前からそうだけれど、アメリカではWBCが完全に無視されているので、全くと言っていいほど情報が入ってこない。
結果だけ見たってつまんない。
パソコン中継を見て絶叫した最初の頃が懐かしい・・・。
というわけで、大昔に「Kappo」というWebサイトに書いた記事を懐かしいのでここに再度UP。
(残念ながらアーカイブは残っていないので)
★ SHOKOのシカゴ的生活 ~Vol.5~
メジャーリーガーたちが見た“世界”は
WBCの未来の扉を開けるか?
アメリカでWBC情報を得るのは至難の業。
「Big man comes through in the big game for team Japan again!」(すごい男がビッグゲームでチームジャパンのために再びやってくれた!)
WBC決勝。延長10回の日本の攻撃でイチローが決勝の2点打を放った瞬間、アメリカのスポーツ専門チャネルESPNの実況アナウンサーが絶叫した。
この日私は、日本のテレビ動画とESPNのライブ中継を同時にパソコン画面に小さく並べての観戦体制を敷いていた。しかし9回あたりから、閲覧者のキャパシティを超えたために日本からのテレビ中継はあえなくダウン。勝利の瞬間はせめて日本語の実況を聞いて感動を分かち合いたい、という願いもむなしく、最後までサーバが回復することはなかった。試合終了後、ESPNの動画中継はさっさと終わってしまい、勝利の余韻に浸ることもなくその晩は欲求不満のまま眠りについた。
3年前もそうだったが、アメリカでWBCを見るのは一苦労だ。唯一放映しているESPNを見るためには、視聴者はバカ高いケーブルTVもしくは他の有料サービスに加入しなければならない。つまり、日本のように誰もがWBCを普通に見られるわけではないのだ。また、新聞のスポーツ欄をみてもほとんど見落とすくらいの扱いで、アメリカでWBCを楽しみにしている人たち(ほとんどが日本人、韓国人、キューバ人だが)をイライラさせどおしだった。この温度の低さはいったい何なんだ?
Photo/worldbaseballclassic.com
2006年・第1回WBC決勝。日本がキューバを破った瞬間
(TV中継を求めてはしごした3軒目のスポーツバーでやっと撮影/カリフォルニア)
アメリカ人がWBCにかまっていられない3つの理由。
実はアメリカでは毎年この時期(3月)、全米カレッジバスケットボール大会、俗に言う“March Madness(3月の狂乱)”が開催され、人々を熱狂の渦に陥れる。日本でいうなら「高校野球」といったところ。もちろん地上波チャンネルは連日連夜、時間を延長してまで試合の生中継に忙しい。夜のスポーツニュースは、まずカレッジバスケットから始まり、NBA(全米プロバスケットリーグ)、NHL(全米プロアイスホッケーリーグ)、そしてMLB(メジャーリーグ野球)のオープン戦結果と続き、最後にようやくWBCに順番がまわってくるという具合。つまり、この時期のアメリカ人はひいきのスポーツ観戦で超忙しく、なかなかWBCという聞きなれない大会に関心を移す暇がないのが正直なところ。
また、「メジャーのスター選手たちは出場を辞退している」という、メディアが流す後ろ向きなイメージも、この大会を盛り下げている一因だ。メジャーの選手たちにとってこの時期は開幕前の大事な調整時期。新旧チームメートとのポジション争いも熾烈なうえ、もし怪我でもしてシーズンを棒に振ったら即トレード、最悪クビになる可能性すらある。なのにWBC出場中のリスクに対して彼らには何の保障もない。前回WBCに参加したピッチャーのうち14人は4月~5月で故障者リスト入りし、5人に4人は前年度よりも防御率が落ちていることも『USA Today』のリサーチで明らかになっており、高額の年俸を支払っている球団側も、商品が傷モノになることを恐れてピリピリしているという。
野球選手は“一個人事業主”であり、リスクへの判断は自分で下さねばならないのは日米とも同じはずなのに、日本では代表チームへの参加を辞退した選手や球団が“非国民”扱いされ、アメリカではむしろ辞退することを歓迎する風潮すらある・・・「集団の価値観」という文化の前には、当たり前の議論も正反対に動くというのは、実に興味深い。
アメリカ国外のことには何も関心がないアメリカ人。
しかし、アメリカで暮らしていてもっとも強く感じる要因は、アメリカ人の根っこにある“アメリカ至上主義”ではないかと思う。いはく「そもそもメジャーは世界のトップスターたちが集まった世界一の野球リーグであり、世界一を国別に争う意味なんかない」。そのうえ、“出稼ぎスター”たちが祖国に戻ってしまった空虚なチーム=絶対に勝つとは断言できないチームに対するアメリカ人の態度は、呆れるほど冷ややかだ。
これは何も野球やスポーツに限ったことではなく、政治や文化、全世界的な問題(地球温暖化問題などもそのひとつ)などに対する日ごろのアメリカ(人)の態度を見ていれば合点がいく。「アメリカは世界だ」と自負する人々は、自分の国の中で完結することを好み、他国の情報やましてや交流には全くと言っていいほど興味関心を示さない。ましてや負けるところなんか見たくもない。アメリカ一を決めるゲームを“ワールドシリーズ”と呼ぶのもしかり。このアメリカ至上主義がたまたまWBCでまた浮き彫りになった、ただそれだけなのだ。
WBCの目的は大リーグの市場拡大と人材発掘。
関心の全ては「the next big foreign import(次なる輸入=メジャー入りする人材)」に向けられている。
(“シカゴ・トリビューン”記事)
「祖国かチームか」究極の選択に悩む大リーガーたち。
WBCへの参加をめぐっては、メジャーリーガーたち、とりわけ外国人選手たちにとって相当な葛藤があった。シカゴ地元紙「シカゴ・トリビューン」で、現在シカゴカブスで活躍するピッチャーのカルロス・マーモル選手(ドミニカ出身)がその揺れる心のうちを吐露していた。彼がドミニカ代表としてWBCに出場を決めたとき、ピネラ(カブス)監督が『彼がいない間、ケヴィン(ストッパーを争うライバル投手)がすごい球を投げるようになるだろうよ』というようなきついジョークを飛ばし、それを聞いたカルロス選手はびびって参加をとりやめてしまった。
「難しい決断だよ。ドミニカチームにもNOとは言えないし。ボクにとってはじめての(WBC出場の)オファーだったのに、それを断るのはきつかった。国に帰ったとき国民がボクを責めないでくれることを祈る」とマーモル。しかしその7日後、ドミニカチームの監督に「義務感と愛国心」を問いただされた彼は、またしても心を翻すことになる。この揺れる想いはしかし、アメリカ人には滑稽に映るらしい。
「アメリカに魂を売ったやつ、愛国心のないやつと祖国の人たちの怒りを買うことを恐れる外国人選手の気持ちなんか所詮知るもんか、というのがほとんどのメジャーファンの気持ちだろう」と記事は指摘する。
2008年にカブスに入団した福留選手も“血祭り”にあげられたひとり。
「コースケ・フクドメは、昨シーズンの後半はまったくの不調に終わったのだから、この春のトレーニングでこそ(チームに残って)復調を証明すべきなのに、それよりも日本チームに参加することを選んだ。それもカルロスと全く同じ理由なのだろう」と、皮肉たっぷりだ。「4年間で4800万ドル(当時のレートで約54億7200万円)も支払っている選手は、まずチームをメインに考えるべきだ。シーズン後半はボロボロだった選手がWBCだって?今の彼はアメリカの環境にもっと慣れることが先決だろう」と手厳しい。
まずメジャーありきのアメリカで生きる外国人選手たちは、どんな雑音にもタフでなければ生きていけない。
カルロス・マーモル選手(左)は、最後はピネラ監督(右)の「心配するな」の一言で出場を決めた。
Photo by/ http://mlb.mlb.com/news (AP)
「U.S. good enough to win」
(アメリカチームには勝つ力があった)
「主要選手の辞退が相次いだアメリカチームは戦力的に決して強力とはいえない」― 大会前から、そして日本に負けて準決勝敗退した後、MLBコミッショナーがしきりに口にする言い訳だ。まるで“抜け殻”のように言われ続けたアメリカ代表チームの選手たちは、実際どう感じていたのだろう?
「U.S. had enough stars to win but simply was outplayed by Japan in the semifinal game.(アメリカチームは十分勝つ力のあるメンバーだった。ただ準決勝では日本が勝った、それだけのことだ)」3月25日付のシカゴ・トリビューン紙で、代表チームに参加したシカゴカブスのテッド・リリー投手はこう反論している。「勝負には必ず勝つなんて保証はないんだ。ドミニカチームも多くのスター選手を欠いていたし、(アメリカが初戦で負けかけた)カナダチームもまた主要スターを欠いていたわけだしね。つまりは勝ち残ったいいチームのうち、最終的に日本がベストの野球をしたということだよ」。
リリー選手だけでなく、実際にWBCに参加したアメリカ代表選手たちは全力で戦い、そして敗れた。でも彼らは無駄に参加し敗れたわけではない。他のメジャー選手ができなかった「アメリカ以外の野球を肌で感じた」という貴重な学習をした。リリー選手は、最も強く印象に残ったこととして日本チームの試合前の練習をあげている。
「日本チームは特に難しい守備練習にものすごく時間をかける。これはメジャーでは普段見られない光景だったね。それに試合で強打者がバントをしてくるのも驚いた。メジャーのようなパワーにたよるゲームではなく、三振をとられないヒッティングスタイルというのもまったく違っていた。上位を争う投手戦では大切なことだ」
「MLBの陰謀」、「世界大会にあらず」・・・などととかくケチばかりつけられるWBCだが、代表チームとして戦った選手たちの真剣プレーは見る者を文句なく熱くしてくれた。何より“ケチの中枢”にいたアメリカ代表選手たちが、純粋にメジャー以外の世界の扉を開け何かを学びとってくれたことが、次への一歩につながると希望をもって信じたい。WBCを真に変革していけるのは、実際にこの“世界大会”を通して野球の醍醐味を再確認した選手たちにほかならないからだ。アメリカのものでも日本のものでもない、野球を心から愛する人たちの大会に少しずつ変わっていくWBCを、野球ファンのひとりとして長い目で見守っていきたい。
WBCのおかげで、今年はメジャー観戦も面白くなりそうだ。
この記事は、筆者の実際の体験に基づき、新聞記事やMLBオフィシャルサイトなどを参照しながらまとめたものです。
その他の参考記事は以下のとおりです。
「アメリカが未来永劫WBCで優勝できない理由」(李啓充)
http://number.goo.ne.jp/baseball/mlb/column/20090326-1-1.html
「選手の出場辞退で騒動勃発!本質的な「矛盾」を抱えたままのWBC」(スポーツジャーナリスト/谷口源太郎)
http://diamond.jp/series/sports_bubble/10010/?page=2
リコメンダー 長野尚子
塩釜で生を受け、塩釜神社で名をいただき、松島の魚介で人生最初の味覚を授かった“三陸ネイティブ”。徳島“阿波”育ち。神戸で大学生活をすごし、出版社の編集者として大阪、東京でディープな日々を過ごす。退社後、カリフォルニアに武者修行へ。現在はシカゴ郊外在住。ブルースな流転人生真っ只中。