shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

The Scene Changes / Bud Powell

2010-01-16 | Jazz
 “ブルーノートの1500番台” といえばジャズ・ファンの間では泣く子も黙る名盤の宝庫と言われている。すべてのジャズ・レーベルの中で断トツの人気を誇るブルーノート・レーベルの中でも特に1955~57年頃に録音されたものに歴史的な大傑作アルバムが集中しており、それらのレコード番号が1500番台だったということだ。しかしその呼称がいつの間にか独り歩きし始め、オークションでの価格も 1500番台というだけで付加価値が付き、アホみたいに高騰するようになってしまった。確かに超の付く歴史的名盤がゴロゴロしているし好きな盤も多いが、世間はあまりにも “栄光の(?)1500番台” を神格化というか、過大評価しすぎだと思う。
 そんな私がブルーノートの中で私が最も愛聴しているのは1500番台に続く4000番台の最初の頃(←1600番台は既にシングル盤で使われていたので不可、しゃーないので移転したばかりの新オフィスの電話番号に因んで4000番台にしたらしい...)、時期的に言うと1958年から60年頃に録音された盤である。ちょうどジャズがヒップな音楽として大衆に受け入れられ始めたのがこの4000番台シリーズ開始の頃で、昨日取り上げたアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの「モーニン」(BLP 4003)がその切り込み隊として大ブレイクしたというワケだ。単なる数字の連続の区切りに過ぎない1500番台や 4000番台に何となく固有のイメージがあるのは、ちょうど昭和歌謡や平成J-Popsのようにその時代の空気を敏感に反映してのものと言えるかもしれない。
 そんな4000番台アタマの盤で私が大好きな1枚がバド・パウエルの「ザ・シーン・チェンジズ ~ジ・アメイジング・バド・パウエル・第5集~」(BLP 4009)である。そもそもこのパウエルという人は “ジャズ・ピアノ・トリオ・スタイルの創始者” と言われる超大物で 1940年代後半から50年代初めにかけて緊張感に満ちたスリリングなプレイを聴かせていたが、その後は精神疾患による入退院を繰り返し、そのせいか50年代中盤以降は好不調の波が激しくなり晩年なんかはボロボロのプレイもなくはない。このあたり、同じように天国と地獄を味わった天才レスター・ヤングとイメージがダブってしまうのだが、彼に「プレス・アンド・テディ」という晩年の名盤があるように、パウエルにも「ザ・シーン・チェンジズ」という超人気盤があるのだ。
 このアルバムは1958年録音ということで、初期の “ピアノ・プレイング・マシーン” みたいなパウエル(←コレも大好きなんやけど...)とは別人のような、人間味を感じさせるハート・ウォーミングなプレイが楽しめる。中でもCMに使われるほどの人気曲①「クレオパトラの夢」のエキゾチックなメロディー・ラインは絶品だ。ポール・チェンバースのベースとアート・テイラーのブラッシュが生み出す盤石のリズムに乗って、時には唸り声を上げながら気持ち良さそうに歌心溢れるプレイを連発するパウエルが素晴らしい(^o^)丿
 私は名盤と駄盤の違いはアルバム中の名曲含有率だと信じている。私の経験ではジャズでもロックでもお目当ての1曲を頼りにアルバムを買って聴いてみると他の曲は???... みたいなパターンが結構多い(←そういう意味でもビートルズって傑出してますね!)のだが、この「ザ・シーン・チェンジズ」は①以外の曲もキャッチーでスインギー、親しみやすいメロディーに溢れた全9曲ハズレなしという非常に稀有なアルバムなのだ。このレコードはパウエルがヨーロッパへ移住する直前に吹き込んだということで、B面曲のタイトル⑥「クロッシング・ザ・チャネル」、⑦「カミング・アップ」、⑧「ゲッティン・ゼア」、⑨「ザ・シーン・チェンジズ」(海峡を越え→新天地に近づき→そこに着いたら→景色が変わる)を見れば一目瞭然なように、パリへの憧憬で心底ウキウキ気分だったのではないか。必殺の①も聴きようによってはシャンソンの「枯葉」をパウエル的に高速回転させたようなモンやし...(笑)。全体的に日本人好みのマイナー調の曲が多いが、どこか溌剌としていて躍動的な感じがするのはそのせいかもしれない。
 とにかくこのアルバムはピアノ・トリオというフォーマットの一つの理想形と言ってもいいくらいのスインギーな演奏が楽しめる。小難しいジャズが大嫌いな私がロック/ポップス・ファンにも絶対の自信を持ってオススメできる、メロディー良し、リズム良し、演奏良しと3拍子揃ったピアノ・トリオ・ジャズの金字塔だ。

Cleopatra's Dream - Bud Powell Trio

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