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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

秘密の言葉・6

2017年03月01日 11時03分01秒 | みりこんぐらし
偶然の展開により、永井部長の執拗な干渉が止んで

夫は再び元気を取り戻した。

私は「国の為」が効いたと自画自賛し、夫は自身の強運を賛美する。

いずれにしても、田辺氏という援軍のお陰なのは確か。

夫はこの恩を仕事で返そうと張り切る。

こうなると面白いもので、仕事がどんどん入ってくる。


入ってきた仕事の中に、発注元がスーパーゼネコンという

本社の大好物が紛れていた。

これは都市部にある小さな建設会社、E社が下請けとなり

そこから依頼された仕事。

このことは本社に報告済みであった。


永井部長、おとなしくなったとはいえ

これだけは素通りできなかったらしい。

「E社の植村工事部長と僕は、兄弟のような付き合いです。

少し前に下話は済ませてありますが

僕は表には出ず、ヒロシ社に振りました」

役員の一人として我が社の予定表を見た彼は

取締役会議でこう付け加え、社内でも触れ回った。


「兄弟のような」は、彼の常套句。

今までに聞いただけでも、彼の「兄弟」が2ケタは存在する。

あとは「少し前に下話」と「表には出ない」で

縁の下の力持ちを装うのが彼の手口である。


永井部長は、得意満面で我が社にもやって来た。

「そういうわけだから、しっかりやってくださいね!」

しかし偶然の神は、ここにも降臨していた。

夫は無表情に答える。

「E社の植村は、ワシの従兄弟じゃ」


本当なのだ。

植村工事部長は義父アツシの妹の息子、カッちゃん。

年が一回り以上離れているので兄弟のようではないが

まぎれもない身内である。


「たまたま転がり込んできたけど

この手の工事はやったことがないけん、ようわからん」

カッちゃんは電話で夫に相談し、そのまま依頼された。

むやみに「兄弟」を増殖させると、こういうこともあるのだ。


驚いて固まる永井部長。

変わらず無表情の夫。

やがて永井部長の口が開かれた。

「そのこと、もう誰かに言った?」

そこかい‥。

「いや、誰も‥大丈夫よ、言わんけん」

夫が答えると、ゴニョゴニョ言いながらそそくさと帰って行った。


「腐り切っとるのぅ」

永井部長とは面識が無いことを

カッちゃんから聞いていた夫はあきれはて、私は私で

「ヤツの弱味を握った」

とほくそ笑んだ。



‥とまあ、全部話したら長くなるので、大半は省略して

ユリちゃんに話したわけよ。

「みりこんちゃん、自分の為から子供の為に進んで

親の為を過ぎたら、とうとう国まで行っちゃったのね‥」

「うん。

自分や子供や親の為って、対象が人じゃん。

誰かの為って、力は出るけど長続きせん。

人の為って書いたら“偽(にせ)”になるんよ。

誰かの為、為って、あんまり思ってると

どこかでニセ、イツワリが生じて行き詰まるんだと思う。

その点、国はいいよ ‥物だもん」

「人の為と書いて偽‥

これ、檀家さんに話してもいい?

私も人のことどころじゃないんだけど、悩んでる人がいっぱいいるのよ」

「いいよ〜、私も人から聞いたんだもん」

「国の為かぁ‥

私には子供も親兄弟もいないし、旦那はあんなだし

自分は何の役にも立たない人間だと思うと、すごくつらくてね。

でも、私にも存在価値があるんだと思っていいのかしら」

「何言うとんね。

お寺の奥さんとして、日本国民の心の平穏に大いに貢献しとるが。

モクネンの代わりにお経を唱える人はおるけど、ユリちゃんの代わりはおらん。

カリスマ性が必要な、特殊な職業じゃが」

「アハハ!そう考えるのね!」



隣ではけいちゃんが、マミちゃんを相手に

15年だか16年だか前に離婚した理由を延々と説明している。

別居の姑がウンヌン、嫁に行った小姑がカンヌン‥

年の離れた旦那は考えが古くて冷たかった‥

離婚の報告をするために帰省したら、親が私を離してくれなくて‥

大阪へ残した子供とは生き別れ‥

そりゃもう苦労に苦労を重ねてきた‥。


同級生の間では「天然」と呼ばれる、お嬢さん育ちのマミちゃん

ふん‥ふん‥と熱心に聞いている。

これをマンツーマンで聞き終え、内容に感動して賞賛の言葉を贈らなければ

けいちゃんから友達として認められない。

マミちゃん、やっと昇格か。

病院の厨房でけいちゃんと一緒に働いていた頃

私も繰り返し聞かされたので暗唱できる。


ちなみにユリちゃんには、まだ行われていない。

自分より厳しい環境の人には遠慮があるのか

お寺の娘でお寺の嫁のユリちゃんに、抹香臭いことを言われたくないからか

けいちゃんの方が避けている様子である。

「辛い時に受け入れてくれた親がいることに感謝したら?」

ユリちゃんに話すと優しく諭され、キレるに違いない。

一番楽しみな集いが変化したら困るので、安易に話さない方がいい‥

幹事の私は思っている。

《完》
コメント (4)
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