第3章 哀しい保身
4月7日 10:51
携帯が鳴る。TOPIAの担当者から。要件はこうだった。
「団体登録申請を受け取ったが、”シン・あらそわ連”というグループの名前を聞いて驚いている。”新”と頭につくことによってあたかもこれまで県が運営していた「あらそわ連」と喧嘩別れしたようで聞こえが悪い。団体名を変えてほしい」。
「新」ではなく「シン」。よりパワーアップしてそのうちコラボレーションしましょう、という友好的な意味であえて同じ名前を名乗らせてもらったこちらの意図が伝わっていないようだ。
そこを何度説明して食い下がっても、
「他にもそういう例(”新〇〇”と名乗る喧嘩別れ連)がある。友好的だと言われても世間はそうは思わない」というばかり。
そもそも、そういうことをイメージするのは徳島県人で阿波踊りに精通しているごく一部の人たちだけのちっちゃいちっちゃい話。
「もう1か月も前から使っていて浸透していますので・・」とやんわりお断りすると、
「その時にご相談いただいていればと」と口調が厳しくなった。
「困りました・・。すでにこの名前で備品も発注していますし、約款も作って各所に提出しています」
「えっ?約款まで作ったんですか?(絶句)」
「はい。今月末のイベントもこの名前で申し込んでおり、広報物にもなっているかと思いますが」
先方は激しく狼狽し、相談しますといっていったん電話は切れた。
なんとも言い難い、口の中に血の匂いが広がったような感覚が広がった。
「自分たちに代わって面倒くさい連員募集をしてくれてありがとう。助かります」とお礼を言われるのかと思っていたのに、真逆だ。
落ち着こう。これはあくまでむこうの誤解だ。
しかし、どうしても腑に落ちないのが「その時にご相談いただいていれば」の一言。
3月5日の結成と同時に「旧あらそわ連」のFacebookで堂々と連名入りでメンバー募集しているし、現に問い合わせの電話が先方に入ったときにもわざわざ回してくれたこともあった。TOPIAの掲示板に「シンあらそわ連」メンバー募集のチラシを掲示してくれたりもした。
てっきり協力体制にあるのだとばかり思っていた。
ここまで自由に泳がせておいて、何等かの理由で急にあわてふためいて止めに入った理由をむしろ知りたいくらいだ。
この電話から約30分後、再び携帯が鳴る。春の祭りの主催者である徳島新聞社から。
11:28
「徳島新聞です。今回の春の阿波踊りにエントリーしていただいた連の中からピックアップして、お話をうかがっています。「シン・あらそわ連」さんはどのような連ですか?「あらそわ連」とのご関係は?」
(このタイミング・・・明らかに偵察だな。)
そのまま録音して聞かせてあげてほしいくらい、きわめて正直に答える。
「エントリーにお書きした通り、県在住の外国人によるグループです。「あらそわ連」は県(TOPIA)の運営ですが、今はコロナ感染リスクで復活予定はないとお聞きしたので私たちが民間で立ち上げました。”旧”あらそわ連の人たちも数人おりますが、ほとんどがここ2年のうちに徳島にやってきた全く新しい人たちです。彼らは阿波踊りを見たことも踊ったこともないまま任期を終えて帰ってしまう。せめて一度経験させてあげたい。この夏にもし「あらそわ連」が復活するなら、それまでのつなぎになりたいと思って結成し、毎週練習をしています。しかし先ほど『世間体が悪いので名前を変えろ』とTOPIAからお叱りの電話が入りました。名前を変えると広報物などでお宅にご迷惑がかかるのではと困っていたところです。
それに、まだ結成したばかりの未熟な連ですし、私はあくまで世話係であり連長ではありませんので取材はお受けできません。すみません」
それを聞いてほっとしたのか、電話は切れた。
14:42 TOPIAよりメール
さて、連の名前に関してですが、小物も作っておられるということでしたので、
こちらで話し合った結果、名前をこれから変更するのはむずかしいでしょう、ということになり、変更していただきたい、という意見は取り下げさせて頂くことにいたしました。
また、当方も、しんあらそわれん さんも、目的は同じで、仲たがいをしている ということではないので、そこを誤解されないよう、少し、設立経緯と目的の書き方を変更頂けたらと思い、記載例を送らせて頂くことにいたしました。
いかがでしょうか?
ご検討よろしくお願いいたします。
経緯
約40年にわたり活動を続けてきた 「あらそわ連」の主旨に賛同し、あらそわ連と連携しながら、有志で阿波おどり活動を行い、徳島在住の外国人をひとつにつなげることを目的として設立。
あらそわ連と同様、「阿波おどりを通じ、人種や国籍、宗教の違いを超えて、世界平和のために、お互いを理解しあう」ことを理念とする。
目的
徳島県在住の外国人およびその家族同士の交流、「阿波踊り」を軸とした県民と の国際交流、異文化理解・多文化共生の啓蒙を目的とする。
ちなみに、こちらが提出した団体登録申請の文言は以下の通り。
設立の経緯
過去40 年間にわたり県主導で毎年活動を続けてきた伝統の徳島県在住外国人による阿波踊り「あらそわ連」が、コロナ禍で活動中断を余儀なくされていることへの危惧から、民間レベルで活動を復活させ、阿波踊りとおして在徳外国人を一つにつなげたいとの思いで設立。
目的
徳島県在住の外国人およびその家族同士の交流、「阿波踊り」を軸とした県民との国際交流、異文化理解の啓蒙を目的とする。
さて、これをじっくり読み解くと、
1)「あらそわ連」の名前を使われると県の事業と思われて紛らわしく、問い合わせなどの対応が面倒くさい。
2)「あらそわ連」と喧嘩別れしたように聞こえて世間体が非常に悪い。
3)設立経緯を読むとあたかも自分たちが仕事をしていないように聞こえるうえ、民間に仕事をとられては役所のメンツがつぶれる。
という理由でイラついているようだ。納得できるのは(1)だけだ。
名前変更をこちらに迫ったものの、新聞社側からは(リーフレットなどの)修正費用もかかるしこの時点では勘弁してほしいと言われ、”話し合った結果”名前だけはこれで許してやるが自分たちとは喧嘩別れしたのではなく協力し連携していること、そのうえで”有志”が勝手にやっていることを明記しろ、ということだ。
当方としてはもちろん、連携・協力したいのはやまやまだしちっとも構わないのだが、踊り手(外国人)の気持ちより自分たちの都合(保身)を図ったことに失望して「協力」という文字がかすんで消えた。
でもって先方の最大のミステイクは、「自治体が世間体を守るために民間団体の約款に口出しをして書き換えを迫ったこと」だろう。
そこに気づいていないことのほうが恐ろしいのだが。
4/8 0:04 TOPIAへの返信
連名の件、ご了承いただきありがとうございました。
「あらそわ連と一緒に頑張ろう」という友好的な気持ちから設立し命名しましたので、「外部から喧嘩別れしたと誤解されるから」というご意見をお聞きして、なんとも悲しく残念な気持ちになりました。
「新あらそわ連」ではなく「シン・あらそわ連」にした理由は、「シン・ゴジラ」「シン・エヴァンゲリオン」「シン・ウルトラマン」のように、外国人にもなじみがあり、”旧態からよりパワーアップした姿”を想起させる期待感があったからです。
事実、2年前の「あらそわ連」メンバーからも「親しみやすくてカッコイイ」と好評です。
彼ら(外国人)にとっては、今、阿波踊りを経験することが一番の目的なのであり、連の名前や所属は全くどうでもいいことなのではないでしょうか。
だから、毎回駐車料金や場所代を支払ってまで参加してくれるのだと思います。
今朝、〇さんからお電話いただいたあとすぐに、徳島新聞さんから取材?の電話がございました。
29日の阿波踊りイベント「絆」に出演する連のひとつとして概要を聞かせてほしい、との聞き取りでした。
まず「あらそわ連」との関係を聞かれ、私たちはあくまでOBを中心とした民間の阿波踊りサークルであり、きたるべき時期には合体することになるでしょう、それまでのつなぎのようなグループです、それまで一緒に練習をしたり、交流をしたりする場を設けることが狙いです、と申し上げました。
名前が紛らわしくよからぬ誤解を受けるとのことから名前を変更するようトピアから注意を受けたばかりで、目下検討中であることも記者の方にお話ししました。29日のイベントの広報物が配布されている今、連の名前を変えることが可能かどうかも主催者である徳島新聞社に直接お聞きしたかったからです。
私はあくまで当グループの世話人であり、裏方に徹して表だった取材などには一切出ないと決めています。
メディア対応には「あらそわ連」の詳しいいきさつに詳しいFさんにお願いするつもりです。
以上、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
4/8 13:45 TOPIAより返信
・・・そういった(熱い)思いを持って、今活動して下さっていることは、十分承知しておりますので、今後も良い関係を継続できればと思っております。
さて・・・・そうしましたら、恐れいりますが、団体登録申請書の経緯と目的のところを、私の方から参考までに昨日、文章を送らせて頂いておりますので、ご検討の上、以前のものを書き直して頂き、再度ご提出頂ければと思います。
手直し頂いた申請書を再度ご提出頂けましたら、TOPIA内で決裁をし、当協会に登録させて頂きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
また、シン・あらそわれんの名前のシンに込められた思い、承知しました。
親しみやすくてカッコイイ とも書かれてありますので、さらに「あらそわ連に 親しむ」「あらそわ連と親しむ」という、ことを含めてご紹介頂ければと思います。
こちらが友好的で協力的であることをわかっていただけたのか、少し態度が軟化。
月末の会議室使用の仮予約をしていただいたことも、知らせてくれた。
もっと簡単に名前くらい変えるだろう、と思っていたら意外と抵抗されて、かえって関係をこじらたことに焦った(?)のかもしれない。
ちょうど新年度で上層部が総入れ替えになり、体制が整っていない時に面倒を起こさないに限る、という判断だろう。
4/10 23:51 TOPIAへ返信
(・・・・あいさつ略)
団体登録申請を再度送らせていただきます。
内容は簡潔にしつつ、”「あらそわ連」と連携しながら・・・”という一文を入れさせていただきました。
設立の経緯
約40年にわたり活動を続けてきた「あらそわ連」の主旨に賛同した有志が、その理念を引き継ぎ、「あらそわ連」と連携しながら活動をさらに活発化させるために設立。
目的
徳島県在住の外国人およびその家族同士の交流、「阿波踊り」を軸とした県民との国際交流、異文化理解・多文化共生の啓蒙を目的とする。
先方が大いに気にしていた「有志」と「連携しながら」の文字を入れた訂正分を提出。
これでとりあえずは、団体登録にからむ「連名変えろ!事件」は収まった(かのように見えた。)
(つづく・・・)