1ヶ月ほど前のこと。
ご近所で一番仲良くしているキャロリン夫妻から、子どもたちが寝静まったあとに夫婦で一緒になにかつまみながらおしゃべりしませんかとお誘いを受けた。
いつもは3人の子どもたちに時間をとられてほとんどプライベートがないという彼女なので、こうやって誰かが来てくれることが一番うれしいという。
Pちゃんも私も、夜8時からの集い、すなわちワイン&チーズと決めてかかっていたけれど、このご夫婦、まずもってアルコールは飲まないらしい。
昨年の
サンクスギビングのときに持っていった赤ワインがそっくりそのままキープされていて、しかも冷蔵庫に入っていたというオチつきだった。
そのいわくつきのワインを半年以上ぶりに開け、形だけグラスについでまずは4人で乾杯したあと、いろんな話で盛り上がる。
そして、自然とキャロリン&ケヴィン夫妻の子どもたちの話題に。
夫妻には6歳になる長女のカイラ、3歳の長男ブランダン、1歳半の次男クレイという3人の子どもたちがいる。
おおらかな夫妻の愛情をいっぱいに受けて、みんなのびのびと育っているといった感じだ。
カイラは年齢からするとエレメンタリースクール(小学校)新入学の年だが、驚いたことにキャロリンは彼女を家で教育するという。
この瞬間、Pちゃんも私も口には出さないまでも即座に「もしや・・・」といやな予感が頭をよぎる。
そう、アメリカでホームスクール、いわゆる学校に行かせず家で教育を受ける家庭の75%は、キリスト教原理主義(エヴァンゲリカル・クリスチャン)である。
ひょっとしてこの夫婦もそうだったのか??
もちろん、ふたりが敬虔なクリスチャンであることは知っていた。それはアメリカではごくごく当たり前のことだし、話をする限りふたりは普通の“節度ある”クリスチャンだと思っていた。
特にケヴィンは、子どもには教育チャネルしか見せないと言っていたので全くもって原理主義のげの字も想像していなかった。
Pちゃんも私も、ホームスクールで内心激しく動揺したものの、まあそういう教育方針ということもあろうと平静を装う。
「近所のお友達が一緒のスクールバスで学校に行くのをうらやましがらない?」
「その年齢でお友達ができなくては心配じゃない?」
「本人が学校に行きたいっていいだしたらどうするの?」
などなど、いろいろと素朴な疑問をふってみた。
Pちゃんなんぞは、
「学校にはいろんないやなこともあるし、いじめに合ったりすることも考えるとそういう(在宅教育)もひとつの手だよね」などと、自らの経験を語りながら肯定気味に相槌を打つ始末。
これには私もちょっと驚いて
「いやいや、そういう悪い経験もすべて含めて学校というのは大切なんじゃない?世の中はもっと厳しいわけで」
と思わず反論。
当の夫婦よりも私たちのほうが熱くなってしまったのだった。
キャロリンは穏やかな口調でこういうのだった。
「そうね。カイラが自分から行きたいって言い出したらそのときに話し合って決めてみようと思うの。それまでは、私がなんとかやってみるわ」
そして、「こんないい教材があるのよ」と持ち出した教材を見て、Pちゃんの顔色が変わった。(私はこのときは全く知らなかった)
その教材
「アポロジア」(Apologia)
こそ、エヴァンゲリストご用達のホームスクール用テキストブックだったのだ。
そのときは「ああ、こういうのもあるのね」とうまく話をあわせてお茶を濁した私たち。
帰りの足取りはふたりとも、ず~んと重かったのは言うまでもない。
なんだ、この絶望感は・・・。
またこうやって、いたいけな子どもたちが恐ろしい宗教の毒牙に飲み込まれていく。彼らには何の罪もないというのに。
カイラは本当に聡明な女の子だ。
彼女の頭はスポンジのように、何でも吸い込んでいくのだろう。
地球の年齢は6000年で、かつて恐竜と人類は共存していた、などと教え込まれるのか?
進化論はでたらめ。すべて生命は神によって作られた、と・・?
この夫婦はまったく普通の、穏やかで細かい気配りのできるやさしいご夫婦である。だからこそ、彼らのごく自然な選択が余計に悲しい。
何より、こうやって親の意思にしたがって“洗脳”の海に入っていこうとする子どもたちを救えないことが切ない。