蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

西部戦線異状なし

2018年06月22日 | 本の感想
西部戦線異状なし(レマルク 新潮文庫)

最前線のドイツ兵の視点から第一次世界大戦の先頭の様相を描く。

昔、中学生の頃、どこかに旅行に行った帰りの新幹線の中で読み始めたら、面白くて(と言っては不謹慎かもしれないが)車中で読み終えた記憶がある。
その後、10年くらいしてもう1回読んだ覚えがあるが、内容はほぼ忘れてしまっていた。

本の整理をしていたら、本書の新潮文庫版(昭和61年の重版分)が出てきて、懐かしくしてまた読んでみた。

深刻な最前線の場面(特に塹壕や砲弾穴に籠って敵軍の砲撃をやり過ごす場面の迫真性がすごかった)と、休暇などで戦友たちとリラックスしてすごす場面のコントラストが非常に強くて、後者の場面はユーモラスですらある点が、本書の魅力の一つ。
戦闘場面や戦場の悲惨さばかりでなくて、兵士の日常生活なども紹介しているような戦記ものが私としては好みだ。

第一次世界大戦でドイツ軍は兵站を軽視し、栄養失調やそこから発生する病気で多くの兵力を失ったそうで、その反省から第二次世界大戦では補給を重視し、終戦直前でも食糧は(兵士の間では)豊富に出回ったそうである。
(脱線するが)この点に関して、宮崎駿さんが「ベルリン1945-ラストブリッツ」(梅本弘:著)という本の解説で興味深いことを書いているので、以下引用する。

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ドイツ人って戦争に向いているんです。普段からあんまりおいしいものを食べてないんですよね。日もちのいい堅いパンを食べているでしょ。焼きたてよりも、一週間くらいたったほうがうまいパンなんだよね。ところが日本軍って、飯を炊かなくちゃならいでしょ。飯を炊くだけで火が必要で、残った火でみそ汁を創る。あのころの日本人って、飯とみそ汁と漬け物だけでも良かったんだけど、それでも兵隊を食わせるのは大変なんですよ。硫黄島の洞窟陣地の奥でも飯を炊いてるんですよね。気温40何度、湿度100パーセントくらいの所で、それでも飯を炊いているんです。それから日本軍は、水を大量に運搬する容器を持っていなかったんですよ。一升瓶を使ってたんです。考えられないことでしょ?(中略)

第一次世界大戦のときのドイツ軍ってのは、日本軍そっくりだったんですね。飢餓状態だったんですよ。その反省で第二次世界大戦のときは、ドイツの兵隊には1日1.7キログラムの食糧をきちんと配給するっていうシステムをちゃんと作り上げてるんです。
これは要するに、包囲されてもドイツ軍部隊のなかで飢えによって降伏した部隊がなかったってことにつながっているんですよ。日本は第一次世界大戦を経験していないでしょ。だから装備もなにも日露戦争のまま行っちゃったんです。
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本書では、主人公(パウル・ボイメル)の戦友の一人(カチンスキー)が現地調達の達人で、どこからか食糧や嗜好品をくすねてきては主人公たちにふるまってくれる。それで、深刻な飢えに苦しむことはなかったことになっている。
このカチンスキーが終盤で戦死してしまう場面が本書のクライマックスで、ここを読んだときは、「ああ、中学生のころ読んだ時もここで感動したなあ。ちょうど新幹線が名古屋についたころだった」と、記憶がみずみずしくよみがえった。

訳者のあとがき(昭和8年に原作者をスイスに訪ねた際のエピソードが書かれている)からすると、本書が最初に出版されたのは(日本の)戦前なのだろうか?
確かに全般に言葉遣いは古びていて、特に違和感があったのは登場人物が時々江戸っ子っぽい口調になることだ。(あまりにミスマッチすぎて、逆に面白く読めたけど)
コメント
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