2012年も最後になって、12月にはうれしいニュースが続々と入ってきた。
最初は、この夏一緒に青森の「Japan Blues Festival」に行ったブルースマンのビル・シムズJr.(Bill Sims Jr.)のアルバム『And StillI Rise』が、今年のグラミー賞、ベストブルースアルバム賞にノミネートされたこと。
このアルバムは、彼がお嬢さんのChaneyらと結成しているグループ、“Heritage Blues Orchestra”が今年発表したもの。
彼自身が影響を受けてきたゴスペル、ブルース、Jazz、R&Bの要素と、古き良きブルースの原点がぎっしりと詰まった、素晴らしいアルバムだ。
また、このアルバムには同じくシカゴから青森に行ったマシュー・スコラー(Matthew Skoller)もハーモニカで参加しており、ダブルでめでたいニュースとなった。
ちなみに、マシューのお兄さん、Larry Skollerがこのアルバムのプロデュースを手掛けている。
![](http://ec2.images-amazon.com/images/I/51X%2BdWYJl1L._SL500_AA300_.jpg)
で、しばらくして今度はそのマシューも「ブルース・ファウンデーション」が選ぶ今年のベスト・ソングに(作曲者として)ノミネートされたというニュースが飛び込んできた。
どちらかというとPops寄りのグラミーとちがって、こちらはブルースに特化した賞、いわばブルースマンにとってはより栄誉な賞ともいえる。
そこでベストソングに選ばれるというのは、彼の作曲者としての実力を証明したことになる。
そしてこの曲『The Devil Ain't Got No Music』を歌うのは、あのルリー・ベル(Lurrie Bell)。
彼も、この夏おなじ時間を過ごした一人。
青森はやっぱり“ブルースの聖地”なのか?
私はただ彼らをシカゴから青森にお連れしただけのツアーコンダクターに過ぎないけれど、
彼らと一緒に過ごした青森での濃い4日間は、その後の私の人生に強いインパクトを与えてくれることになったのは言うまでもない。
大げさなようだが、本当にそうなのだ。
音楽と向き合う彼らの真摯な姿勢を間近に見て、私の中で音楽と対峙していく覚悟が産まれた瞬間だった。
そういう意味でも彼らは私の救世主のようなもの。
この出会いがあっただけで私の2012年は意義深かったと断言できる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/7e/ff2f5e247f43794580def157cf18e7a6.jpg)
マシュー(左)とビル
ライブ前のひととき、青森のお寿司屋さんで最高においしいお寿司とお酒を共にした。
「おいしいお酒飲んだからふたりともノミネートされたんじゃない?とすると、私はエンジェル?」とジョークでお祝いメールを送ると、
「そのとおり。また行かなくちゃ」「君はエンジェルだよ」とふたりから次々と返事が返ってきた。
さぁ、来年一緒に行くのは誰だ???
ビル・シムズ・ジュニア
いつも素敵なボルサリーノを被ってスタイリッシュな紳士。
かと思えば、必ずあちこちに忘れ物をしてくる、おっちょこちょいでおちゃめな人。
私がJazzを歌っていると知ると、いろいろと熱心に教えてくれた。
忘れられないのは、明日シカゴに帰るという前夜、ライブの打ち上げが終了したあと部屋に忘れ物を届けに行ったら、まぁまぁこれを聞いていけといってコルトレーンやジョニー・ハートマンのCDを聴かせてくれたことだ。
そればかりか、3日間のライブで自分が疲れているはずなのに、そんなことはおかまいなしで外が白々と明けるまで熱心にフェイク(即興)の指導をしてくれた。
そのときにいただいたのが、件のグラミーノミネートアルバム『And Still I Rise』。
ブルースにゴスペル色を盛り込んだ、ブラックミュージックのルーツともいえる奥深い作品だ。
一生大切な宝物。
マシュー・スコラー
彼のハーモニカには、他のハーピストとはちがう魂が宿っている気がする。
「黒人ではないブルースマン」であることへの違和感を感じることがあるか?という不躾な質問を以前彼にしたことがあったが、
彼はその質問の意図をきちんと受け止めてくれて、「他人がどう考えようが自分のことを見ようが気にしないことにしたのさ」と答えてくれた。
「自分はあくまでブルース・アーティスト。ルリーのようなブルース・マンじゃない」という言葉を象徴したのが、今回の作曲家としてのノミネートだった。
近年ではプロデューサーとしての活躍もめざましい。ブルースマンであり、できるビジネスマンでもある。
彼は“ブルース”という伝統的かつアナーキーな世界を正しく継承していくための自分の役割をきちんとわきまえている人だと感じた。
彼のような人が存在するからこそ、ブルースはすたれずに後世に伝えられていくのだと思う。
★ ★
グラミーといえば。
今月はこんな人たちのライブを見に行った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/35/0eeb38cc16b0672fe965cb7fad7417c0.jpg)
Irma Thomas(アーマ・トーマス)
ニューオリンズの誇る、ソウル&ブルース歌手。
その昔、ニューオリンズに毎年遊びに行っていた頃、一度だけ彼女の経営する「ライオンズ・デン」というライブハウスに意を決して行ってみたことがある。
小さい小屋といった感じの粗末なライブハウスだったが、彼女が出てきたらなんだか空気が一変したことを覚えている。
この店はハリケーン「カトリーナ」で全壊し、今はもうないが、そのおかげと言ってはなんだが、彼女はこうやっていろんな都市でその存在感を改めて示すことになった。
この夜のステージのセットリストはほとんどなし。
お客さんのリクエストのみに彼女が応えて歌っていく、質の高い1時間半だった。
シカゴやメンフィスあたりの、力任せに歌うブルースシンガーと違って、彼女は丁寧に言葉を紡いでいく。そしてその声は限りなく力強い。
"I sing to the people, for the people, not above the people." (聴いてくれる人に向かって、その人たちのために歌うの。決して聴かせようとするんじゃないわ。)
この夜一番印象的な言葉だった。
"I try to sell the story of the song, more than trying to prove to everybody that I can hit a high note above C." "When you think of songs you enjoy, there is a story or a couple lines that you relate to for whatever reason. So I wouldn't want to take away from the story being told," Thomas said (Chicago Tribune Interview.)
彼女は2012年、ブルース・ファウンデーションの選ぶ「Soul Blues Female Artist」にノミネートされている。
★
12月23日
取材でシカゴにでかけたついでに、久々にJAZZクラブの老舗「Green Mill」へ行ってみた。
お目当てはこの方。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/ac/038b9f07a7fada63b7fc54e0e02951f9.jpg)
Kurt Elling ベースはClark Sommers
ご存知、シカゴが生んだ今一番人気の男性ジャズシンガーだ。
数年前のJazz Festivalで彼のパフォーマンスは見ていたが、今度はどうしてもライブハウスで見てみたかった。
8時からのステージに間に合うように7時半過ぎに行くと、はるかステージのほうは人の頭しか見えない状態。
やっぱりこの人の人気はただものじゃなかった。
ちょうど私と同じタイミングで店に入った男性がどうやら前方に席を確保していたらしく、人ごみをどんどん押しのけて前へ進んでいったので、彼の連れのようなふりをして後をついていき運よくステージの前へたどりつくことができた。
偶然にも彼の大ファンだというシンガー仲間のリンダにもばったり遭遇。
彼のステージは一言で言うと、“贅沢な大人のためのショウ”。
ジョークで場内を沸かせ、お客さんの声にステージから反応して笑わせる。シカゴに帰ってきたこともあり、気分ものっていたのだろう。
シリアスな曲を情感たっぷりに歌ったかと思えば、全編スキャットばりのストーリーをコミカルに表情豊かに演じてくれる。
また選曲もJazzだけでなく、スティビー・ワンダーなどのPopsの名曲もオリジナルのアレンジで聴かせてくれ、特にキャロル・キングの『Far Away』にはじ~んときた。
こういう人たちをプロ中のプロと呼ぶのだろう。3ステージたっぷり見てもなお、もっと見たい、そう思わせてくれた。
2012年に見たJazzパフォーマンスのなかで、間違いなくNo.1のステージだった。
ギターはJOHN MCLEAN/Guitar(ジョン・マクリーン)
シカゴで活躍する名ギタリスト。
数年前参加したJazz Campで、ジャズ・ヒストリーをレクチャーしてくれた講師陣の一人だった。
この日もKurtとねっとりと絡んでいて、最高だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/f3/aada06712dbadc960493d4bf5e45652e.jpg)
ピアノは、Kurtが10年来組んでいる相棒、Laurence Hobgood
出すぎず、引きすぎずの加減が絶妙の、絶賛すべきピアニストだ。
Kurtは、アルバム『1619 Broadway: The Brill Building Project』で今年のグラミー賞の「Best Jazz Vocal Album」にノミネートされている。
![](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51SXDFeWCvL._SL500_AA300_.jpg)
グラミー賞発表は2013年の2月。今から楽しみだ。
最初は、この夏一緒に青森の「Japan Blues Festival」に行ったブルースマンのビル・シムズJr.(Bill Sims Jr.)のアルバム『And StillI Rise』が、今年のグラミー賞、ベストブルースアルバム賞にノミネートされたこと。
このアルバムは、彼がお嬢さんのChaneyらと結成しているグループ、“Heritage Blues Orchestra”が今年発表したもの。
彼自身が影響を受けてきたゴスペル、ブルース、Jazz、R&Bの要素と、古き良きブルースの原点がぎっしりと詰まった、素晴らしいアルバムだ。
また、このアルバムには同じくシカゴから青森に行ったマシュー・スコラー(Matthew Skoller)もハーモニカで参加しており、ダブルでめでたいニュースとなった。
ちなみに、マシューのお兄さん、Larry Skollerがこのアルバムのプロデュースを手掛けている。
![](http://ec2.images-amazon.com/images/I/51X%2BdWYJl1L._SL500_AA300_.jpg)
で、しばらくして今度はそのマシューも「ブルース・ファウンデーション」が選ぶ今年のベスト・ソングに(作曲者として)ノミネートされたというニュースが飛び込んできた。
どちらかというとPops寄りのグラミーとちがって、こちらはブルースに特化した賞、いわばブルースマンにとってはより栄誉な賞ともいえる。
そこでベストソングに選ばれるというのは、彼の作曲者としての実力を証明したことになる。
そしてこの曲『The Devil Ain't Got No Music』を歌うのは、あのルリー・ベル(Lurrie Bell)。
彼も、この夏おなじ時間を過ごした一人。
青森はやっぱり“ブルースの聖地”なのか?
私はただ彼らをシカゴから青森にお連れしただけのツアーコンダクターに過ぎないけれど、
彼らと一緒に過ごした青森での濃い4日間は、その後の私の人生に強いインパクトを与えてくれることになったのは言うまでもない。
大げさなようだが、本当にそうなのだ。
音楽と向き合う彼らの真摯な姿勢を間近に見て、私の中で音楽と対峙していく覚悟が産まれた瞬間だった。
そういう意味でも彼らは私の救世主のようなもの。
この出会いがあっただけで私の2012年は意義深かったと断言できる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/7e/ff2f5e247f43794580def157cf18e7a6.jpg)
マシュー(左)とビル
ライブ前のひととき、青森のお寿司屋さんで最高においしいお寿司とお酒を共にした。
「おいしいお酒飲んだからふたりともノミネートされたんじゃない?とすると、私はエンジェル?」とジョークでお祝いメールを送ると、
「そのとおり。また行かなくちゃ」「君はエンジェルだよ」とふたりから次々と返事が返ってきた。
さぁ、来年一緒に行くのは誰だ???
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/c8/a113c7102e126d23a717325e3ae4d22f.jpg)
いつも素敵なボルサリーノを被ってスタイリッシュな紳士。
かと思えば、必ずあちこちに忘れ物をしてくる、おっちょこちょいでおちゃめな人。
私がJazzを歌っていると知ると、いろいろと熱心に教えてくれた。
忘れられないのは、明日シカゴに帰るという前夜、ライブの打ち上げが終了したあと部屋に忘れ物を届けに行ったら、まぁまぁこれを聞いていけといってコルトレーンやジョニー・ハートマンのCDを聴かせてくれたことだ。
そればかりか、3日間のライブで自分が疲れているはずなのに、そんなことはおかまいなしで外が白々と明けるまで熱心にフェイク(即興)の指導をしてくれた。
そのときにいただいたのが、件のグラミーノミネートアルバム『And Still I Rise』。
ブルースにゴスペル色を盛り込んだ、ブラックミュージックのルーツともいえる奥深い作品だ。
一生大切な宝物。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/3a/05de9eb6e5b76d4e2089c52d870742fa.jpg)
彼のハーモニカには、他のハーピストとはちがう魂が宿っている気がする。
「黒人ではないブルースマン」であることへの違和感を感じることがあるか?という不躾な質問を以前彼にしたことがあったが、
彼はその質問の意図をきちんと受け止めてくれて、「他人がどう考えようが自分のことを見ようが気にしないことにしたのさ」と答えてくれた。
「自分はあくまでブルース・アーティスト。ルリーのようなブルース・マンじゃない」という言葉を象徴したのが、今回の作曲家としてのノミネートだった。
近年ではプロデューサーとしての活躍もめざましい。ブルースマンであり、できるビジネスマンでもある。
彼は“ブルース”という伝統的かつアナーキーな世界を正しく継承していくための自分の役割をきちんとわきまえている人だと感じた。
彼のような人が存在するからこそ、ブルースはすたれずに後世に伝えられていくのだと思う。
★ ★
グラミーといえば。
今月はこんな人たちのライブを見に行った。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/4a/a978a6d1188d5f2e0234b4783842d57c.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/03/35/0eeb38cc16b0672fe965cb7fad7417c0.jpg)
Irma Thomas(アーマ・トーマス)
ニューオリンズの誇る、ソウル&ブルース歌手。
その昔、ニューオリンズに毎年遊びに行っていた頃、一度だけ彼女の経営する「ライオンズ・デン」というライブハウスに意を決して行ってみたことがある。
小さい小屋といった感じの粗末なライブハウスだったが、彼女が出てきたらなんだか空気が一変したことを覚えている。
この店はハリケーン「カトリーナ」で全壊し、今はもうないが、そのおかげと言ってはなんだが、彼女はこうやっていろんな都市でその存在感を改めて示すことになった。
この夜のステージのセットリストはほとんどなし。
お客さんのリクエストのみに彼女が応えて歌っていく、質の高い1時間半だった。
シカゴやメンフィスあたりの、力任せに歌うブルースシンガーと違って、彼女は丁寧に言葉を紡いでいく。そしてその声は限りなく力強い。
"I sing to the people, for the people, not above the people." (聴いてくれる人に向かって、その人たちのために歌うの。決して聴かせようとするんじゃないわ。)
この夜一番印象的な言葉だった。
"I try to sell the story of the song, more than trying to prove to everybody that I can hit a high note above C." "When you think of songs you enjoy, there is a story or a couple lines that you relate to for whatever reason. So I wouldn't want to take away from the story being told," Thomas said (Chicago Tribune Interview.)
彼女は2012年、ブルース・ファウンデーションの選ぶ「Soul Blues Female Artist」にノミネートされている。
★
12月23日
取材でシカゴにでかけたついでに、久々にJAZZクラブの老舗「Green Mill」へ行ってみた。
お目当てはこの方。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/ac/038b9f07a7fada63b7fc54e0e02951f9.jpg)
Kurt Elling ベースはClark Sommers
ご存知、シカゴが生んだ今一番人気の男性ジャズシンガーだ。
数年前のJazz Festivalで彼のパフォーマンスは見ていたが、今度はどうしてもライブハウスで見てみたかった。
8時からのステージに間に合うように7時半過ぎに行くと、はるかステージのほうは人の頭しか見えない状態。
やっぱりこの人の人気はただものじゃなかった。
ちょうど私と同じタイミングで店に入った男性がどうやら前方に席を確保していたらしく、人ごみをどんどん押しのけて前へ進んでいったので、彼の連れのようなふりをして後をついていき運よくステージの前へたどりつくことができた。
偶然にも彼の大ファンだというシンガー仲間のリンダにもばったり遭遇。
彼のステージは一言で言うと、“贅沢な大人のためのショウ”。
ジョークで場内を沸かせ、お客さんの声にステージから反応して笑わせる。シカゴに帰ってきたこともあり、気分ものっていたのだろう。
シリアスな曲を情感たっぷりに歌ったかと思えば、全編スキャットばりのストーリーをコミカルに表情豊かに演じてくれる。
また選曲もJazzだけでなく、スティビー・ワンダーなどのPopsの名曲もオリジナルのアレンジで聴かせてくれ、特にキャロル・キングの『Far Away』にはじ~んときた。
こういう人たちをプロ中のプロと呼ぶのだろう。3ステージたっぷり見てもなお、もっと見たい、そう思わせてくれた。
2012年に見たJazzパフォーマンスのなかで、間違いなくNo.1のステージだった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/67/28989d6f119d64f197f653c5dae53a8a.jpg)
ギターはJOHN MCLEAN/Guitar(ジョン・マクリーン)
シカゴで活躍する名ギタリスト。
数年前参加したJazz Campで、ジャズ・ヒストリーをレクチャーしてくれた講師陣の一人だった。
この日もKurtとねっとりと絡んでいて、最高だった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/74/f3/aada06712dbadc960493d4bf5e45652e.jpg)
ピアノは、Kurtが10年来組んでいる相棒、Laurence Hobgood
出すぎず、引きすぎずの加減が絶妙の、絶賛すべきピアニストだ。
Kurtは、アルバム『1619 Broadway: The Brill Building Project』で今年のグラミー賞の「Best Jazz Vocal Album」にノミネートされている。
![](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51SXDFeWCvL._SL500_AA300_.jpg)
グラミー賞発表は2013年の2月。今から楽しみだ。