![](http://ia.media-imdb.com/images/M/MV5BMTQwNjkzNzg4NV5BMl5BanBnXkFtZTcwODIxMTM0Nw@@._V1._SY317_CR1,0,214,317_.jpg)
怖いもの見たさで、“Game Change”を見た。
2008年の大統領選で共和党の副大統領候補として一躍有名になった、アラスカ州知事(当時)サラ・ペイレンの選挙戦を描いたポリティカルドラマ。
当時、民主党のオバマ候補の人気にいかに太刀打ちしようかと考えあぐねていた共和党大統領候補、ジョン・マケイン陣営が一か八かの“大博打”として選んだのが女性候補、しかも危険な“スター性”を秘めていたペイレン。
2010年に出版された同名のベストセラー本をもとに、その後ライターが関係者への取材を重ね事実に基づいてて作り上げた作品だ。
映画の見どころはいくつかやってくる。
まず、マケイン陣営がペイレンを選び出すにいたったプロセス。
オバマのカリスマ的人気に危機感を感じていたマケイン陣営は、マケイン側に女性人気が不足していることに着目する。
これを打ち崩すには“色物”で対抗するしかないとふんだ選挙参謀のスティーブ・シュミットは、女性候補に絞り人選を始める。
それも、敬虔なクリスチャン票をとりこむために「プロ・ライフ」、いわゆる人類の誕生は神の手にゆだねられている(もちろん中絶反対派)という思想を貫く人物に的を絞り、ポリティカルな立場や、副大統領にふさわしい教養を備えているのかなどは度外視。
そしてあるとき、ペイレンの演説ビデオを見て彼女に白羽の矢を立てる。
「彼女はスター性を持っている。これならいけるかも」
心配するマケインに向かって「これは大きな賭けだ、でもやるだけの価値はある」と急かすスティーブ。これが国の副大統領候補を選ぶときのセリフかよ、とまず笑ってしまう。
それからは、一夜にして有名人になって有頂天のペイレンの独壇場だ。
次の見どころは、ペイレンの化けの皮がはがれて行くさまと、本人がそれに焦って心身ともにズタズタになっていくプロセス。
世界のことも経済のことも何も知らないただのミス・アラスカ、ホッケーママが勢いだけで知事になり、あろうことか副大統領候補に指名されてしまった悲劇、としかいいようがない。
熟練のジャーナリストたちとのインタビュー番組や、ジョー・バイデン民主党副大統領候補とのディベートなど、彼女にとっての試練が続く。
彼女の“教育担当”になったニコールは、ペイレンのあまりの無知さに自分のやっていることの意義について悩み始める。
「彼女は何も知らな過ぎる。北朝鮮と南朝鮮(韓国)が別の国だってことも知らないのよ」とスティーブに訴える場面ではもう笑うことさえできない。
何度も言うが、これは証言に基づく事実である。
CNNのインタビューでロシアとの外交政策について問われたペイレンが、調子に乗って
「ロシアはアメリカの隣国。アラスカの家からはロシアが見えるのよ」と答えたのはあまりにも有名で、「サタデー・ナイト・ライブ」のパロディーでも何度も使われアメリカ中の笑い草になった。
そのほかにもアフリカを「国」だと思っていたとか、ヨーロッパの国の名前をまともに知らないとか、中学生レベルの地理を知らないという信じられない事実が次々とでてくる。
それでもなんとかディベートを乗り切ろうと、彼女はカードをつかって一生懸命に丸暗記を試みる。
参謀本部も、「わからない質問には答えるな。話を切り替えて時間を稼げ」と指示する。が、そんなもので乗り切れるはずもなかった。
ディベートのたびに無知をさらけ出し、マケイン側の支持率はじりじりと下がっていく。
それでもペイレンは決して自分の無知を嘆かない。
「私は悪くない。私に協力しようしない周りが悪いのよ」
高額な衣装代が問題になるや即刻自分の衣装担当だった女性を首にし、教育係のニコールにも心を閉ざすペイレン。
17歳の娘の妊娠問題や家族の会社のずさんな経営など、次々と暴かれていくプライベートに、怒りを爆発させていく彼女に、陣営は悟るのだった。
やはり彼女を選んだのは間違いだった、と。しかし時すでに遅し。
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この映画自体、共和党やペイレンをこき下ろすためではなく、実際に起こったことを関係者の証言をもとに忠実に再現して作られたものだけに、余計に表現しようのない恐ろしさが湧いてくる。
なんといっても、その風貌から独特のアラスカ訛りの英語から何から、恐ろしいほどペイレンになりきったジュリアン・ムーアの怪演は絶賛に値する。
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映画を見終わって感じたことは、共和党は過去に何も学んでいないということだった。
2012年の選挙ではまたもや副大統領候補に「超保守派」のポール・ライアンを指名して敗れ去った。
しかし決して忘れてはならないのは、依然として45%を超える国民がこんな共和党を支持しているというホラーである・・・。
★2012年のエミー賞では4部門を制した。
Outstanding Miniseries or TV Movie
Julianne Moore( as Sarah Palin):Outstanding Lead Actress in a Miniseries or a Movie
Jay Roach:Outstanding Directing for a Miniseries, Movie, or Dramatic Special
Danny Strong:Outstanding Writing for a Miniseries, Movie, or Dramatic Special