殿は今夜もご乱心

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綾も錦も…

2022年12月31日 16時47分09秒 | みりこんぐらし
『空蝉の 唐織衣なにかせん 綾も錦も君ありてこそ』

この和歌は徳川第14代将軍、徳川家茂(いえもち)の奥さん…

皇女和宮(かずのみや)が、旅先の大阪で病死した家茂を偲んで詠ったもの。

…うつせみの からおりごろも なにかせん あやもにしきもきみありてこそ…

「着る人もいない西陣織をどうしたらいいのかしら…

美しい衣装も、愛するあなたが居てくれたからこそです」

そんな意味かしらん。


時は幕末の動乱期。

詳しい人がいたら笑っちゃう説明になると思うが

武士が権力が持つようになって何百年、経済的に弱体化する一方の朝廷と

倒幕思想により、やはり弱体化する一方の将軍家が

婚姻関係を結んで難局を乗り切ろうぜ、という公武合体の方針が決まり

朝廷側から将軍家へお嫁に行ったのが、当時の天皇の妹である和宮。


和宮は早くから、同じ天皇家の男性との結婚が決まっていて

お互いにすっかりそのつもりだった。

しかし若い家茂との年齢や身分的なバランスから

将軍家に差し出すのは和宮しかいなかったため、彼女が嫁ぐことになった。

和宮も家茂も同い年、十代での結婚だったが

二人の相性は良好で仲睦まじく暮らしたと言われている。


家茂は性格が良かったものの身体が弱く、わずか数年の結婚生活の末

21才の若さで亡くなってしまう。

未亡人になった和宮の元へ、家茂の遺体と共に送られてきたのは

彼が京都で買い求めた彼女への土産、西陣織の反物であった。

和宮は、その悲しみを歌に詠んだというわけ。


「綾も錦も君ありてこそ」

この歌の存在を知った20年余り前、率直な愛らしさに胸を打たれたものだ。

夫に先立たれた妻の悲しみや切なさは、いかばかりだろう…

そんな思いを馳せはしたものの、まだ自分の身に重ね合わせるつもりはなかった。

邪恋に溺れる夫を横目に、「早く◯ね」ぐらいの気でいたからだ。


それから年月は流れ、実家の母、同居する義母…

伴侶に先立たれた妻たちが身近に出現し始めた。

彼女らの心もとない様子を見るにつけ、私はたびたび「綾も錦も…」の一節を思い出した。

あれは「悲しいから綺麗な衣装を着る気になんてなれないわ」といった

おしゃれにまつわるソフトな内容ではなく、遺された妻の慟哭なのだ。


「暑いね」、「寒いね」、「美味しいね」、「楽しいね」

そんな他愛のないことを言い合える相手を失うとは

生きる張り合いを失うことだと理解した私。

いつか自分も通る道だと思いながらも、ひと世代上の人たちのことであり

まだまだ先だとタカをくくっていた。


さらに年月は経過。

近年は年上のご主人と結婚した同級生が、ポツポツと伴侶に先立たれ始め

「綾も錦も…」が、少しずつ近づいてきたような気がしてきた。

この頃になると、それは切実な問題になっている。

「綾も錦も…」が、もしも義母の寿命より早く訪れたら、どうすりゃいいのさ。

今は夫と二人で対応しているが

あのワガママが服を着たような婆さんを、一人で面倒見る自信は無い。

「綾も錦も…」は、できるだけ先でお願いします…

私はそう祈るのだった。



そして先日、従姉妹のご主人の訃報を聞いて大ショック。

ご主人は、まだ70代になったばかりだった。

父が亡くなった年齢と近いこともあって、びっくりしたものだ。


従姉妹が結婚した頃、私は中学生だった。

優しい従姉妹のお姉ちゃんは、背の高い人と結婚したんだなぁ…と

ご主人を見上げて思ったものだ。

彼とはほとんど交流は無かったものの、仲の良い夫婦だったことは知っていて

ここしばらくは闘病中ということも年賀状で知っていた。

が、不死鳥のように再起して、これからも夫婦仲良くあちこちへ旅行しながら

幸せな老人時代を過ごすはずだと思い込んでいた。

残念でならない。


さらについ先日、夫の同級生が亡くなった。

奥さんは私より3才年下の、よく知っている子だ。

仲人が同じだったことから昔はよく会っていたので、これもショックだった。

我々夫婦だって、いつ何があってもおかしくない年頃だと実感。

「綾も錦も…」は、いよいよ接近してきたらしい。


思えば、つまらぬことを話して笑い合う相棒がいなくなると

誰が私のおしゃべりを我慢して聞いてくれようか。

そんな張り合いが無くなったら、ものすごく寂しいだろう。

その寂しさは、我が子や友だちでカバーできるものではない。

それを「かけがえのない」と表現するのだと思う。


心も寂しいけど、フトコロの方も寂しくなるぞ。

65才の今も現役で働く夫がいなくなったら、その日から食い詰めるではないか。

引退して年金だけの生活になっても、それは同じだ。

夫には感謝を込めて、この言葉を贈りたい。

「パンもごはんも君ありてこそ」



リュウ「綾も錦もどころか、アタシは選ぶ権利無しだわよ。

デカいから、服はこれしか売ってなかったもん」

パピ 「なによ!ボンレスハムみたい。

暑がりのアタシなんて、裸よっ」



毎年、義父の妹宅に届けている大晦日の夕食。

親戚に良くしてあげると夫が喜ぶので、作って持って行かせてる。

今年は特に手抜きで、オードブルの皿が埋まらないから焼き芋まで入れちゃった。

夕方この作業が終わると、1年が終わった〜!と思います。



今年も本当にありがとうございました。

どうかお健やかでお幸せな新年を迎えられますように。

来年もよろしくお願いいたします。
コメント (11)
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