最近たて続けに見た2本の映画(DVD)が、とてもよかったので記録しておこうと思う。
『Temple Grandin』 『My Name Is Khan』
二つの映画にたまたま共通していたことは、主人公が“アスペルガー症候群”であることだ。
アスペルガー症候群(アスペルガーしょうこうぐん、Asperger syndrome: AS)は、社会性・興味・コミュニケーションについて特異性が認められる広汎性発達障害である。各種の診断基準には明記されていないが、全IQが知的障害域でないことが多く「知的障害がない自閉症」として扱われることも多い。なお、世界保健機関・アメリカ合衆国・日本国などにおける公的な文書では、自閉症とは区別して取り扱われる。精神医学において頻用されるアメリカ精神医学会の診断基準 (DSM-IV-TR) ではアスペルガー障害と呼ぶ。
対人関係の障害や、他者の気持ちの推測力など、心の理論の障害が原因の1つであるという説もある。特定の分野への強いこだわりを示したり、運動機能の軽度な障害も見られたりする。しかし、カナータイプ(伝統的な自閉症とされているもの)に見られるような知的障害および言語障害は、比較的少ない。(:Wkipediaより)
~*~*~*~*~*~*
まずひとつめの『Temple Grandin』。
アメリカの動物学者で現在コロラド州立大学准教授でもある、テンプル・グランディン女史の伝記映画だ。
1947年ボストン生まれのテンプルは、2歳の時に脳に障害があると診断される。
まだ“自閉症”が社会に認知される前だった頃。4歳まで言葉を発することができない娘に高学歴の母は呆然とし、「この先も言葉をしゃべることは無理でしょう」という医師の言葉を信じようとせず、彼女に必死で言葉を詰め込もうと特訓するのだった。
その後しばらくして、テンプルは自閉症と診断され、さらにアスペルガー症候群と診断される。
ある夏、おば夫婦の経営する農場にホームステイすることになったテンプルは、そこで動物たちの行動パターンに強い興味を抱くと同時に、今まで眠っていた高度な計算能力を発揮していく。
母親の強いサポートでハイスクールに入学するも、まわりと上手くなじめないテンプル。クラスメートたちにからかわれて数々の問題を起こす彼女の対応に、教師たちも辟易としていた。
しかし、ある人物が彼女の運命を変えることになる。
科学を担当するカーロック先生は彼女のサイエンスに対する強い興味と抜きん出た能力を見抜き、テンプルにある難題を与えるが、彼女もまたそれに見事にこたえていく。
自信を取り戻し、次第に自ら“閉ざされた扉”を開こうとしていくテンプルに、周囲も深い敬意を抱き始める・・・。
日本で「自閉症」ということばはとかく「ひきこもり」と混同されて理解されがちだが、
オーチズム(autism)はまるっきり反対であることを認識しなければならない。
実際にオーチズムの子を持つ母親に話を聞いたことがあるが、自閉症ならぬ「自開症」とでも表現すべき恐ろしいパワーなのだそうだ。
自分の興味関心のあるテーマに入り込んでいるときの集中力がケタ外れである一方、他者の気持ちを推しはかることができないため対人関係をうまく結べない。
映画の中にこれを代弁するシーンがあった。
テンプルのおばが、テンプルのいろいろな表情を写真にとって「これはどんな感情の顔?」と聞いていくが、彼女はよく答えられない。
相手の表情から感情を読みとれないテンプルへの、これは訓練だった。
テンプルはその後、1970年にフランクリン・ピアース・カレッジで心理学学士、1975年にアリゾナ州立大学で動物学修士、1989年にイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にて動物学博士を取得する。
さらに世界的にも有名な「家畜の人道的追い込み・処理方法」を発明した(アメリカの多くの施設はこれを採用している)ほか、現在も自閉症啓蒙活動と、家畜の権利保護について世界的な影響力のある学者として活躍している。
4歳まで言葉が出ず、医者も見離した彼女の社会的成功の理由は、決して見捨てない、あきらめないという母親の執念のサポートと、カーロック先生という素晴らしい指導者にめぐり合ったことにつきる。
また何より、彼女自身が勇気を持って目の前の殻をひとつずつ打ち破っていったことにある。
いったいどれほどの勇気がいっただろう。
この映画は劇場上映されていないので日本でも公開されていないが、
機会があれば是非DVDを手に入れてみてもらいたい。
『ロミオとジュリエット』のClaire Danes の熱演に、個人的にはオスカー主演女優賞をあげたいくらい。
★ここから予告編が見られます。
http://www.hbo.com/movies/temple-grandin/index.html
★ ★ ★ ★
『My Name Is Khan』は、一言で言うと「踊らないボリウッド映画。ボリウッド版“フォレスト・ガンプ”、Anti-Hate Crime映画」
インド・ムンバイの敬虔なイスラム教信者の一家に生まれたKhan(カーン)は、生まれつきアスペルガー症候群と診断される。
成人してアメリカに渡ったカーンは、美容師として働くシングルマザーのマンディラと知り合い、純粋な愛が実って結婚、彼女の息子サムと3人で穏やかな新婚生活をはじめた。
マンディラはヒンズー教徒だったためカーンの家族は反対するが、ふたりにとって宗教の違いなどどうでもよかった。、
しかし、その生活も「9・11テロ」によって一変する。
“カーン”というモスラム特有の苗字に変えたことにより、サムは学校で激しいいじめに合い命を失ってしまう。
その日以来、自責の念にかられて心を閉ざしてしまうマンディラ。
「あなたがモスラムだからサムはこんなことになってしまった。あなたと結婚しなければよかった」
マンディラは取り乱すが、カーンはどうして自分が責められているのか、どうやったら彼女の心を取り戻せることができるのか全く理解できない。
彼女はカーンにこう言い放つ。
「大統領に会って“私の名前はカーンですがテロリストではありません”って言ってくるまで私の前に現れないで!」
その言葉を純粋に受け止めたカーンはひとり、大統領に会う旅に出かける・・・・。
9・11でヘイトクライムの被害者になった人は多い。
褐色の肌をしているだけで、テロリスト扱いされたり、イスラム=テロリストというレッテルを押し付けられたあげく命まで狙われた。
自らの身を守るため、イスラム女性はベールを解き、男性は誇りであった髭をそり落とすほかなかった。
自分のアイデンティティーを隠さねばならない屈辱にじっと堪え忍ぶ日々。
しかし皮肉なことに、モスラムであることとテロ事件を関連付けることのできないカーンだけは、どこにいっても昔と何も変わらぬカーンのままだった。
そのこと(いわゆる丸腰で旅に出た)が、この映画のテーマをより引き立たせている。
彼にとって一番大切だったのは、マンディラの心を取り戻すこと。
彼女にもう一度会いたいという純粋な気持ちだけで大統領に会いに行く、その滑稽ともいえる無謀さが愛おしさに変わっていき、いつしか必死で彼を応援する自分に気づく。
少々雑な進行ではあるが、9・11によってアメリカがどのように動いたかがモスラム側から見ることができる
貴重な映画だと思う。
主演のふたりはボリウッドのスター。
歌って踊らなかったのは、共演して初めてだという。
『Temple Grandin』 『My Name Is Khan』
二つの映画にたまたま共通していたことは、主人公が“アスペルガー症候群”であることだ。
アスペルガー症候群(アスペルガーしょうこうぐん、Asperger syndrome: AS)は、社会性・興味・コミュニケーションについて特異性が認められる広汎性発達障害である。各種の診断基準には明記されていないが、全IQが知的障害域でないことが多く「知的障害がない自閉症」として扱われることも多い。なお、世界保健機関・アメリカ合衆国・日本国などにおける公的な文書では、自閉症とは区別して取り扱われる。精神医学において頻用されるアメリカ精神医学会の診断基準 (DSM-IV-TR) ではアスペルガー障害と呼ぶ。
対人関係の障害や、他者の気持ちの推測力など、心の理論の障害が原因の1つであるという説もある。特定の分野への強いこだわりを示したり、運動機能の軽度な障害も見られたりする。しかし、カナータイプ(伝統的な自閉症とされているもの)に見られるような知的障害および言語障害は、比較的少ない。(:Wkipediaより)
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まずひとつめの『Temple Grandin』。
アメリカの動物学者で現在コロラド州立大学准教授でもある、テンプル・グランディン女史の伝記映画だ。
1947年ボストン生まれのテンプルは、2歳の時に脳に障害があると診断される。
まだ“自閉症”が社会に認知される前だった頃。4歳まで言葉を発することができない娘に高学歴の母は呆然とし、「この先も言葉をしゃべることは無理でしょう」という医師の言葉を信じようとせず、彼女に必死で言葉を詰め込もうと特訓するのだった。
その後しばらくして、テンプルは自閉症と診断され、さらにアスペルガー症候群と診断される。
ある夏、おば夫婦の経営する農場にホームステイすることになったテンプルは、そこで動物たちの行動パターンに強い興味を抱くと同時に、今まで眠っていた高度な計算能力を発揮していく。
母親の強いサポートでハイスクールに入学するも、まわりと上手くなじめないテンプル。クラスメートたちにからかわれて数々の問題を起こす彼女の対応に、教師たちも辟易としていた。
しかし、ある人物が彼女の運命を変えることになる。
科学を担当するカーロック先生は彼女のサイエンスに対する強い興味と抜きん出た能力を見抜き、テンプルにある難題を与えるが、彼女もまたそれに見事にこたえていく。
自信を取り戻し、次第に自ら“閉ざされた扉”を開こうとしていくテンプルに、周囲も深い敬意を抱き始める・・・。
日本で「自閉症」ということばはとかく「ひきこもり」と混同されて理解されがちだが、
オーチズム(autism)はまるっきり反対であることを認識しなければならない。
実際にオーチズムの子を持つ母親に話を聞いたことがあるが、自閉症ならぬ「自開症」とでも表現すべき恐ろしいパワーなのだそうだ。
自分の興味関心のあるテーマに入り込んでいるときの集中力がケタ外れである一方、他者の気持ちを推しはかることができないため対人関係をうまく結べない。
映画の中にこれを代弁するシーンがあった。
テンプルのおばが、テンプルのいろいろな表情を写真にとって「これはどんな感情の顔?」と聞いていくが、彼女はよく答えられない。
相手の表情から感情を読みとれないテンプルへの、これは訓練だった。
テンプルはその後、1970年にフランクリン・ピアース・カレッジで心理学学士、1975年にアリゾナ州立大学で動物学修士、1989年にイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校にて動物学博士を取得する。
さらに世界的にも有名な「家畜の人道的追い込み・処理方法」を発明した(アメリカの多くの施設はこれを採用している)ほか、現在も自閉症啓蒙活動と、家畜の権利保護について世界的な影響力のある学者として活躍している。
4歳まで言葉が出ず、医者も見離した彼女の社会的成功の理由は、決して見捨てない、あきらめないという母親の執念のサポートと、カーロック先生という素晴らしい指導者にめぐり合ったことにつきる。
また何より、彼女自身が勇気を持って目の前の殻をひとつずつ打ち破っていったことにある。
いったいどれほどの勇気がいっただろう。
この映画は劇場上映されていないので日本でも公開されていないが、
機会があれば是非DVDを手に入れてみてもらいたい。
『ロミオとジュリエット』のClaire Danes の熱演に、個人的にはオスカー主演女優賞をあげたいくらい。
★ここから予告編が見られます。
http://www.hbo.com/movies/temple-grandin/index.html
★ ★ ★ ★
『My Name Is Khan』は、一言で言うと「踊らないボリウッド映画。ボリウッド版“フォレスト・ガンプ”、Anti-Hate Crime映画」
インド・ムンバイの敬虔なイスラム教信者の一家に生まれたKhan(カーン)は、生まれつきアスペルガー症候群と診断される。
成人してアメリカに渡ったカーンは、美容師として働くシングルマザーのマンディラと知り合い、純粋な愛が実って結婚、彼女の息子サムと3人で穏やかな新婚生活をはじめた。
マンディラはヒンズー教徒だったためカーンの家族は反対するが、ふたりにとって宗教の違いなどどうでもよかった。、
しかし、その生活も「9・11テロ」によって一変する。
“カーン”というモスラム特有の苗字に変えたことにより、サムは学校で激しいいじめに合い命を失ってしまう。
その日以来、自責の念にかられて心を閉ざしてしまうマンディラ。
「あなたがモスラムだからサムはこんなことになってしまった。あなたと結婚しなければよかった」
マンディラは取り乱すが、カーンはどうして自分が責められているのか、どうやったら彼女の心を取り戻せることができるのか全く理解できない。
彼女はカーンにこう言い放つ。
「大統領に会って“私の名前はカーンですがテロリストではありません”って言ってくるまで私の前に現れないで!」
その言葉を純粋に受け止めたカーンはひとり、大統領に会う旅に出かける・・・・。
9・11でヘイトクライムの被害者になった人は多い。
褐色の肌をしているだけで、テロリスト扱いされたり、イスラム=テロリストというレッテルを押し付けられたあげく命まで狙われた。
自らの身を守るため、イスラム女性はベールを解き、男性は誇りであった髭をそり落とすほかなかった。
自分のアイデンティティーを隠さねばならない屈辱にじっと堪え忍ぶ日々。
しかし皮肉なことに、モスラムであることとテロ事件を関連付けることのできないカーンだけは、どこにいっても昔と何も変わらぬカーンのままだった。
そのこと(いわゆる丸腰で旅に出た)が、この映画のテーマをより引き立たせている。
彼にとって一番大切だったのは、マンディラの心を取り戻すこと。
彼女にもう一度会いたいという純粋な気持ちだけで大統領に会いに行く、その滑稽ともいえる無謀さが愛おしさに変わっていき、いつしか必死で彼を応援する自分に気づく。
少々雑な進行ではあるが、9・11によってアメリカがどのように動いたかがモスラム側から見ることができる
貴重な映画だと思う。
主演のふたりはボリウッドのスター。
歌って踊らなかったのは、共演して初めてだという。