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暗躍する人材紹介会社

『看護崩壊』より

これまでルポしてきたように、診療報酬や公立病院の再編問題、不採算医療をどう地域が担っていくのかという構造問題に加えて、そもそもの看護師不足という絶対的な厳しい環境があり、特に中小病院や地方の病院では看護師確保が急務の課題となっている。そのようななか、医療の人材ビジネスは1200~2000億円市場ともいわれている。それに乗じて人材紹介会社が暗躍し始め、労働者派遣法改正で看護師の派遣解禁を後押ししようとしている。

04年からの改正法によって、現在、看護師については直接雇用を前提とする紹介予定派遣が認められているが、派遣そのものは禁止されている。厚労省によると労働者派遣の市場は08年度で7兆7892億円と前年度比20・5%増となり、衰えを見せない。しかし一方で、一般企業への事務派遣は飽和状態になっており、製造業への派遣も労働問題が多発したことで派遣法の規制強化を求める改正が議論され、ビジネスとしては厳しい状況に陥っているため、人材ビジネス各社は医療分野に活路を見出そうとしているのだ。今や、インターネットをつなげばどのサイトにも看護師募集の広告が掲載されるように、新たなビジネスチャンスとして看護師という職種にターゲットを向けている。

現在、頓挫している労働者派遣法の改正は10年4月の国会で法案提出され、継続審議となっている(10年12月現在)。厚労省は「専門26業務は現行を前提に法案提出する。法案が通れば、必要に応じて専門業務の範囲を見直す議論をする」としており、水面下では看護師の解禁を狙う動きもあり、予断は許されない状況だ。

都心のある民間病院(20床)の看護部長のもとには、ほとんど毎日ひっきりなしに、「看護師を派遣します」と人材紹介会社から営業コールがかかる。看護師は喉から手が出るほど欲しいところだ。だが、看護師の年収の20%を紹介料として支払うという契約では、ひとり紹介を受ければ新人クラスでも70万円以上を人材紹介会社に支払うことになる。何人かの紹介を受け入れたが、勤務態度がいい加減でほとんど続かない。最終的に職歴2年目の看護師がI人定着したが、1年間で人材紹介会社への支払いは220万円に上った。

また、ある中小民間病院の看護部長は、「紹介会社から派遣された看護師が、ちょうど6ヵ月で辞めてしまう」と憤る。これは現在、労働者派遣法で例外的に認められている看護師の『紹介予定派遣』制度を使った紹介で、6ヵ月の派遣期間を経て本人と派遣先の合意のうえ直接雇用を前提とする制度となる。当然、看護師を確保したい病院側は、6ヵ月後には正職員として迎えるつもりでいるのに、派遣元は派遣ナースを他院に回したいため、直接雇用は結ばせずに次々と同じ看護師を違う病院に派遣しているというのだ。派遣社員の時給は1800円程度。病院が派遣会社に支払う派遣料金は2800円で、5割近くピンハネし、その合計は6ヵ月間で96万円にもなる計算だ。

他の病院では、オペ室の看護師が不足したところへ派遣会社が「1ヵ月、派遣します」と営業をかけてきた。急場をしのぐため、派遣を利用したが、短期派遣はもともと違法。契約時には営業担当者から「派遣ではなく、人材紹介ですから」と念を押された。本人には基本給として月40万円と夜勤手当や残業代が支払われる。日本赤十字看護大学の川嶋氏は、「人材紹介会社が看護業界をビジネスの対象として拡大していくのでは、いくら診療報酬を上げたところで、そうした会社の利益になるだけだ」と憤る。

医療ビジネスを食いものにするのは、人材紹介会社だけではない。看護師は腰痛を患うことが多いが、看護師の腰痛予防の普及を大義名分に元看護師の女性(30代)は、「看護師は、なんだかんだいって一般の人よりお金を持っているからビジネスになる」と任意団体のNPOを設立。腰痛予防のリフトを販売するメーカーとタイアップして大病院を中心に営業をかけている。その女性は筆者の取材に対し、「有料で講習会を開き、メーカーに協賛してもらえば元手はかからない。市場が大きいから賛同しない企業はバカだ。日本の看護業界は遅れているから、海外の例を示せばすぐに話に乗ってくる」と話した。彼女は現在、「海外で盛んな腰痛予防なら日本でも(個人的に)成功するチャンスがあるはず。成功するためにはナンバー(数)が必要。だから看護業界の団体に近づいている」と活動している。

ニートやフリーター問題でも、社会問題化して国や自治体の予算がつくようになると、特定の企業が委託を受け高額な人件費を計上し、予算欲しさに次々にNPO法人が設立されるなど、不透明な資金の流れが起こっている。医療の世界も、同じような危険をはらんでいると言える。
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