蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

帰郷

2018年06月16日 | 本の感想
帰郷(浅田次郎 集英社)

日本軍兵士を主人公にした短編集。

表題作の「帰郷」は、南方戦線で玉砕した部隊の生き残りの主人公が復員するが、故郷には帰らず、上野の売春婦に思い出を語る、という話。
故郷に帰らない理由は、「そりゃ確かに帰りにくいわな」と思える、痛切極まりないもの。ただし、実際にも割と会った事例だと聞いたことがある。
ではあるのだが、著者の手にかかるとどんなありふれた話でも涙を誘われるような小説になってしまうのだった。

「鉄の沈黙」は、孤立した砲兵部隊を描くもので、本書の中では唯一本格的な戦闘場面が描かれていて迫力があった。特に爆撃機から落ちてくる爆弾の見た目の描写が「なるほど」と思わせるものだった。
ただ、似たような話を松本零士さんの「戦場まんがシリーズ」で見たような気がする。(「戦場まんがシリーズ」では、敵は飛行機じゃなくて戦車で、大口径の高射砲を水平射撃する話だったかな??(うろ覚え))

「不寝番」は、タイムスリップもので、日本軍兵士と自衛隊員が夜中の当直中に自販機の缶コーヒーを飲む話。本作とは関係ないが、自衛隊内の自販機缶コーヒーの売上ってかなりのもんだろうなあ、と思った。

「金鵄のもとに」は、復員兵が銀座の街角である決断をする話。
これも本当にあった話に取材したものだろうか?そこまでやった人がいたとはなかなか信じられない。

「無言歌」は、二人の兵士が思い出を語り合う話。二人がどこにいるのか?がミソ。
コメント
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