shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

【60's ヘレン・メリル】「The Artistry Of Helen Merrill」「Bossa Nova In Tokyo」

2024-07-14 | Jazz Vocal

①The Artistry Of Helen Merrill
 この「ジ・アーティストリィ・オブ・ヘレン・メリル」はエマーシー/マーキュリー・レーベルを離れたヘレン姐さんが1965年に Mainstream Records というマイナー・レーベルからリリースしたレコードで、世界各国の民謡やポピュラー・ソングを歌ったいわゆる “企画アルバム” である。
 チャーリー・バードのバッキングの妙を楽しめるボサ・ノヴァの名曲A①「クワイエット・ナイツ」やアニマルズの名演で知られるA④「朝日のあたる家」、翌年リリースする「シングス・フォーク」でも再演するほどのお気に入り曲B③「五つ木の子守歌」や普通のジャズ・シンガーなら取り上げそうにないポピュラー・ソングB④「禁じられた遊び」など、実にヴァラエティーに富んだ選曲に驚かされるが、幅広いジャンルの曲を自分の色に染め上げて聴かせてしまうヘレン姐さんの面目躍如といえる内容だ。
 そんな中でも私の一番のお気に入りはA②「ケアレス・ラヴ」。これは元々アメリカ南部の民謡からW.C.ハンディがアダプトしたブルース曲だったものだが、このトラックではキーター・ベッツのウォーキング・ベースをバックに見事な歌声を聴かせるヘレン姐さんが実にカッコ良いのだ。
彼女は日本ではほとんどの場合 “ジャズ・シンガー” にカテゴライズされているのに対し、海外ではシナトラのようにジャズもポピュラーも歌える “キャバレー・シンガー” という捉え方をされることが多いのだが、このアルバムを聴けばそれも大いに納得させられる... まさにそんな1枚なのだ。
Careless Love


②Bossa Nova In Tokyo
 ヘレン・メリルは1966年から1972年まで日本に住んでいたほどの親日家で、「ヘレン・メリル・イン・トウキョウ」(1963)を皮切りに「ヘレン・メリル・シングス・フォーク」(1966)、「オータム・ラヴ」(1967)など、キングやビクターといった日本の会社からレコードをリリースしていたが、そんな “日本制作盤” の中で私が断トツに好きなのが「ボサ・ノヴァ・イン・トーキョー」(1967)だ。
 このレコードで彼女はA①「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、A②「イパネマの娘」、A③「いそしぎ」、A⑤「黒いオルフェ」、B②「ハウ・インセンシティヴ」、A⑩「おいしい水」といったボサ・ノヴァの定番曲を中心に、A⑥「夢は夜ひらく」(園まり)やB⑥「信じていたい」(西田佐知子)といった当時の歌謡曲、そして何とビートルズのB⑪「イエスタデイ」までもボッサ化しているのだ。
 で、その「イエスタデイ」だが、これが結構エエ感じ。ビートルズをカヴァーする場合、オリジナル・ヴァージョンが素晴らしすぎるが故にアレンジをしっかり工夫しないと悲惨な結果に終わってしまうことが多いが、メリル姐さんの「イエスタデイ」はボッサのリズムで換骨奪胎してあるだけあって一味違う「イエスタデイ」に仕上がっている。エンディングの “mmmm... yesterday♪” は前年の武道館公演を思い起こさせる。
 ボッサ・スタンダード曲はどれも素晴らしい出来だが、敢えて1曲選ぶとすれば「黒いオルフェ」だ。物憂げなヘレンのヴォーカルを際立たせる渡辺貞夫クインテットの哀愁舞い散る歌伴に涙ちょちょぎれる。ガチのボサ・ノヴァ・マニアの人達から見たらこのアルバムなんか雰囲気だけボサ・ノヴァを真似た “邪道” と言われるかもしれないが、ボサ・ノヴァ門外漢の私にとってはこれくらいがちょうど良いのだ。
イエスタデイ

黒いオルフェ