Life in America ~JAPAN編

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城島の退団と、『Sugar』

2009-10-21 01:03:47 | movie
マリナーズの城島が、2年間の契約期間を残して退団し日本に帰るという。
今年は怪我で故障者リスト入りして十分な成績も残せず、もんもんとしていたのだろう。
メジャーの世界は厳しい。ゆっくり怪我を治して来年がんばれよ、というわけにはいかない。使えない選手の後釜はいくらでもいる。昨日のチームメートが今日は他のチームメンバーに、またはクビという状況を毎日のように見ている彼が、最後は「まだピークのうちに日本でプレーしたい」と決断したのはわかるといえばわかる。
自分のピークは自分にしかわからない。だからまわりがなんと言おうとも自分の野球人生を全うするため、家族のため最善をつくすのもまた道理なのだ。

しかし、せっかくFA宣言して日本人初のメジャー捕手として鳴り物入りでやってきたのにたった4シーズン(ココ2年間はあまり出番なし)で日本恋しさに帰るのか?という甘さをつく声も当然上がるだろう。
しょせん日本人プレーヤーは、メジャーをいずれ日本へ帰るための「箔」や「肩書き」のひとつとしてしか考えていない、と見られても仕方がない。


そんなことを強く考えさせられた、心の奥のほうからずしりとくる映画を見た。

『Sugar』 (2008/アメリカ)


今やメジャーリーグの“下請け”となっているドミニカン共和国。
あまり知られてはいないが、ここには“メジャーリーグ養成キャンプ”なるものが存在し、メジャー&アメリカンドリームを目指す若者たちが、貧困の中野球漬けの日々を送っている。
キャンプでは、いつメジャーに行ってもやっていけるように野球用語の英語特訓が行われたり、際立った選手には3A(マイナーリーグ)との契約の仲介も行われる。

19歳の投手、ミゲール・サントス(愛称 azucar、英語で“シュガー”)もアメリカンドリームを夢見る一人。
大好きな野球で家族を助けようとメジャー入りを目指すシュガーに、あるチャンスが訪れる。カンザスシティーのクラブチームにスカウトされ、アイオワにある傘下のマイナーリーグでアメリカデビューすることになったのだ。
夢をふくらませてアイオワに降り立ったシュガーがそこで経験したものは――。

普通のハリウッド映画なら、アメリカンドリームストーリーにしてしまうだろう。
しかし、ライアン・フレックとアナ・ボーデンという若いふたりの監督は、白人だらけの社会の中で言葉もわからずもがく「ある移民の物語」をあくまでも現実世界として見つめていく。

この映画にはふたつのテーマがあるように思う。
ひとつは、貧しい国から家族を養うためにアメリカにやってくる(不法)移民たちの現実。
そしてもうひとつは、「これでしか生きられない」と人生をかけて打ち込んできたものを失ったとき、人はどう生きていくのか。

19歳のシュガーが胸膨らませた夢や希望がやがて、孤独、挫折、へと変わっていく・・・。それでも彼は帰らない。いや、帰れない。
いったん「家族を楽にする」と誓って国を出てきたからは、何があっても歯を食いしばってアメリカでやっていくしかない。そう覚悟を決めるのだ。
年間いったいどれだけのドミニカンやメキシカン、キューバン、ベネズエランの若者たちが、こうやって海をわたってやってくるのだろう。
そしてそのほんの一握りの選手しか、メジャーには上がれない。
ほとんどのその他大勢の選手たちは、マイナーで食うか食わずの生活を送るか、野球をあきらめてただの不法労働者となって居座り続けるしかない。国へ帰ってもさらに貧しい生活が待っているだけだからだ。

★★


この映画を見たあとに城島のニュースを聞くと、ああ、恵まれた日本人たちよ、とつくづく思う。
帰るところがある。そこでは「メジャー経験者さまさま」とさっそく手を広げて待っていてくれる球団があり、あたたかい家族や友人がいる。

去るも地獄。残るも地獄。
“人事は人事(ひとごと)”とは昔の上司の名言。
城島のこれからに注目していきたい。
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