蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

酔って候

2009年08月16日 | 本の感想

酔って候(司馬遼太郎 文春文庫)

幕末に活躍した藩主四人(山内容堂、島津久光、伊達宗城、鍋島閑叟)を描いた短編集。

「竜馬がゆく」の感想でも書いたけれど、司馬さんは物語の登場人物への好き嫌いを、おそらく意識的に前面に出しているような気がする。

山内容堂と島津久光って、業績や人物の器にさして差がないように思えるけれど、本書においては、容堂は酒と詩を愛す英雄として描かれ、久光は(後嗣の人達が読んだら気を悪くしそうなほど)くそみそな扱いになっている。

二人が接触する場面として、京都での四賢侯の会議で旗色を鮮明にしない久光の態度にしびれを切らした容堂が久光を投げ飛ばすというのがある。
このシーンが容堂編でも久光編でも描かれている(「竜馬がゆく」にも出てくる)のだけど、これだって久光は戦略的にぐずを演じていたわけで、解釈のしようによっては容堂が単細胞な暴れん坊で久光は思慮深い人と、言えなくもないと思うのである。


さて、四編の中で小説として面白かったのは、「伊達の黒船」。主人公は宗城ではなくて宗城に蒸気機関の製造を命じられた市井の職人で、その苦労話なのだが、主人公の卑屈とも言える態度と、半面で工作に対する異常な執念との対比が、コントラスト豊かに描かれている。

歴史的知識として興味深かったのは「肥前の妖怪」で、これまで鍋島閑叟についての知識が全くなかったので、現代からタイムスリップしたかのような先見性と英明を持ち合わせた人がいたということに驚いた。
もっとも、そんな天才にもやっぱり欠点はあって、閑叟の場合は潔癖症がそれに当たる。トイレの後などの手水を何度も使わないと気がすまなかったそうで、正妻との初夜の後、何度も手を洗って妻に嫌われたというエピソードは笑えた。

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