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世界を変えた哲学 ニーチェ/ウィトゲンシュタイン

『世界を変えた50の哲学』より

フリードリヒ・ニーチェ

 超人の概念を考案する

 ニーチエといえば、まず思い浮かぶのは「神は死んだ」という宣言かもしれない。 しかし、あまり知られていないことだが、この主張は神の不在を形而上学的に宣言したというよりは、彼の時代の道徳と価値観についての批判的発言という性格が強かった。彼は道徳や価値観が危機におちいっていると考えていた。そして、道徳体系を支える歴史と思想を説明することをとおして、方向性を見失った道徳観の土台をゆるがすに+分なだけ学べるだろうと期待した。

 自分の理論を説明するために、ニーチエは主人の道徳と奴隷の道徳を区別した。主人の道徳では権力、誇り、誠実さなどが「善」として価値がおかれる。それが支配する側の人たちの最善の部分を示すからだ。反対に謙虚さ、弱さ、臆病さなどは軽蔑される。これらが奴隷のメンタリティと結びつくからだ。しかし、奴隷にされた者たち自身は、物事を別の見方で見ている。そして、実際に起こったことは、とくにキリスト教世界では主人の道徳の裏返しだった。

 「善」の概念は弱者を肯定的にとらえる謙虚さ、同情、忍耐のような質を表すだけでなく、弱さ、柔和さ、苦しみの同義語にもなった。これに対して「悪」は、弱者がもっとも軽蔑する権力者の性格、つまり健康、力、権力に対して乱用される言葉になった。この逆転の結果として、人々は奴隷の道徳をもつことになった。ニーチエは主人の道徳に戻ることがいいと思っていたわけではないものの、あきらかにそれに近いことが必要だと考えていた。

 人間の将来についてのニーチエの考えは、「超人」の概念にもっともよく表現されている。崩壊しつつある価値体系で定義される今ある状態の人間は、「のりこえられるべき」存在だ。超人は人類の将来のために立ち上がり、「人間をおおう暗い雲の隙間から差しこむ光」となる。超人の運命は現在の崩壊しつつある価値観の枠組みをすてさり、「力への意志」に従って世界のなかに自分の居場所を記すことだった。

 ニーチエは矛盾を抱えた哲学者だ。あいまいで、謎めいていて、論争をまきおこすと同時に大きな影響力をもつ。「大陸哲学」とでもよぶべき伝統のなかで取り組む哲学者としては、もっとも重要な人物だろう。

ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン

 言語の混乱を分析する

 死後に出版された『哲学探究』のなかで、ウィトゲンシュタインは、哲学は「言語という手段を使ってわれわれの知性をまどわしているものとの戦い」なのだと主張した。彼がその哲学的研究のなかで発達させた観念と、そこから見いだした根本的な心の変化は、おもにこの戦いに役立てるためにとりいれたものだ。

 初期に発表したすぐれた哲学書『論理哲学論考』のなかで、ウィトゲンシュタインは意味の写像理論として知られることになるものの概要を記した。簡単にいえば、言語の論理的構造は現実の構造を写し出している、という主張だ。簡単な命題--たとえば「猫がマットの上にいる」--は、世界で起こる出来事のひとつの可能な状態を選び出している。その命題が真実か否かは、その状況が現実世界に成立しているかどうかによる。ウィトゲンシュタインは、意味のある言語は最終的にこの簡潔な命題の形に凝縮されなければならないと論じた。これには哲学として通用しているほとんどすべてのことがふくまれる。そして実質的には、『論理哲学論考』を構成する発言さえもふくまれる。そうすると、哲学の役割はわたしたちが意味ある発言と意味のない発言を混同しないようにすることになる。

 ウィトゲンシュタインはのちの著作のなかで、言語はそれが使われる背景と切り離すことはできないという見解にいたった。たとえば、軍の練兵場で叫ばれる「早足進め!」という言葉は、母親が子どもたちに早くベッドに入ってほしいと願って口に出すときとは、大きな違いがある。

 言語についての彼の後期の思想は、おもに『哲学探究』のなかで述べられているが、そこで彼は、『論理哲学論考』の研究課題は根本的に誤った前提にもとづいていたと認めている。言語は彼が当初考えていたような、論理的な言葉で明確に特定できるような確立した体系ではない。言葉は生きた習慣で、さまざまな目的のために無数ともいえる背景で使うことができる。

 このように、ウィトゲンシュタインは『論理哲学論考』の主張の大部分を否定するようにはなったものの、初期と後期の著作が完全に分裂状態にあると考えるのはまちがっている。彼はその研究生活を通じて、哲学の役割は、わたしたちが言語に混乱させられ、誤った方向に導かれるさまざまな状況を解き明かし分析すること、したがって、哲学的研究は言語の混乱を明らかにし解体することだと信じていた。
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