古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

STAP細胞論文の査読

2015-09-06 | サイエンス
『捏造の科学者 STAP細胞事件』をGETして読んでみました。
一番興味を惹いたのは、ネイチャーの査読者のコメントでした。

5月のある日、どうしてもほしかったある資料を入手した。STAP論文は、2014年1月にネイチャーに掲載される前、過去3回にわたりネイチャ-を含む一流誌3誌にほぼ同じ内容で投稿され、不採択になっている。資料は掲載時を含む計4回の投稿論文と査読コメント、関連資料の一式だった。
 科学誌に論文が投稿されると、編集部は通常、その論文の研究分野で実績のある研究者2~3人にその論文の査読を依頼する。編集部は、査読者から返ってきたコメントを参考に掲載の可否を決める。査読者の名は明かされず、コメントは不採択の場合も筆者側に送られる。
 一月末の論文発表時の記者会見で、小保方さんはネイチャ-への最初の投稿時エピソードとして、「査読者の一人から『あなたは過去何百年にわたる細胞生物学の歴史を愚弄している』と酷評された」と明かした。一方、当時の論文の内容を知る関係者からは「主要なデータは最初の投稿からほとんど変わらない」と聞いていた。また理科学研究所の調査委員会の報告者などから、不正と認定された画像が過去の投稿論文でも使われていたことがわかっていた。
 ネイチャーはなぜ、一度は却下したずさんな論文を掲載してしまったのか。「研究不正」はどの段階からはじまったのか。それらの謎を解く手がかりが。資料にある筈だ。
小保方氏らは、2014年4月にイーチャー、同年6月米科学誌セル、同年7月に米科学誌サイエンスに相次いで投降した。
 3回の不採択を経て、2012年12月に笹井氏(理研発生・再生科学総合せんたー(CDB)副センタ―長、2014年8月自死)が加わり全面的に書き直し翌年3月ネーチャーに再投稿。12月受理された。
ついでながら、研究者は査読者を自分で選べないが、査読してほしくない人をあらかじめ編集者に伝えることは出来る。関連資料から小保方氏らがセルへの投稿時山中伸也京大教授ルドルフ・イエーニッシュMIT教授(ips細胞や再生医療のトップランナー)を外すことをもとめていたことがわかった。このことからips細胞研究を相当に意識していたと思われる。
 査読コメントを一読して最初に感じたのは、多くのコメントが非常に丁寧に書かれているということだった。
ネイチャー初投稿時の一人目の査読者は、「結論を支えるデータと説明は非常に推論的で予備的だ」など、論文の主張に対して批判し「残念ながらこのまま論文を掲載することはお勧めしない」とのべながらも、その後に、個々の図表類についての問題点や疑問点、改良点を23項目にわたり挙げた。不思議なことに、二人の査読者のコメントのどこにも、小保方氏が紹介した「細胞生物学の歴史を愚弄している」という言葉は見当たらなかった。
「より信頼性が高く正確に検証された追加の実験結果がないままセルで紹介できる自信がない」と結論付けた二人目の査読者は、「研究の妥当性を評価うるために明確にすべき観点」を9項目、細かい指摘を11項目挙げ、後者の中では、「文献は最新のものを参照すべき」というアドバイスとともに文献をいくつも紹介していた。
次に気づいたのは、そうした丁寧な指摘の数々が、次の登校時に生かされた形跡がほとんど見られないということだ。つまり、投稿の回を重ねても、同じような指摘が再びなされているのである。
私たちが最も注目したのは、「新たな万能性細胞」の存在を根本から疑い、別の現象の見間違いである可能性を示唆したり、あるいは根拠となるデータやその分析の不十分さに言及したりするコメントがいくつもあることだ。
 懐疑的な姿勢をあらわにしたのはサイエンスの一人目の査読者だった。――細胞の塊ができたのは、実験室内でES細胞が混入し、生き残って塊を形成したためだろう――と推測した。
ES細胞混入の可能性は、疑義発生後間もない時期からささやかれ、すでに見てきたように、理研の遠藤上級研究員による公開データの解析から、少なくとも遺伝子データを解析したときの「STAP細胞」はES細胞だった可能性が高まっている。すでに2012年の段階で、著者たちが同じ指摘を受けていたことは驚きだった。
それでは、採択に至ったネイチャーの再投稿時はどのように審査されたか。査読者は3人になった。
再投稿の際、論文は主論文の「アーテイクル」と第二論文の「レター」の二本構えになった。アーテイクル論文の主旨はそれまでの投稿論文とほぼ同じ。新たに書き起こされたレター論文は、胎盤にも分化するというSTAP細胞の特性や、いずれもSTAP細胞から樹立した二つの幹細胞――ES細胞に似たSTAP幹細胞と胎盤にも分化するFI幹細胞――についてまとめられていた。

以上を呼んで到達した私の結論。
STAP細胞の存在を結論づけるには、ネイチャー投稿論文にはデータが不十分で、問題があった。結論を確認する追加実験が必要だったが、それはなされなかった。ES細胞の混入ミスは、最初の査読時点に指摘されていた。
 ネイチャーが二度目に掲載を決めたのは、笹井氏や若山市が共著者に加わり、中でも若山氏(クローン羊ドリーをキメラマウスを作ることで確認)ら、この分野で著名な学者が共著者に入ったことから、編集者が掲載の誘惑に勝てなかった。
では、笹井氏らは、なぜ論文のミスに気付かなかったか。「STAP細胞はips細胞を凌駕する」。もし事実なら大発見!国の予算獲得に効果抜群!の錯覚が事実を見誤らせた。
小保方氏は、実験ミスしたのか、それとも意図的にデータを捏造したのか、後者だとしたら、大変な才能の持ち主である。

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