殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

人に振り回されない方法・4

2023年01月25日 13時20分38秒 | 前向き論
学校の授業以外では、初めてのバレーボール。

長身の私は最初からアタッカーに抜擢され、おっかなびっくり取り組むようになったが

そこそこ楽しかった。

監督が親戚というのもあり、小さい子供を連れて行っても

迷惑がられないチームに入ることができたのは、私にとって最大の利点である。


週に一度の練習に3回ほど参加した頃、Uさんという当時40代前半の女性が来た。

例の封建村で牛乳店を営んでいるそうで、忙しくて練習は滅多に出られないが

その日は久しぶりに参加したという話だ。

いかにも商売人の奥さんといった感じの、チャキチャキした人だった。


練習が終わると、Uさんは私に話しかけた。

「うちの牛乳を取ってくれない?」

聞けばチームの皆も、以前から彼女の店の宅配牛乳を取っているそうだし

うちも子供に牛乳を飲ませていたので、彼女の店から宅配してもらうことを快諾した。


Uさんは、さらに続ける。

「それから明日の夕方、用事であなたの住んでいる地区に行くんだけど

あんまり行ったことの無い場所だから、よくわからないの。

行く前にお宅へ寄るから、教えてもらえないかしら」

家だか道だかを教えるぐらい、何であろう。

わからないと言いながら、私の住むアパートは知っている矛盾には気づかず

二つ返事で承諾。


翌日の夕方、彼女はうちにやって来た。

「ここに住んでいる人に用があるのよ。

悪いけど付いて来てくれない?」

このアパートだとわかっているのなら、私が案内するまでもない矛盾には気づかず

子供を抱いて付いて行った。


…と、彼女はアパートのチャイムを次々と鳴らして、片っ端から牛乳の勧誘を開始した。

断る人もいれば、すんなり取る人もいる。

あれれ?と思いながらも、事態が飲み込めぬままUさんに付いて歩く私。


「みりこんさんの紹介なら、取ります」

やがてそう言う老夫婦が出現したので、私はびっくりして言った。

「紹介じゃないです、付いて来てと言われただけで…」

Uさんは「シッ!」っと言って私を遮ると老夫婦にパンフレットを渡し

どの牛乳がいいかと営業のクロージングに入った。


ようやく事態が飲み込めた私。

Uさんは、アパートで牛乳の勧誘をしたかったのだ。

住人の私が紹介するという恰好を装えば、商売がうまく行くからである。

前夜、初対面だったにもかかわらず、いかにも親しげなそぶりだったのはこれが目的…

夕方に約束したのは、住民が家に居る時間を狙ってのこと…

騙された…

私は頭を殴られたような衝撃をおぼえた。

しかしその時は、もう全室回った後の祭り。

Uさんはニコニコ、私は忸怩たる思いにかられたまま解散した。


以後、Uさんはバレーの練習に来なくなった。

彼女はチームに新人が入ったのを聞き、商売になると思って

その日だけ顔を出したと思われる。

封建村以外の地区に住む新人が入ったら、またひょっこり練習に来るのだろうが

私の後、新人が入ることは無かった。

ほとんど退部状態のUさんに、新しく入った私の名前や住所などの

細かい情報をわざわざ伝える人間がチームに存在するなんて

そしてそれがオバさんという生き物の習性だなんて、その時は考えが及ばなかった。


騙されただけで終われば、まだマシよ。

問題は、その後に起きた。

U牛乳店は勧誘と配達には熱心だが、集金はおざなりという悪癖があったのだ。


集金を毎月やらず、3ヶ月か4ヶ月に一度しか来ないので

牛乳を取った人々から、私に苦情が来るようになった。

何ヶ月分かを一度に払うのは、負担になるから困るという内容である。

牛乳屋の手先になった覚えは無いが、契約した人たちにとって私は手先と同じだ。

「みりこんさんの紹介だから信用していたのに…」

そう言われた時は悲しかったが、謝るしかなかった。


Uさんに抗議の電話をしようかと思ったが、声を聞くのもシャクにさわる。

しばらく躊躇していたら、当のUさんが集金に来た。

苦情を伝えると

「あなたが毎月集金して、うちへまとめて持って来てくれてもいいのよ」

サラッと言うので驚いた。

詐欺に遭ったような気分だ。

牛乳の宅配はその場で断り、残金を清算。

他の住人も徐々に宅配をやめ、彼女は私の近辺に現れなくなった。


「あんな店、じきに潰れるわい!」

私は腹立ち紛れにずっと思っていたが、あれから40年、Uさんと彼女の店は今も健在だ。

律儀な封建村の人々が取り続ける宅配と、病院や学校給食のお陰で細々と営業している。

現在もたまにひょっこり、彼女の悪い噂は耳にする。

やはり些細な詐欺的行為だったり、あとは嫁いびりの方面だ。


ともあれ何事も無かったように、私はママさんバレーを続けた。

「Uさんに騙された!もう誰も信じられないから辞めます!」

とでも言えば自分の気は済んだかもしれないが、たかだか牛乳程度で騒ぐのも恥ずかしく

誰かに話したところで、どうにかなるとは思わなかった。


なにしろ封建村なのだ。

死人が出ると、レンガ造りの小屋で遺体を焼き

時々裏と表をひっくり返しながら焼き加減を見るような所だ。

村人の結束は私が思う以上に強く、その中で先祖代々

現金を扱う商売をするUさんのような人は一種の特別扱いになっていて

何をしても看過される風潮があるのは、日頃からチームメイトの言動で感じ取っていた。

下手に騒ぐとこっちが悪者にされると思い、このことはチームの誰にも言わずに黙っていた。


2年後、私はキャプテンになった。

「若いんだから」

それを理由に押し付けられたが、いつもそう言われては用事が回ってくるので

別に何とも思わなかった。

親戚の監督は多忙という理由でとっくに辞め、違う監督に変わっていたが

それも別段どうということはなかった。

しかしキャプテンになった途端、難題が待ち受けていようとは思いもよらなかった。

《続く》
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