goo

包囲戦略 マイクロソフトの勝因と敗因

『プラットフォーラムの教科書』より

マイクロソフトの主力製品であるウィンドウズは、補完製品(アプリケーション)を必要とするプラットフォーム製品である。マイクロソフトは、このプラットフォーム製品のシェア占有によって、自社提供のアプリケーションソフト(ワード、エクセルなど)でも大きな成功を収めてきた。ここではブラウザ戦争の歴史を通じて、マイクロソフトの成功パターンのメカニズムと弱点について考えてみよう。

PCで逆転勝利したがスマホで地盤沈下

 1975年、ビル・ゲイツがハーバード大学を中退して、ポールーアレンとともに設立したマイクロソフトの成功は、1981年に発売されたIBMのPCにOS(基本ソフト)とDOSが採用されたことに遡る。今でもマイクロソフトの主力商品は、DOSを発展させてきたウィンドウズである。

 マイクロソフトは、何度も他の企業から挑戦を受けてきた。最初にマイクロソフトが大きな危機感を持ったのは、インターネットの誕生と成長であった。1990年代半ばに、ネット上のテキストや図表などのコンテンツを表示するソフトウェア(ブラウザ)として、ネットスケープ・ナビゲーター(以下NN)が急速に普及していく中で、最初のうちマイクロソフトは対抗商品を持っていなかった。

 ネットスケープがNNとウェブサーバー・ソフトウェア群をリリースしたのは、1994年12月であった。対するマイクロソフトがインターネットーエクスプローラー(以下IE」をリリースして市場に参入したのは1995年8月である。そしてマイクロソフトは、ネットスケープを逆転することに成功したのである。

 最近、マイクロソフトは、スマホなどのモバイル機器の発展によって、新たな挑戦を受けている。スマホやタブレットでは、マイクロソフト以外の会社が提供しているブラウザが使われていることが多く、PCの地盤沈下がマイクロソフトに不利に働いている。PDA用OSでは、マイクロソフトは先発企業の1つであったが、スマホではiOSとAndroidに大きく格差をつけられ、後発的立場となっている。また、グーグルの上からの包囲戦略を取るクロームにPC市場でも追い上げられてきている。

マイクロソフトの戦略が崩壊

 こうした新しいブラウザの攻勢によってIEのシェアは2010年以降、急速に低下している。

 IEとそれ以外のブラウザの競争は、見方を変えれば、OSにバンドルされているブラウザと、後からユーザー自身がインストールするブラウザとの競争ともいえる。これまでのところ、OSにバンドルされたブラウザ(IE)を使うユーザーが多かった。ここで活きるのが、ウィンドウズのシェアの高さであった。

 しかし、状況は変わった。大きな影響を与えたのは、デバイスの多様化とクラウドコンピューティングの進展である。

 デバイスの多様化は、PC以外のブラウザ使用場面を増やした。多くの人が、携帯電話や夕ブレットでインターネットにアクセスするようになっている。この結果、これらの機器でのブラウザのシェアが低いIEにとって、状況は不利になっていった。マイクロソフトは、携帯電話やタブレットでは、現時点ではOSにおいても大きなシェアを取れていない。このことは、PC以外の機器のブラウザ市場で、OSとのバンドル戦略(下からの包囲戦略)が機能しないことを意味する。

 この結果、PCのブラウザ市場でもマイクロソフトのシェアは低下し、現状では2位になったと言われる。1位になったのは、Gメールなど「上からの包囲」に成功したグーグルのクロームである。タブレットやスマホでIEを使っていないユーザーは、IEにこだわりを持たなくなったことも大きい。

 クラウドコンピューティングの進展に伴い、ブラウザ上で動作するアプリケーションが、企業でますます使われるようになってきている。そのような状況下では、OSの重要性が相対的に低下し、代わりにブラウザの操作性やウェブアプリケーションの動作速度といった点が、特に企業ユーザーや先進ユーザーにとって重要になる。この場合、これらのユーザーは機能の小さな違いにも敏感になる傾向がある。こうした状況変化によって、マイクロソフトが得意としてきたプラットフォーム包囲戦略(隣接上位階層の製品を売り込む戦略)のパワーは低下した。一人勝ちの大きな要因となってきたPCのOSでのシェアの高さが、必ずしもブラウザのシェア維持に十分貢献しなくなってきているのである。

包囲戦略が有効でなくなった要因

 OSという典型的なプラットフォーム製品で一人勝ちに成功したマイクロソフトは、その力を使ってブラウザという補完製品でもシェアの独占に成功した。

 しかし、マイクロソフトは、2005年頃から、ブラウザのシェアを下げ、グーグルに逆転を許した。その理由を再度まとめると、以下の2つである。この要因は、ブラウザ市場だけではなく他のプラットフォーム製品にも通じる。

デバイスの多様化と構成比率の変化

 プラットフォーム製品が、自製品を使用するためにさらに前提となる製品を想定している場合がある。ブラウザの場合はOSが、OSの場合はハードがそれに該当する。ウィンドウズはPC、より厳密にはインテル社のCPU(マイクロプロセッサ)とその互換品を前提にした製品である。

 このようなことは、音楽管理ソフト(例:ITunes)と携帯音楽プレイヤー(例:IPOd)、電子マネーと読取装置(リーダー)、電子書籍アプリと端末(ハード)などにも当てはまる。

 このような場合、デバイスの多様化によって、自分の前提製品のシェアが低下すると、自社の力が損なわれることがある。インターネット利用機器としてのPCの重要性が減り、携帯電話やタブレットがより重要になってきていることは、この「デバイスの多様化と構成比率の変化」の事例だと言える。

コンテンツのマルチプラットフォーム性

 プラットフォーム製品は、補完製品を持つ。この補完製品が他のプラットフォーム製品でも使える場合には、プラットフォーム製品のシェアの支配力が隣接階層で効かなくなる。他のプラットフォーム上でも使えることを、「マルチプラットフォーム性がある」と言う。

 ブラウザにおいては、ウェブコンテンツが、この補完製品に当たる。-Eでしか適正に閲覧できないコンテンツがあったことがIEの一人勝ちの進行を促した。しかし、コンテンツの標準化(どのブラウザでも読めること)が徹底すれば、マルチブラッドフォームとなり、このメカニズムは働かなくなる。

 同様に、音楽ファイルの形式が自社独自であること(例:IPodにおけるFairP-ayでのファイル保護)や、電子書籍ファイルが自社独自であること(例一キンドルにおけるAZWファイル形式)は、一度シェアをとった後は、一人勝ちを促す要因となる。

 後発であるがゆえに、オープンな規格を採用せざるをえない場合(例:電子書籍におけるEPUB方式の採用)や、技術的に自社規格の利用を独占できない場合(例:アクロバットのPDFファイル形式)は、コンテンツがマルチプラットフォーム性を持つことを意味し、一人勝ちを難しくする要刮となる。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ネットワーク... まちゃりんの... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。