蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

明日の子供たち

2018年06月03日 | 本の感想
明日の子供たち(有川浩 幻冬舎)

親元を離れて児童養護施設で暮らす奏子と久志は、職員の指示をよく守る優等生。彼らと施設の職員との関係性を中心に、養護施設とその周辺組織の現実を描く。

養護施設で暮らす児童が、世間から「かわいそうな子」と見られることに奏子は強く反論する。3度の食事ができて、過重な家事を強いられることも暴力を怖れることもなく、ちゃんと学校に行ける施設の方が、実親との同居生活よりはるかに恵まれている、と。

恥ずかしながら、私自身も施設での生活は「かわいそう」と思っていた一人だ。それは、施設に入る前の児童たちの過酷な体験や、実親こそが最大の脅威である子もいることに思いが至っていない証拠である。

その他にも、
①高校進学(学費負担を考えると事実上公立に限られる)ができないと、施設に留まることはできず、中卒で独立した生活を強いられる。だから、児童にとって高校受験は(一般の受験生に比べてより)シリアスな人生の試練である。

②施設にランドセルを寄付する人がいたことが話題になったりするが、(ランドセルを含め)必要なものについては、ちゃんと費用が支給されるので、寄付するときは、事前に必要なもの、時期を確認した方がよい、

③養護施設で暮らす子は選挙権を持たず、(選挙権を持っている)親との関係も薄いので、養護施設関係者の政治的発言力は弱い(=予算の確保が難しい)。

など、今までに知らなかったことを教えられた。①は、厳しいなあ。進学しなくても18歳までは施設で暮らせるようにすべきだと思った。

特にドラマチックな事件が起きるわけでもないドキュメンタリー的な内容で、SF/ミステリ系な感じの著者の他の作品とは毛色が違うなあ、と思っていたのだが、最後になって本書の執筆動機が明かされて)その理由がわかる部分は、どんでん返し的なキレがあって、ちょっと感動的だった。
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美しい星

2018年06月03日 | 映画の感想
美しい星

ニュース番組のレギュラー気象予報士:大杉(リリー・フランキー)は、予報が当たらないことで有名だったが、家庭は安定し、しかし若い愛人(番組のアシスタント)もいて何の不満もない生活を送っていた。
しかし、ある日突然啓示を得て、火星人(だったかな?)として目覚め、環境破壊を進める地球人たちに(番組中で)警告を始める。
やがて大杉の息子(亀梨和也)と娘(橋本愛)も水星人、金星人として覚醒するが・・・という話。

本作の監督の吉田大八さんは、「クヒオ大佐」「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」の監督でもあって、いずれも私としてはとても楽しめた作品だった。
特に後者2つは、原作とは異なる視点を取り入れていて、原作と映画で異なる味わいが楽しめました。

本作も(キャストが豪華ということもあり)期待したのですが、発想や筋立てが突飛すぎてついていけませんでした。

大杉の妻(中島朋子→マルチ商法にひっかかる主婦役)を含めて、ひとりひとりのエピソードは面白そうな部分もある(亀梨さんが長時間出演する映画を(多分)初めて見ましたが、俳優としてもいい感じでした。また、橋本さんを勧誘するチャらい広告研究会の学生役の人がよかった)のですが、なんというか、皆惑星人としてマジメすぎて、「何かオチがあるのでは?」という期待もかなわなくて、ちょっと残念でした。
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ハケンアニメ!

2018年06月03日 | 本の感想
ハケンアニメ!(辻村深月 マガジンハウス)

テレビアニメのプロデューサ、監督、原画担当(いずれも女性)のそれぞれの視点からアニメ制作やマーケティングの現場を描く。

「ハケン」というのは「派遣」のことで派遣社員であるアニメータの悲哀を描く、みたいな内容だと思って読み始めたのですが、実際は「覇権」でした。あるクールで放送されたアニメのうち、DVD等の売上?NO.1の作品を指すそうです。

本作の登場人物は、いずれも私生活は顧みず、ワーカホリック的に仕事に没頭しているのですが、3人ともアニメ自体が大好きなので、仕事しかない人生に疑問を感じたりすることはありません。

アニメ制作の現場委は、徹夜で仕事、が日常なのに(出来高制などのせいで)驚くような低賃金のブラックな職場らしいと聞きます。それなのに志望者がひきもきらないのは、現実の世界でも(本書の登場人物のように)仕事を趣味の延長(携われるだけで幸せで貰えるおカネには関心がない、みたいな)としてとらえているような人が多いせいなのでしょうか??
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きいろいゾウ

2018年06月03日 | 本の感想
きいろいゾウ(西加奈子 小学館文庫)

小説家のムコ(武辜歩)は、配偶者のツマ(妻利愛子)と、田舎の古い家に住んでいる。小説はあまり売れないので、ムコは近所の介護施設で働いている。
ムコの小説が売れ始めてプロモーションなどのために上京することになるが、東京には昔の恋人がいて・・・という話。

西さんの小説で読んだことがあるのは「漁港の肉子ちゃん」のみなのですが、タイトルとはウラハラに??これがとんでもない傑作でした。
「他の作品も読もうかな」と思っていたのですが、ちょうど「サラバ」などで人気爆発してしまったので何となく遠のいていました。

「漁港の肉子ちゃん」は、現実的な場面と幻想的な場面のバランスがよいのが特に気に入ったのですが、本作はやや後者の方に比重があって、章の間に挿入される「きいろいゾウ」の童話と相まってファンタジーに近いかな?という感じでした。
というか、終盤までツマはムコの想像上の(=自分の小説の登場人物)キャラなのかと思って読んでいました。

本作で気に入ったのは登場人物・動物につけられたあだ名で、
近所の、いつもズボンのチャックが全開のアレチさん(名字が荒地なので)
近所をうろつく野良犬=カンユさん(肝油ドロップ缶をかぶっていたことがあったので)
庭に侵入してくるチャボ=コソク(姑息なしぐさなので)
妻鹿(めが)さんの飼い犬=メガデス
あだ名じゃないけど、「モッツアレラ・バッカ」という品種のチーズをツマが「モッツアレラ・ばか」と(わざと)言い間違えるのも面白かった。
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