益ではなく社会的な課題の解決や社会にとっての利益に対する関心が集まってきているなかで、「ソーシャルなテーマ」「ソーシャルな活動」は、決して特定のイデオロギーに傾倒した人だけが追い求める特殊なことではなくなってきているのだ。

 もう一つの「ソーシャル」という言葉の使い方は、「ソーシャルネットワーク」に代表されるような、人とのつながりを意味する使い方だ。英語の表現で、人と交流をすることを「ソーシャライズする」と言ったりすることがあるし、バーなどで人と会って話をするときだけ煙草を吸う人を「ソーシャルスモーカー」という言い回しなどもある。こうした表現から感じ取ることができる通り、人との関わりという意味が「ソーシャル」という言葉には含まれている。

 このような動きの背景にあるものは何だろうか。大きく三つの理由が考えられる。

  (一)仕事と職場に対する複雑な思い
  (二)先細りする企業の教育投資
  (三)広い視野を求められる仕事

 いまの社会人は、会社の方向性や将来性に対する不満や不安を感じながらも、会社を辞めることには慎重であるということ、一方で厳しい経済環境にある企業は従業員に対する教育投資を削減せざるを得ず、これまで以上に個々人で成長の機会を社外に見つけるべき状況にあること、さらに、企業は従来以上に社会の多様な主体との関わりを意識することが求められるようになってきた中で、社会人は自身の視野を広げるべきことが時代の要請となりつつあること、こうしたさまざまな背景が、社会人をして「ソーシャル」に向かわしめる要因ではないだろうか。プロボノワーカーの登場は、こうした日本の働き手の仕事をめぐる環境と密接に結びついているように思う。

プロボノワーカーの参加動機

 このような社会の背景と、実際のプロボノワーカーの姿とは、果たして見合っているだろうか。 そこで、筆者が運営するプロボノの活動「サービスグラント」に登録するボランティアの参加動機に迫ってみたい。

 上位三位までに並ぶ要素を眺めていると、「スキルを活かして」「社会貢献をしながら」「自身の成長にもつながる」という、プロボノのメッセージを、プロボノワーカーたちもバランスよく感じとっているように思われる。と同時に、自身の成長が最上位に上るのではなく、むしろ自身のスキルをもっと有効に活用したい、社会に生かしていきたいという声がトップに来るところに、プロボノワーカーたちのモラルの高さが感じられる。

 参考までに、この中で最もスコアが低かったのが「余暇活用」であった。これは時間が余っているといった表現を抽出したものだが、そうした回答は全体的に少数派だった。また、下から二番目となった回答が、将来、自身でNPOや社会事業を立ち上げたいと考えておりその参考としてプロボノに取り組もうとする声で、これは三九二人中二一人にしかすぎなかった。もちろん、起業を考えている人でも、自ら記入しない人もいるだろうが、自身でNPOのリーダーや社会起業家として立ち上がろうとまで考えている人はやはり少数派のようだ。

 下から第三位にあるのが仕事への疑問や仕事の達成感のなさについて触れたものである。つまり、いまの仕事が充実していないから、あるいは、仕事に対する不満があることが要因となってプロボノに参加するというストーリーは、全体を見渡した中で決して多数とはいえない。ビジネスパーソンがプロボノに向かう理由を、会社の仕事が不満だから、仕事が充実していないから、あるいは、会社に対する何らかの抗議の表れとして、といった理由で解釈しようとすれば、それは、プロボノワーカーに対する見方として、一面的に過ぎるものといえよう。
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