殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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行いと運命・7

2019年11月22日 07時41分31秒 | 前向き論
マンモス霊園は、すぐにでも着工しそうな勢いだった。


霊園に必要なお寺と僧侶は義父が探し


その僧侶の希望で霊園の敷地内に


仏教系の幼稚園を開設することも決まった。



霊園や幼稚園を造るとなると、煩雑な認可申請が必要になる。


これらは元議員のE氏が、昔取った杵柄で引き受け


義父は金の工面を引き受けた。



金の工面といっても


大口の仕事を失ったばかりの義父に余裕があるはずもなく


銀行から借金を重ねては


出資の増額という形で金をつぎ込んだ。


また銀行も、E氏の作成した事業計画書が良かったのか


いくらでも金を貸した。



こうして2年が経った。


着工はまだだ。


来月には、いや再来週には‥という所まで来ると


認可の遅れや、東京だか大阪だかの大口出資者の急死で


あてが外れたことなどを理由に日延べとなる。


義父はそのたびに金を借り、出資を増額した。



我々夫婦は、すでにE氏を怪しんでいた。


金を借りてまでつぎ込むのは義父ばかりで


E氏は一銭も出してないからだ。


いや、一銭も出してないというのは言い過ぎかもしれない。


義父が出資の増額をするたびに


それはそれは立派な証書が増えていった。


この証書の印刷代はE氏持ちである。



仕事はいっこうに開始しない‥


出資のために借りた金の利息はかさむ‥


義父の焦りは募っていった。


加えて持病の糖尿病は悪化の一途をたどり


入退院を繰り返すようにもなった。



焦りと血糖値の作用で、義父は私に対し


ますます意地悪になっていった。


どうやって傷つけてやろうかと狙っているのが


同じ屋根の下でひしひしとわかった。



そんなある日、私は両親と義姉が座る部屋に呼ばれる。


ここへ招き入れられる時はロクなことがない‥


壷事件で学習した私は身構えるのだった。



部屋へ入った私に、義母はデパートの商品券を突き出した。


裸の商品券は、3万円分。


くれるのかと思ったら、違った。


何かの集まりで賞品が必要になり


会長の義父は商品券を出す担当になったという。



町内にあるデパートの出張所へ行き


もらい物の商品券を新しく包み変えてもらって来い‥


それが彼らの要望。


中元歳暮やゴルフの景品でよくもらう商品券は


今まで義母が自由に使っていたが


今回、賞品に使い回すことを思いついたようだ。



この発案は彼らにとって画期的らしいが


世間には通用しない。


商品券を含む金券にも法律がある。


商品券を販売したデパートが


客の持ち込んだ商品券を包み変えるのは


立派な不正行為だ。


絶対に無理。



それを説明して断ったが、彼らは納得しなかった。


「ただ、包み変えてもらうだけじゃないの。


何がいけないって言うの?」


「こいつは行きとうないだけじゃ!横着モンが!」



こいつら、どんだけアホなんじゃ‥


仮にも社長が、こんなことも知らないなんて‥


私は呆れると同時に


霊園に入れあげて会社の経営状態が悪化し


経費が切迫していることを確信した。


会社経営をしていたら、仕事に関係があろうと無かろうと


このような贈答品は接待交際費として計上できる。


しかし利益が出ていなければ経費で落とせないので


自腹を切るしかない。


それが惜しくて、こんなバカなことを思いついたのだ。



「親の頼みが聞けないの?」


「こげな簡単なことができんのか!」


義父母はなおもわめき立てるが


「じゃあ、もう頼まない!」とは言わない。


どうしても行かせたいらしい。



「簡単なら、お義父さんかお義母さんが行ってください。


お義母さんは出張所、大好きじゃないですか。


お義姉さん、連れて行ってあげたら?」


この騒ぎをニヤニヤしながら眺めている義姉の方を向いて


私は言った。



かわいい娘を引き合いに出されて緊張した義母は


ここでついに本音を漏らす。


「嫌よ!私らに恥をかかせる気?!」



恥ずかしいことだから、他人の私に行かせようとしたのだ。


いくら辛抱したところで、このありさま。


そのうち手が後ろに回るようなことを要求されるかもしれない。


こいつらは危ない‥。



彼らはなおも行けと言い続け


諦めそうにないので、ここは私が折れた。


出張所へ行き、自腹で新しく3万円の商品券を買ったのだ。


それを両親に渡し、最初に渡された商品券は


自分の物にすることにした。


この行為は親切や従順なんかではない。


彼らと家族であろうとした、それまでの自分への


餞別みたいなものである。




買った商品券を渡すと、単純に喜ぶバカ3名。


「本当にできたのね!」


「それみい!行ったらやってくれるんじゃ!


ワシは最初から知っとった!」


次からは自分たちで行くがいい‥


私は密かにほくそ笑んだが、次があったかどうかは


リサーチ不足で確認していない。



この件以降の私は、反抗的になった。


賢くない者に従う恐ろしさを思い知ったし


その賢くない者の経営する会社が


このまま続くとも思えなかった。


彼らの言うままに働いたって、私たちの時代は来ない。


だったら自身の心と身体を守ることに専念して


生き延びるしかないではないか。



我慢して頑張っていたら、いつか幸せになれる‥


何年もかけて膨らみ続けた淡い期待。


私の大部分はその期待で構成されていた。


それが消えた時、彼らを軽蔑の視線で眺めつつ


生返事をするだけの横柄な、本当の私が残った。




さんざんバカにしていた相手から


見下げられるようになると、よくわかるものらしく


彼らは嫁の変化を敏感にキャッチした。


反抗的な嫁を懲らしめるべく、意地悪はさらにひどくなった。



その意地悪の総仕上げとなったのが


夫の愛人を義父の会社に入れたことである。


何のことはない、夫が忘れた弁当を届けたら


以前から付き合っていた愛人が出てきて平然と受け取った。


34才の時だった。



一番悪いのは夫だとわかっている。


誘う方も誘う方だが、のこのこ来る方も来る方だとも思う。


しかし社長の義父が入社を許可し


事務をしていた義姉が各種の手続きをしなければ


彼女の入社は実現しない。


娘とツーツーの義母も、これを黙認したのは明白。


つまり愛人の入社は、家族ぐるみの犯行だった。


反抗的になった私は、家族ぐるみで報復されたのだ。



他人ごとならコントだが、当事者としては頭にくる。


家を出ようと決めた。


その直後、夫は愛人と駆け落ちするわ


義母の大腸癌が発覚するわで


家出は1年余り先延ばしになったが


私が家を出た後も、マンモス霊園の夢は継続した。


《続く》

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2 コメント

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Cさん… (いかどん)
2019-11-23 08:36:20
この時にあの事が…。
推理小説みたいなので 過去記事読み直して確認して、点と点が結ばれると、成る程!と密かに膝を打っている事をお許し下さい。m(_ _)m

行動から言うと 今の時代、何年も前の事などが表に出る事が多くなっている様なので、Cさんのその後も凄く興味深いです。
返信する
密かに膝打ち (みりこん〜いかどんさんへ)
2019-11-23 21:10:23
大歓迎です(笑)
過去記事まで遡ってくださって、ありがとうございます!

今の時代って、そうですよね。
やったことの結末が訪れる速度が
すごく早まってる。
Cさんのその後は、予定では次回か
長さの問題でもし無理だったら
その次に登場する予定です。
返信する

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