蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

天路の旅人

2022年11月17日 | 本の感想
天路の旅人(沢木耕太郎 新潮社)

戦中から戦後にかけて、蒙古、チベット、インド、ネパールを、前半は軍の密偵として、終戦を知った後半は自らの意思で踏破した西川一三の旅とその後の人生を描く。

西川さんの旅程は、例えばヒマラヤを装備も持たずに9回も越えるというシビアなものだったが、日本に帰還してから自営業(化粧品の卸)を営むと、1月1日を除いて364日働く、昼食は364日同じ(カップラーメンとコンビニのおにぎり2個)というハードボイルド?な生活を送ったという。
この、判で押したような生活ぶりが、冒頭で描かれたこともあって強く印象に残った。

旅程の大半はラマ僧になりすまして、チベットやインドを巡るのだが、そうした地域では無一文で旅をしても托鉢や喜捨によってなんとか食いつなぐことができたという。むしろ食料を背負って歩くと負担になるので、あまり余剰をため込まないようにしていたらしい。
もしかしてその頃の日本は似たような社会だったのかも(お遍路さんとか。映画の砂の器の終盤の親子旅が思い浮かぶ)しれないが、見ず知らずの他者への優しさみたいなものが現代日本とは大違いだったんだ、と感嘆した。

とても長い旅行記なんだけど、沢木さんの叙述にかかると、各場面が映画のように脳内に再生されるような印象があって、全く飽きずに読める。もっと旅が続けばいいのに、と、ノンフィクションの感想とは言えない読後感が残った。

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