今日は久々に八代亜紀だ。今年の夏は音壁→さらシベ→小林旭→坂本冬ミン→八代亜紀という流れで一時期演歌ブログ化していたのだが、そんな彼女がこの10月にリリースしたばかりの本格的なジャズ・アルバムがこの「夜のアルバム」である。「八代亜紀と素敵な紳士の音楽会 ~LIVE IN QUEST~」のところでも書いたように、彼女はそのルーツにブルースやジャズが混じっているせいもあって有象無象の正統派演歌歌手とは激しく一線を画す存在で、その唯一無比なハスキー・ヴォイスはまさにジャズ・ヴォーカルにうってつけなので、こういう企画は私としては大歓迎(^o^)丿 CD発売前から YouTube にアップされた「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」を聴いて大いに盛り上がっていたのだが、一つだけ引っ掛かることがあった。プロデューサーがよりにもよって私の大キライな小西康陽なのだ。八代亜紀の大ファンである私にとってコレは由々しき問題である。
森丘祥子タンの「夢逢え」の時にも彼の事をボロクソに書いたが、とにかく私は彼の作るピント外れで押しつけがましいサウンドが生理的に無理。音楽ファンなら誰でも “こいつの作る音はどうしても好きになれへんな...” というプロデューサーが一人や二人はいると思うが、私の場合は彼がまさにその天敵なのであり、よりにもよって亜紀姐さんのアルバムに関わっているとは...(>_<) ということで私は期待半分不安半分の複雑な気持ちでこのCDを購入した。
まず目を引くのはそのジャケットだ。中央に大きく写った真空管マイクといい、右上に配された EmArcy のドラマー・ロゴといい、ジャズ・ヴァーカル史上屈指の大名盤「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」のパロディーであることは一目瞭然である。モノクロのジャケットというのも強烈にジャズを感じさせるし、女囚さそりみたいな表情(?)で佇む姐さんも雰囲気抜群だ。ただ、ここまでやるならヘレン・メリルみたいに苦悶の表情を浮かべて大口を開けて歌っている姿をフィーチャーして欲しかったところ。めっちゃ絵になると思うねんけどなぁ...
アルバムの1曲目を飾るのは①「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」だ。ジャズ・スタンダードの中で一番の得意曲をトップに持ってきたわけだが、彼女がこれまで歌い慣れてきたジュリー・ロンドン・ヴァージョンの高速アレンジとは趣きをガラリと変え、テンポをグッと落としてダブルベースとフィンガースナップをバックに渋~い歌声を聴かせてくれる。コレ、めちゃくちゃカッコエエわ(^o^)丿 ブルージーな味わいを醸し出すハスキー・ヴォイスが曲にバッチリ合っているし、演歌歌手とは思えない抜群のリズム感にも唸ってしまう。ただ、0分45秒から彼女のヴォーカルに覆いかぶさるようにまとわりついてくるアルト、いくら何でも歌伴でこの入り方はないわ(>_<) ハッキリ言って邪魔である。間奏のアルト・ソロまで待てんかったんか...
八代亜紀 - フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン (short clip)
この後は②「クライ・ミー・ア・リヴァー」、③「ジャニー・ギター」、④「五木の子守唄~いそしぎ」、⑤「サマータイム」、⑥「枯葉」と暗~い雰囲気のスロー曲が続くのだが、いくら「夜のアルバム」というタイトルでも、こんなネクラな曲を立て続けに5曲も聴かされたらウンザリしてしまう。以前音聴き会G3で「ラウンド・ミッドナイト」の名演を探せ!と題して各自持ち寄った音源を9曲連続で聴いてゲンナリした覚えがあるのだが、まさにあの時と同じような感覚だ。とにかく一体何なん、この単調な流れは??? いっその事、お香でもたいてチーンと鐘でも鳴らしたろかと思ってしまうようなアホバカ選曲配列だ。
おそらくジュリー・ロンドンの代表曲②、ペギー・リーの代表曲③、更にヘレン・メリルの「シングス・フォーク」に入ってた「五木の子守唄」と松尾和子の「夜のためいき」(←アルバム・コンセプトの元ネタか???)の1曲目に入ってた「いししぎ」のメロディーが何となく似てるから強引にくっつけてメドレー④に仕立て上げ(←取って付けた様なイントロとアウトロの安っぽいストリングス・アレンジが最悪...)、後は超有名スタンダードの⑤⑥と並べてA面一丁上がり、という感じなのかもしれないが、もしそうだとしたら小西はリスナーをナメてるとしか思えない。亜紀姐さんの出来が良いだけにプロデューサーの人選ミスが本当に悔やまれる。
しかし、ジュリー・ロンドンの「ラテン・イン・ア・サテン・ムード」に入っていた隠れ名曲⑦「スウェイ」でこのアルバムは一気に生気を取り戻す。八代亜紀とラテンっていうのも意外な組み合わせだが、これがもう相性抜群でめっちゃエエ感じなのだ。まぁ彼女はマーティ・フリードマンとヘビメタ共演してしまうほどの懐の深さを持った偉大なシンガーなのだから驚くにはあたらないのかもしれないが、それにしてもコンガをフィーチャーしたバックの演奏にのってしなやかにスイングする姐さんは最高にクールでカッコイイ(^o^)丿
⑦と並ぶ最愛聴トラックがりりィのカヴァー⑧「私は泣いています」だ。アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズやホレス・シルバー・クインテットのような往年のファンキー・ジャズを想わせるイントロ、ドスドスと大股で切り込んでくる剛音ベース、絶妙なタイミングでヴォーカルに絡みつくオブリガートと、まさにいいことずくめの1曲なのだ。彼女のヴォーカルも強烈にスイングしており、これが八代亜紀のジャズだ!と啖呵の一つでも切りたくなるようなキラー・チューンになっている。ジャズ・ファンは陰々滅々たるスロー曲を飛ばして①→⑦→⑧の順で聴くと幸せな気分になれること請け合いだ。
⑨「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」は小西お得意のサバービアなアレンジが鼻につくが、この昭和歌謡屈指の名曲を水を得た魚のようにスイングさせる姐さんのヴォーカルが痛快だ。青江三奈のアルバム「グッド・ナイト」収録ヴァージョンとのハスキー比べも楽しい。⑩「再会」はさっき書いたようにアルバム・コンセプトを拝借した松尾和子へのオマージュだろう。ところで今気付いたのだが、B面(?)に入って昭和歌謡の名曲が続くのは由紀さおり&ピンク・マルティーニの「1969」を意識してのことだろうか? 笠井紀美子のボッサ歌謡⑪「ただそれだけのこと」は完全に換骨奪胎され、グルーヴ感溢れる “八代亜紀のジャズ” になっているところがいい。聴く者の心にビンビン響くその歌声はまさに “ザ・ワン・アンド・オンリー” だ。そして“歌謡サイド(?)” のシメは何故か⑫「虹の彼方に」という、最後まで迷走しまくりの選曲だが、そんなハンデをものともせずに貫禄のヴォーカルを聴かせる姐さんはもうさすがという他ない。
今回のアルバムは私にとって愛憎相半ばする1枚になってしまったが、次は是非ともジャズ・ヴォーカルの何たるかを熟知したマトモなプロデューサー / アレンジャーを起用して “本物の” ジャズ・ヴォーカル・アルバムを作って欲しい。ニューヨーク録音で、本場のクリスプなピアノトリオをバックに縦横無尽にスイングする八代亜紀を聴いてみたいものだ。
森丘祥子タンの「夢逢え」の時にも彼の事をボロクソに書いたが、とにかく私は彼の作るピント外れで押しつけがましいサウンドが生理的に無理。音楽ファンなら誰でも “こいつの作る音はどうしても好きになれへんな...” というプロデューサーが一人や二人はいると思うが、私の場合は彼がまさにその天敵なのであり、よりにもよって亜紀姐さんのアルバムに関わっているとは...(>_<) ということで私は期待半分不安半分の複雑な気持ちでこのCDを購入した。
まず目を引くのはそのジャケットだ。中央に大きく写った真空管マイクといい、右上に配された EmArcy のドラマー・ロゴといい、ジャズ・ヴァーカル史上屈指の大名盤「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」のパロディーであることは一目瞭然である。モノクロのジャケットというのも強烈にジャズを感じさせるし、女囚さそりみたいな表情(?)で佇む姐さんも雰囲気抜群だ。ただ、ここまでやるならヘレン・メリルみたいに苦悶の表情を浮かべて大口を開けて歌っている姿をフィーチャーして欲しかったところ。めっちゃ絵になると思うねんけどなぁ...
アルバムの1曲目を飾るのは①「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」だ。ジャズ・スタンダードの中で一番の得意曲をトップに持ってきたわけだが、彼女がこれまで歌い慣れてきたジュリー・ロンドン・ヴァージョンの高速アレンジとは趣きをガラリと変え、テンポをグッと落としてダブルベースとフィンガースナップをバックに渋~い歌声を聴かせてくれる。コレ、めちゃくちゃカッコエエわ(^o^)丿 ブルージーな味わいを醸し出すハスキー・ヴォイスが曲にバッチリ合っているし、演歌歌手とは思えない抜群のリズム感にも唸ってしまう。ただ、0分45秒から彼女のヴォーカルに覆いかぶさるようにまとわりついてくるアルト、いくら何でも歌伴でこの入り方はないわ(>_<) ハッキリ言って邪魔である。間奏のアルト・ソロまで待てんかったんか...
八代亜紀 - フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン (short clip)
この後は②「クライ・ミー・ア・リヴァー」、③「ジャニー・ギター」、④「五木の子守唄~いそしぎ」、⑤「サマータイム」、⑥「枯葉」と暗~い雰囲気のスロー曲が続くのだが、いくら「夜のアルバム」というタイトルでも、こんなネクラな曲を立て続けに5曲も聴かされたらウンザリしてしまう。以前音聴き会G3で「ラウンド・ミッドナイト」の名演を探せ!と題して各自持ち寄った音源を9曲連続で聴いてゲンナリした覚えがあるのだが、まさにあの時と同じような感覚だ。とにかく一体何なん、この単調な流れは??? いっその事、お香でもたいてチーンと鐘でも鳴らしたろかと思ってしまうようなアホバカ選曲配列だ。
おそらくジュリー・ロンドンの代表曲②、ペギー・リーの代表曲③、更にヘレン・メリルの「シングス・フォーク」に入ってた「五木の子守唄」と松尾和子の「夜のためいき」(←アルバム・コンセプトの元ネタか???)の1曲目に入ってた「いししぎ」のメロディーが何となく似てるから強引にくっつけてメドレー④に仕立て上げ(←取って付けた様なイントロとアウトロの安っぽいストリングス・アレンジが最悪...)、後は超有名スタンダードの⑤⑥と並べてA面一丁上がり、という感じなのかもしれないが、もしそうだとしたら小西はリスナーをナメてるとしか思えない。亜紀姐さんの出来が良いだけにプロデューサーの人選ミスが本当に悔やまれる。
しかし、ジュリー・ロンドンの「ラテン・イン・ア・サテン・ムード」に入っていた隠れ名曲⑦「スウェイ」でこのアルバムは一気に生気を取り戻す。八代亜紀とラテンっていうのも意外な組み合わせだが、これがもう相性抜群でめっちゃエエ感じなのだ。まぁ彼女はマーティ・フリードマンとヘビメタ共演してしまうほどの懐の深さを持った偉大なシンガーなのだから驚くにはあたらないのかもしれないが、それにしてもコンガをフィーチャーしたバックの演奏にのってしなやかにスイングする姐さんは最高にクールでカッコイイ(^o^)丿
⑦と並ぶ最愛聴トラックがりりィのカヴァー⑧「私は泣いています」だ。アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズやホレス・シルバー・クインテットのような往年のファンキー・ジャズを想わせるイントロ、ドスドスと大股で切り込んでくる剛音ベース、絶妙なタイミングでヴォーカルに絡みつくオブリガートと、まさにいいことずくめの1曲なのだ。彼女のヴォーカルも強烈にスイングしており、これが八代亜紀のジャズだ!と啖呵の一つでも切りたくなるようなキラー・チューンになっている。ジャズ・ファンは陰々滅々たるスロー曲を飛ばして①→⑦→⑧の順で聴くと幸せな気分になれること請け合いだ。
⑨「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」は小西お得意のサバービアなアレンジが鼻につくが、この昭和歌謡屈指の名曲を水を得た魚のようにスイングさせる姐さんのヴォーカルが痛快だ。青江三奈のアルバム「グッド・ナイト」収録ヴァージョンとのハスキー比べも楽しい。⑩「再会」はさっき書いたようにアルバム・コンセプトを拝借した松尾和子へのオマージュだろう。ところで今気付いたのだが、B面(?)に入って昭和歌謡の名曲が続くのは由紀さおり&ピンク・マルティーニの「1969」を意識してのことだろうか? 笠井紀美子のボッサ歌謡⑪「ただそれだけのこと」は完全に換骨奪胎され、グルーヴ感溢れる “八代亜紀のジャズ” になっているところがいい。聴く者の心にビンビン響くその歌声はまさに “ザ・ワン・アンド・オンリー” だ。そして“歌謡サイド(?)” のシメは何故か⑫「虹の彼方に」という、最後まで迷走しまくりの選曲だが、そんなハンデをものともせずに貫禄のヴォーカルを聴かせる姐さんはもうさすがという他ない。
今回のアルバムは私にとって愛憎相半ばする1枚になってしまったが、次は是非ともジャズ・ヴォーカルの何たるかを熟知したマトモなプロデューサー / アレンジャーを起用して “本物の” ジャズ・ヴォーカル・アルバムを作って欲しい。ニューヨーク録音で、本場のクリスプなピアノトリオをバックに縦横無尽にスイングする八代亜紀を聴いてみたいものだ。